鬼の出る日
「優美ちゃん」
「なんじゃらほい」
「今日はなんの日でしょう」
「んー、ああ寿司を食う日だな。恵方巻き」
「いや間違ってはいないけど。節分って言おうよ」
今日は2月3日。
節分である。
豆まきである。
「だってぇ、朝一で買いに走ったからその印象しかないのだわ」
「朝起きてあっという間に用意して外に走ってったもんね」
「恵方巻き早く買いにいかねーとなくなるからな」
「重要なんですか」
「思いっきし重要だあね。あれがねえと俺の節分は始まらねえ」
「どんだけ。ふつうは豆まきのが重要では」
「せっかく寿司が食える瞬間なのですよ。この時食わずしていつ食うというのか」
「気合入れすぎでしょ」
「一万溶かしてきた」
「うわ」
「安心しろ。俺の小遣いから差し引いてある。家計には持たせん」
「何買ってきたです?」
「海鮮系統とサラダ巻くらいかな。カツとか巻いてあるのはねえからな」
優美曰くカツだのハンバーグだのが乗ったり巻いてあったりするやつは
どうしても寿司とは認めれないらしい。
「なんでもいいから酢飯にまけばいいというものでもないだろうて」
「まあでも海鮮以外のやつも味自体はけっこうおいしいと思うの」
「いやうん。まあ味自体はおいしいとは思う。思うんだけど寿司じゃねえだろとも思うの」
「海外の、寿司の意味をはき違えた寿司よりはいいと思うよ」
「あれは本当に寿司じゃねえ。ごはんになんか入れて巻いてありゃ全部寿司だと思ってる」
「それに比べればずっとマシじゃないかな」
「まあな」
そうこうしているうちに台所からなにやら袋を持ってくる千夏。
「と、言うわけでですよ」
「あい」
「豆です」
「せやな。豆やね」
「まこうじゃないですか」
「いいですぞ」
「庭でいいよね?」
「イベントやるわけでもねえのに境内が豆まみれは困るからそれでいいっす」
「じゃあ裏庭いくです」
そのまま裏庭へ場所を移動する二人。
「外には普通に豆取り出して投げていいよな」
「いいんじゃないかな。とりあえず私の掃除の管轄外だし」
「まあ鳥の餌になるか大地に吸収されるかするよね」
「うん」
「じゃあ思いっきりばらまいてやるですわ」
というわけで豆を袋から取り出す優美。
便利な小分け袋タイプである。
「とりあえずこれくらいあれば二人で投げてもとりあえず大丈夫よね」
「家に投げる分も残しとくです」
「まあ最悪家に投げる分は拾ってリサイクルできますしおすし」
「なんか投げる意味がなくなる気がががが」
「まあ投げたということがあればいいと思う」
というわけで豆を構えて。
「おーにはそとー」
「ふーくはうちー」
「ん、あ袋ごと投げろよ。家には」
「分かってますん」
豆まきし始める二人。
外には豆をまき、
家の中には袋入りの豆をそのまま投げる。
家の中に向かって豆を開放すると後がえらい目にあうことは二人とも重々承知の上なので。
「どうする。もうちょっと投げとくか?」
「そうだね。あと二袋くらい」
「おにはそとーっ!」
「ふくはうちーっ!」
何故か本気で振りかぶって豆を投げる二人組。
ここらへんはノリである。
「よーし投げた投げた。家の中に投げた分は回収するのだわ」
「うん。もう拾っといたよ」
「やっぱりこれ後掃除楽だからいいわ」
「外は知らないけどね」
「まああれの処理はさっき言った通り鳥さん辺りに任せればよし」
「そうだね」
というわけで家の中に戻ってくる二人。
リビングで豆を開ける。
「で、確か歳の数だけ食べるんだっけ?」
「そうじゃなかった?」
「じゃあ何、15粒くらい?」
「そうじゃない?」
「正確な歳がよく分からねえという」
「だよねえ」
「実はこの体は100歳超えてたり」
「人間やめてるじゃないですかそれ」
「今ならどんな超常現象でも信じるぞい」
「まあそうだけど。さすがにないでしょ」
「不老不死の可能性」
「ないない」
そのまま豆を食べる二人。
「…とかなんとかいいつつもうすでに15粒超えてる件」
「食べすぎなのです」
「一袋食べたら止められない」
「やめられない止まらない」
「即ちそういうことだ」
結局小袋三つほど完食した優美。
千夏は一袋である。
「しっかしどんな日でも子供たちは元気よのう」
「今日も来てますねー」
「来てるな」
「ちょっと行ってくる―」
「おうよ」
結局千夏が帰ってきたのはだいぶ暗くなってきてからである。
「お帰り」
「ただいま」
「いつも以上にはしゃいでなかったか」
「鬼役やらされたのです」
「まあ節分だしな」
「豆ぶつけられた」
「結局境内豆まみれか」
「うん」
「うんじゃねえよ。お掃除死ぬ」
「ある程度は掃除しといたよ」
「助かる」
「さすがに結構大参事だったのです」
「と言うか何。来てた子供全員が豆投げてた感じ?」
「だいたいあってる」
「恐ろしいな」
「まあ別に大して痛いわけでもないですし」
「俺も豆ガトリング持って参戦してやればよかったか」
「豆ガトリングなんぞ」
「こう豆を装填して秒間何十発の勢いで発射する鬼撃退用最新兵器だ」
「何時できたし」
「何十キロと言う勢いで豆をこう打ち出すわけだ」
「それもう豆じゃないよ。ふつうに兵器だよ」
「その他、豆レールガンに豆粒子砲に豆ロケラン等々も」
「さっそくそれ豆じゃないよね?というかもうそれ発射した時に豆溶けるよね?」
「撃つ前にもう蒸発してそう」
「ですよね」
良い時間になってきたので夕飯。
恵方巻きである。
「えー今年はどっちだ。方角」
「東南東だって」
「東南東か。…東南東どっちだ」
「えーっとあっちが北だからこっちじゃない?」
「よく覚えてるな」
「さすがに北がどっちかくらいは覚えておこうよ」
「よく考えれば鳥居ある方南だったわ」
「そっから考えればすぐではないですか」
「忘れてた」
というわけで太巻きである。
「これ確か一本まるごとかじるんだよね。しかも喋ってはいけないとかいう制限つきで」
「うん」
「どうするよ」
「やればいいんじゃないのかな」
「途中でしゃべりそう」
「我慢するです。幸運が逃げる」
「不幸だわ」
というわけで太巻きをかじる2名。
「…」
「…」
「…」
「…」
そのままちょっとして。
「…」
「完食」
「…」
「む、まだ食べ中でしたか。ゆっくりどうぞ」
「…」
それからさらにちょっとして。
「ふー。完食だわ」
「これで幸運だね!やったね!」
「やったねたえちゃん!運が増えるよ!」
「おいやめろ。というか普通に食べ切れましたな」
「食事中は普段からあんまり喋らないからそこまで苦でもなかったね」
「だな」
結局その後優美は買ってきたマグロとサーモンの中巻+太巻きもう一本も食った。
千夏が+太巻きもう一本であったのに対して。
相変わらず小さな体の何処に吸い込まれているのか謎である。




