はる
「今日から春休みー」
「休みか。もうそんな時期か」
昨日終了式だったのである。
今日から正式に春休み開始であった。
「とりあえず宿題確認しとけよ」
「大丈夫だと思う」
「冬休みそう言いながら全く大丈夫じゃなかったんですがそれは」
「う、分かった。ちょっと見てくる」
部屋を出てすぐに戻ってくる千夏。
「とりあえず今回は本当に大丈夫」
「本当だろうな。また最終日近くに一気にやるのは勘弁願うぞ」
「数学あったけど、チマチマやってくことにするから問題ない」
「そうすか」
しばしの沈黙。
「ところで」
「ん」
「今日は髪結んでないんだね」
「ん、ああちょっとね」
「なんかあったの?」
「腕痛めたらしくてな。後ろで髪結ぶとこまで上がらないねんな」
「あら、それは」
「幸い掃除くらいはできそうなんだがね。ちと困りもの」
「というか最近よく体壊してない?」
「してるかもな。この前足つったし。まあもやししてるから仕方ないけど」
「外にですね」
「前よりはでてる気がする」
「まあそうだけど、もうちょっとは出ようよ」
一応たまには外に出るくらいにはなっているが、まだまだもやしである。
「というか昼間に髪おろしてる優美ちゃん見るのなんか落ち着かない」
「ん、正直俺も落ち着かない」
年がら年中、
まあまだ半年も経っていないが、
ポニーテールだけは外してこなかったので、
違和感がすごい。
「じゃあ後ろ向いて下さいです」
「ん、やってくれるん?」
「あいあいさー」
「じゃーお願いする」
椅子に座って後ろ向いて座る優美。
相変わらず髪は長い。
「相変わらずストレートのいい髪ですわー」
「ん、お前もじゃね」
「そうだけど、こうやって優美ちゃんの髪をいじいじするのが楽しい」
「そうすか。本当に髪いじり好きだなお前」
とかなんと言いつつも素直に髪を弄らせる優美。
正直、髪を弄られるのはこそぐったいやら、恥ずかしいやらあるのだが、ポニーテールには変えられない。
「…む」
「ん?」
「あのさ」
「どったの?」
「…当たってるんだが」
「何が?」
「…胸」
「ああうんそだね」
「いや、そだねじゃなくてだな。俺への当て付けか?ってこの会話だいぶ前にした気がするぞ」
「したねー。優美ちゃんがまだ髪結べなかった頃に」
「やってることが変わってない件について」
そこで優美がふと何かに気づいた様な顔をした。
「…」
「どうしたの?」
「…おりゃ」
「にゃっ!?ちょちょちょちょっと何するのさいきなり!」
いきなり振り返った優美が一直線にとある場所に手を伸ばして一揉み。
千夏の胸である。
「…ふむ」
「ふむじゃないよ!何するのいきなり!」
「いやスマンスマン。ただねえ…前に同じことされた時と感触がなんか違ったのよね」
「どゆことですか。というか前やった時の感触覚えてるの?」
「そりゃなかなか経験ねえしなこういうの」
「それで、一体なんだと言うのです」
「…さては貴様、成長しておるなっ!」
「へ?」
「あからさまに前よりも当たってた面積多かったぞ!手からも溢れそうだったし…」
優美が感じた違和感。
一言で言おう。
でかくなってた。
以上。
「今度こそ俺に対する当てつけか?いまだに絶壁で成長する兆しもない俺に対する?」
「いや、そういうんじゃないけども」
「というか自覚あったんすか?」
「一応ね。仮にも今の自分の体ですしお寿司」
「そうかい。しかしこの体も成長するのね」
「みたいだねー」
「…まあ俺に関しちゃ一向にでかくなる気配がないんだけどな」
「あ、ちょっとだけ背も伸びた気がするよ私」
「むぐぐ…」
ぽんと千夏を軽く押し倒す優美。
当然というか馬乗りである。
「んにゃ、何するですか!」
「おめーは何故でかくなってんだよっ!世の中不公平だぜちきしょー!」
「ちょ!どこ触って…」
盛大に戯れる二人。
というかほとんど優美が一方的に襲ってるだけだが。
「嫁に行けねー体にしてやらー!」
「ちょ、ちょちょ何するだー!」
優美を吹っ飛ばせば上下逆転。
今度は千夏が襲い掛かってるみたいな絵に早変わり。
「あらら、激しいのがお好みで」
「そう言うんじゃないしっ!吹っ飛ばしたらたまたまこうなっただけだし!」
優美から離れる千夏。
若干顔が赤いのは仕方ないか。
「なんだ終わりか」
「終わりも何も最初から何もする気なんてないです」
「ち」
「ちじゃないし。怖いし」
「まあとりあえずこの体も成長するってことが分かったのはでかい」
「まあそだね」
「ついでに胸についてるそれもでかい」
「言わなくていいし」
「何故貴様はそうも発育がいいのじゃ。俺はがきんちょ体型にもほどがあるっちゅーのに」
「というかなんかすっごい気にするねそこ」
「ん、まあ正直別にどっちでもいいんだけど、少しは気になるじゃんやっぱ」
「まあそうかもしれないけども」
「というかこのままお前の方だけでかくなるのが加速すると、俺の妹化が激しくなるからなんとかせにゃ」
「現状ですら間違えられるもんね」
「初対面の奴に何回妹さんですかーって聞かれたことやら」
並んで歩いていたりするとサイズ的に姉妹にしか見えないのが今の二人である。
これでさらに千夏の方が成長すれば必然的にそう見られる可能性も上がるというもんである。
「…というか優美ちゃんが発狂するせいで髪結べてないし」
「あ、すまん。頼むわい」
「ほい」
静かになった後は早いもので、
あっという間にいつもの髪型になる優美である。
「というか珍しくそこまで忙しくない長期休暇っぽいし旅行とかもいけたらいいね」
「そうだねー。でもそれやるとここに誰もいないことに」
「そうなんだよなー。大丈夫だとは思うんだけどこの家オープンすぎるからちょい不安なのよね」
「しげちゃんとか呼べば」
「でもさすがにあいつらだって四六時中ここに住み込みって無理だろやっぱ」
「そりゃそうか」
「…ま、それはその時考えるとして、ちょっとどっか行ってみたいとこではある」
「そうだねー。せっかくだし二人で旅行したいねー」
その手のことはやったことがない二人である。
「まあ、とりあえず」
「うん?」
「宿題終わらせようず」
「…そうだね」
「そう憂鬱そうな顔しなさんな。手伝うから」
「だって多くないけど範囲がすごいめんどくさいんだもの」
「なおさらやらにゃならんだろ。どうせ今日暇なんだしやれるとこまでやろーぜ」
結局一日宿題に費やした千夏であった。
まあおかげでだいぶ楽になったので上々であろう。




