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台所に迫る者

「…」


一人黙々と机で作業を続ける優美。

今は遊んでいるわけではない。

仕事中である。


「ん、くぁ〜。はあ、ちょっと休憩しますかな」


そう言って椅子から立ち上がる優美。

どうやら仕事中というか休憩間近だったようである。


「…茶でも飲みに行くか」


文字通りの意味である。

家のお茶を飲みに行くだけである。

別に外でお茶するとかいう意味ではない。


「うぐぇ、同じ体勢でやってた所為で腰痛え」


腰をポンポンしながら部屋から出ようとする優美。

さながら年寄りの様である。


「…ん?」


部屋の外の廊下を見てみると何かが動いている音がする。

少なくとも千夏ではないサイズである。


「ああ、ルンバね。なんで台所から脱走してんだ」


先日購入したルンバであった。

だがそれだけではない。

上になんかいる。


「…ぶっ」


その上では子狐のイナリがお休み中である。

いい感じに上に乗っかって眠っている。

尻尾が巻き込まれないか少々不安だが今のところ問題ない。

それはそのまま廊下の角を曲がり、優美の視界から消えた。


「…ふっ…くく。なにあれテラシュールっ…」


くくくと笑う優美。

何かツボにはまったようだ。


「あいつら最初は敵対してたのになあ。変わるもんだなあ」


そのまま歩みを進めようとした辺りで、


「いやあああああああああ!?」


「ひょ!?何!?」


家中に凄まじい悲鳴がこだました。

こんな悲鳴が響くのは最初の女の子の日以来ではないだろうかと思う。


「なんや。何事や」


悲鳴の発生場所は台所である。

行き先もそこであったしちょうどいい。


「どした…って何やっとんじゃっ!」


「いやあああ!」


台所に入ると、謎極まりない光景であった。

何故か千夏お玉を振り回しているのである。


「ちょ、とりあえず落ち着け…あぶなっ」


お玉がぶち当たりそうになる。

普通に危ない。


「はあはあ」


「何があったと言うのだ」


「や、奴が出た」


「奴?」


「G」


「何っ!いつの間にこの家に」


「えーとさっき窓から入ってきたぽい」


そう。奴である。

Gである。

おそらく人類とは永遠に敵対関係にありそうな黒くてテカってるあいつである。


「そいつは何処に」


「よ、よく分からない。出てきたときに絶叫してお玉を振り回してたし」


「見とけよ」


「無理です。自分の周囲から追い払うのが精一杯」


「まあキモいけど…む」


「え、なに」


「奴だ。奴の足音がする」


「ひっ」


カサカサと。

存在を示す足音が響く。


「ち、音だけで出てきやがらねえ」


とりあえず攻撃できるように新聞紙丸めて持ってくる優美。

倒せるかはともかく。


「うにゃああ!出たああ!」


「え、どこどこ、ぎゃあああ!」


優美の足元である。

さすがに優美も絶叫である。


「いやあああ!こっちこないでえええ!」


「なんでもいいけどお玉振り回すなっ!あぶねえ!」


わーわーであった。

当の本人というかゴキブリさんはそんなことはつゆ知らずといった感じで

台所内部をカサカサしている。


「うおりゃっ!」


バシンと新聞紙が叩き付けられる。

が、華麗に躱される。

Gを殴ったことはないので当然ではあるのだが。


「にぎゃああああ!こっちきたああ!」


そしてGが向かったことにより発狂する千夏。


「ちょ、なんでもいいから潰して」


「むりぃ!気持ち悪いっ!」


そんな千夏の隣をカサカサやって走っていくG。


「うおらっ!」


そんなGに向かって飛来する影が一つ。

勝手口に置いてあった草履である。

それは確実にGを捉え絶命させた。


「はあ、はあ。強敵だった」


「し、死んだの?」


「…分からん。多分死んだと思うけど」


近づいてみてみたが動く気配はない。

死んだようだ。


「ふあぁ…死ぬかと思った」


「お前のお玉で死ぬかと思ったぞ。主に俺が」


「我を忘れてたんです」


「発狂しすぎやろ」


「虫嫌いなの。Gとか駄目に決まってるじゃないですか」


草履を取り払ってみるとわりかし原型が残ってるGがいた。


「えー後処理の方は…」


「やって」


「ですよねー」


結局Gを捨てたのは優美であった。

まあ凄まじく嫌そうではあったが。


「ぐはあ。Gの討伐ってこんなに疲れたっけか」


「気持ち悪かった」


「絶叫聞こえた時は何事かと思ったぞ」


「こうですね。お料理してたのですよ」


「はい」


「そしたら目の端に黒いものが映りましてね」


「はあ」


「そっちにね。嫌だなあ嫌だなあと思いながら顔を向けると、いたんですよ…Gが」


「で、発狂と」


「正直、作ってた料理をぶちまけなかったのは奇跡だと思う」


「錯乱してたもんな」


「G嫌い」


「好きな奴はいねえと思う」


「ぴゅーって入ってきたんですよ。窓の隙間から」


「ここの辺りで繁殖してんだろうか」


「やめて。考えたくない」


「…一回ゴキブリホイホイ仕掛けてみる?」


「私は触らないからね」


「いや別に触らなくていいけどさ。そうバンバン入ってこられても困るし」


というわけで適当にホームセンターに行ってゴキブリホイホイを買ってきた。

最初は外に仕掛けようかと思ったが

外に仕掛けたらGで埋まって真っ黒になった話を聞いたことがあるので家の中に設置。

とりあえず家の中にいないか確認である。


「…台所でいいよね。置く場所」


「台所なのですか」


「いやだって出現しそうなのここだしさ」


「私が入った時につかまってたら呼ぶです」


「はいはい」


というわけで隅っこに設置して数日。


「にゃああああ!」


「なんだこんどは」


叫びが再び響いたので台所に行ってみるとまた固まっている千夏がいた。


「どした」


「つ、つかまってる。つかまってるんだけど」


「おう、やっぱいたのか。設置しといて正解だったな」


「ただ…」


「なんだ」


物陰からひょこっと顔を出す四足歩行生物。

狐のイナリである。

そしてそれを見て優美も固まる。


「…う、お、おいイナリ。そいつは咥えるのやめようぜえ…」


イナリが咥えているのはゴキブリホイホイの家そのものである。

問題なのはその咥えてる一角の目と鼻の先に黒くててかてかしてるのが動いているのである。

一匹だけだったのが救いだったか。


「は、早くイナリ助けてあげて」


「あくまで俺かよ」


「やだ。触りたくない」


「俺もだっちゅーに」


とか言ってる間に二人に接近するイナリ。

当然口にはそれを咥えたまま。

そしてそれを見てのけ反るを通り越して後ろに緊急退避する千夏。

千夏に押される優美。


「ちょ、押すなし」


「早くなんとかしてください」


「わかった。分かったから押すな押すな」


そんな二人の前にGの入ったハウスを咥えて接近するイナリ。

受け取ってもらいたいだけのようだが。


「ぐぬぬぬ…ま、まあGいねえとこ持てばいいよねうん。はいイナリありがと。もうやらないでお願い」


ものすごーくそーっと手に取ってそのままゴミ箱へダイブ。

さらにそのままゴミ袋を取り出して縛って速攻で脱出できないようにしておく。

正直これでも怖いのでトイレに流したいのだが、それやって詰まるともっと困るのでやらない。


「…はあ。というかなんでイナリがここにいるんだよ」


「なんか一つの部屋に押し込めちゃうのあれかなーと思って最近ちょっと解放してるの」


「で、この始末だよ」


「まさかあれを咥えてくるとは思わなかった」


「やめていただきたいですね。マジで」


「気を付けまする」


「というか本当にいやがった。ノリだったけど設置して正解だったわ」


「小さいGとか考えたくないです」


「しかし俺のかつてのいとこの家にはどうやら発生していた模様…」


「それはちょっと…考えたくないですハイ」


「夜寝てる上をそいつらが走り回ってる可能性」


「やめて気持ち悪い」


「Gとの共同生活に成功した例だな」


「共生って言わないと思うよそれ」


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