巫女る～目覚めたら巫女だった件について～

本編

聖人の死んだ日

「…むう。今日は」

ちらとカレンダーを見やる優美。

そこに書かれた数字は2月の14。

そうあの日である。

「…今年からあげる側だねぇ…あげるやつなんざいねえが」

ちなみにもらったことは無い。

義理程度ならともかく。

「…そーだな。あいつ用に買ってきますか」

そう言ってひょこひょこ外に駆けていく優美であった。

それからしばらくして。

「ただいまー」

「お帰り」

学校帰りの千夏が家へと戻ってきた。

「さてと、優美ちゃん」

「なんだ」

「今日は何の日でしょう」

「聖人バレンタインが死んだ日」

「うわ、嫌な言い方」

「事実だろ」

「普通にバレンタインって言いましょうよ」

「リア充爆発イベントだから私には関係なかったのです」

ふと千夏の方を見やるとなにやら袋のようなものを抱えている。

しかも結構何かが入っているのかがさがさいっている。

「なんぞそれ？」

「え？チョコだよ」

「買ったのか？」

「まさか」

「拾った？」

「拾い食いはしません」

「じゃあもらったのか？」

「正解です」

「ああ、そういえばお前大人気だったもんな。そりゃくるか」

「私こんなに貰っても食べ切れないんですけどね」

少なくとも10は超えてそうである。

「というか何よ。朝行ったら机の中パターンか？」

「えーとね。そういうのもいっぱいあったし。手渡ししてくれる人もいたよ」

「というか普通に気づいてなかったけど。バレンタインって女が男にチョコあげる日じゃなかったっけ」

「そうだと思う」

「なのに何故お前はそんなにもらっているのじゃ」

「友チョコもあると思うけど男子からもきたよ」

「逆だろそれ」

「私も仲良くしてる子にはあげたけど」

「ああ一応渡してたのか」

「そりゃ一応今は女子ですしおすし」

「反応は？」

「上々」

「茂光は？」

「ものすごい喜んでた。というかなんでしげちゃんだけ聞くのさ」

「え、明確にお前に対して好意もってるやつだし。俺の知り合いだし」

「気になるんですか」

「そりゃ気になりますよ。好きな美少女からチョコもらった時の男の反応とか超楽しそう」

「うわ、この幼女ゲスい」

そんなこんなで。

「というわけではい。優美ちゃん」

「なんぞ」

「チョコ」

「ん、俺にか」

「そうだよ」

「あざす」

「どーいたしまして」

「手作り？」

「一応」

「友チョコ？」

「そだよ」

「ち、本命じゃねえのか」

「いやレズる気はないからね？」

「大丈夫。その時が来たらそんな気は微塵も起きないようにしてあげるから」

「何する気だし」

「激しめの禁則事項」

「逃げるよ？家出しちゃうよ？」

「ふ、甘いな。お前の行先など予想済みだ」

「何処に行くとお思いで」

「川口か、茂光の家だろどうせ。他に行くあてなどあるわけがない」

「う、ばれてた」

「というわけで諦めろ」

「ひどい」

「まあしないけど」

「したら怖い」

「あ、望むなら別にかまわんよ」

「いや望みませんから」

そうしてふと思い出したように立ち上がる優美。

「ちょっと待ってな」

「？」

そうして部屋から出てすぐに戻ってきた。

「というわけでほら」

「これは？」

「見れば分かるであろう。チョコじゃ」

「ありがと」

「まあ残念ながら作れんから市販チョコだけどな」

「別にいいのよ。くれるのが嬉しいし。というかこれ普通に私の好物のチョコだし」

「そうかいならいいが」

「早速一枚食べようかなー」

「んじゃ俺も食べよ」

そうして箱を開けてチョコ食べる二人。

「む、うまい」

「うん、おいしい」

「とりあえず全部食べるのもったいねえから残り冷蔵庫入れとこ」

「私も」

「ん、じゃあ箱よこせ。冷蔵庫持ってく」

「よろしく」

そう言って部屋からでて、またすぐに戻ってくる優美。

「そういえば」

「なんだ」

「さっき冷蔵庫見たら、他にもチョコがいっぱいあったけど」

「ん、自分用」

「え」

「自分用。大事なことなので二回以下略」

「いや自分用って。けっこうな量あったと思うんですけど」

「三千円くらい使っちゃった。テヘペロ」

「買いすぎだし」

「いやだってバレンタインのチョコっておいしいんですよ。あれ買わずして何買うというのか」

「いやでも多いって」

「安心せい。さすがにあの量を一日で食い尽くすとかいう芸当はやる気ねえから」

「さすがにそれは考えてなかったけど」

「毎日欠片5個づつくらい喰らっていくのです」

「数週間でなくなりませんかそれ」

「まあとりあえずホワイトデーまでのつなぎだから」

「まだ買う気なんですか」

「そのとーり」

「駄目だ。この人。甘いものに支配されている」

「女の子だからね。しかたないね」

「いやそこでそれだされてもこまる」

「まあ別に甘党ってわけでもねえんだけどな」

「別に辛い物でも平気で食べてるよね」

「甘党になったっつーか単純に甘いもの食った時の幸福度が増したが正確な気がする」

「私あんまり変わってないけど」

「なんでやろな」

「さあ」

「それにしても」

「うん」

「渡す側になるとはね」

「思ってませんでしたねー」

「まあ今は友チョコあるから別に男子でも渡そうと思えば渡せるんだろうけどな」

「まあね」

「そして俺らが渡すことにより、渡された男子の鼻の下が伸びて、その他男子の嫉妬の目がえらいことになるんですね」

「なってるんでしょうか」

「仮にも学校一美少女からチョコもらってるの見ちゃったら多少は嫉妬する」

「嫉妬はしないかな。羨ましくはなると思うけど」

「つまりそういうことだ」

冷蔵庫から持ってきた自分用のチョコを口に放り込む優美。

「というかですね」

「うん」

「なんか冷蔵庫見たら綺麗にラッピングされたチョコが一つあったんだけど」

「ああ、あれね」

「あれは？」

「渡す用だよ」

「え、渡す人いたの！？本命！？」

「渡す人いたのとは失礼な。いやまあ人付き合い無いから仕方ないかもだけど」

「で、お相手はどちら様」

「そないなもん。以前俺に告ってきた少年に決まっておろう」

「ああ。あげるんだ」

「さすがに告白までしてもらったのに何もしないのはちょっとね」

「でも本命では？」

「まあ残念ながら違いますわな。義理です」

「ですよね」

「いつの間にか本命に変わってたりするんだろうか」

「するんですか？」

「いんや分からね。先の未来の俺のことは分からん」

「自分の事でしょ」

「自分の事だけど分かりません。予定は未定だ」

そう言いながらさらにチョコを口に放り込む優美。

「というか優美ちゃん食べすぎです。チョコ」

「ん、あ、いかん。話しながら食ってたら予定していた量をオーバーしている」

「無意識なんですか」

「無意識さね」

「甘いものへの執着心半端じゃない」

「甘いものは至高。さすがにチョコ風呂とかには入る気ないけど」

「なんですかそれ」

箱をしまう優美。

放っておくとそのまま食べてしまいそうだったので。

「ところで」

「はい」

「ここのお狐様ってさ」

「うん」

「チョコ食べるかな」

「え、いや知らない」

「供物としてチョコ置いといたほうがいいんだろうか」

「溶けない？」

「外激さむだからよっぽど大丈夫だと思う」

「おいてくるの？」

「そうするわ」

というわけで買ってあったチョコを置いてくる優美。

「おいてきた―」

「お疲れ」

「しかしチョコってどう考えても日本の食いもんじゃないけどお狐様食べてくれるんだろうか」

「さあ？」

なお次の日チョコを置いてあったところに行ってみると、

綺麗さっぱりそれが無くなっていた。

「…神様でも甘いものは好きなのかねえ」