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「ただいまぁ」


「お帰りぃ」


千夏買い物より帰還である。


「よいしょっと」


「何抱えてきたし」


「見れば分かるかと」


「とりあえず重そうだが」


「重いよ?」


「本当になんだよ。鉄球買ってきたわけじゃあるまい」


「これですよ」


「あ、米か」


「そうそう。しかももち米」


「あー。そういやもちの季節だよね」


正月から今に至るまでもちは食べてなかった。

うっかりである。

まあ別に必ず食わなければいけないわけではないが。


「まあでもこれそのまま食べるんだけどね」


「まんまかよ。もちにするんじゃねえんかい」


「小さいころですね」


「はい」


「もちごめをですね。食べたことがあるんですよ」


「ほう」


「それがまあすこぶるおいしくてですね」


「うまいのか」


「いまだにあの味が忘れられないのですよ」


「どんだけだよ」


「なんか初めて食べた時、あまりのおいしさに頭がスパークしたのです。子供のころの私にはとっても衝撃的だったのです」


「で買ってきたと」


「そのまま食べるために」


「成程。にしても多いな」


「ちょっと買いすぎちゃったですかね」


大量である。10kgくらいありそうである。


「とりあえず今日からしばらくお米はもち米確定なのです」


「まあ別にタイ米とかじゃないならいいけどさ」


「タイ米駄目ですか」


「虫っぽくね」


「長いよねあれ」


「あれだけはどうしても見た目的に食べたいと思わねえ。最悪目隠しして食うしかないな。偏見と分かりつつも、あの見た目だけは受け付けん」


もち米の袋を見ながら何かを思いつく優美。


「そういやさ」


「うん」


「餅。食べてないよね。今年」


「そうだね」


「で、今ここにはもち米が腐るほどあるわけですよ」


「そうですね」


「餅作ろうぜ。せっかくだしよ」


「餅ですか」


「そうそう」


「どうやって作るん?」


「そりゃ当然もち米をついて作るですよ」


「やるの?」


「そんだけあったら一部餅にしてもなんら問題あるまいて」


「いやそうなんだけどさ。どうやって餅にするの」


「うーん…考えてなかった」


「おい」


「ちょっとなんか無いか探してくる」


「本当にやる気なのね」


「当たり前なのだわ」


スッと立ち上がってとてとてと外の倉庫にかけていく行く。

あの倉庫はしっかり調べてないのでとりあえず困ったらそこに行ってみるのである。

先人たちが残していったのか謎の物体がいろいろごろごろしてるので探してみると色々出てくる。


「そしていつものジャージなのですか」


「あの中に入ると言うのならこれしかあるまいて」


そうして倉庫に消えていく優美。

窓を開けたお陰で何時ぞやのように真っ暗ではないので一人でもいけるのである。

まあ夜には絶対行かないが。


「っと、なんかそれっぽいのないかな。臼と杵が最高だけど。使えるかは置いといて」


そうして倉庫を調べると、果たしてそれはあった。


「…なんかこうあっさり出てくると拍子抜けね」


そうして持ってみるが、これが重い。


「ぐ、重いぞ…杵しか運べんなこれ。臼は…男がいるな。最悪二人掛かりなら…無理かも」


とりあえず臼は運ぶのは無理ゲーであった。

押して動くかなーとか言ったレベルである。


「というわけであったぞー」


「あったの!?」


「驚きであろう」


「本当にあるもんなんですね」


「しかしだな。実に大問題が発生した」


「ん?餅のつき方はネットで調べればいいと思うよ?」


「いんや。そうじゃないんだ。今俺の手には何が見える」


「杵だね」


「問題です。臼の方は何処に行ったでしょう」


「まだ倉庫の中?」


「正解。端的に言うとだな。動かせる気がしねえ」


「重いの?」


「アルティメット重たいぞ。少なくとも一人で運ぶのは無理」


「二人ならどう?」


「それでも辛そうです。正直もう少し人手がほしいとこ。いないなら最悪引きずってくるだけど」


「うーん。人ですか」


「そう。人だ。言っとくが心当たりは俺には一切ないぜ。そもそも人付き合いないからな」


「うーん。と、なると私が呼ぶのですか」


「そう。誰か心当たりいねえか」


「いないこともない」


「じゃあちょっと連絡してみてくれよ。暇そうで来てくれるなら来てもらって」


「りょーかい」


千夏が電話をかけて数分。

人影が裏庭に顔を出す。


「またおめーか」


「どうもっす」


「あ、しげちゃん来たね」


「まあ正直男の手が足りてなかったからちょうどいいけどさ」


現れたのはもはやおなじみ茂光である。

何度目の登場であろうか。


「とりあえずだな。詳細は聞いたか」


「いや、暇なら来てくれる?としか」


「説明しとけよ」


「忘れてた」


「んー…まあいい。茂光。ちょっとこっち来てくれ」


「うっす」


そのまま茂光を連れて倉庫に入る優美。


「あ、足元気を付けろ。ロクな物落ちてないからなここ」


「ここ倉庫か?」


「そうだが」


「なんというか…すげえな」


「余計なものに手を出すなよ。冗談抜きで呪われても知らんぞ」


「はは、呪われるとはそんな馬鹿な」


「ん、言っとくけど真面目に俺が封印したのとか結構ごろごろしてるからな」


「え、というか封印って」


「いわくつきの物もたまに来るのよここ。お祓いしてちょーだいな感じで」


「そ、そんなことやってたのか」


「だから余計な物に手を出して呪われても責任とらんからな」


「お、おう。分かった」


そのまま少し奥の臼の所まで行ってみる。


「とりあえずこいつ外に出したいんだが見ての通り弱小パワーの俺じゃ無理でな。いけるか?」


「どうだろ持ってみなきゃ分からねえけど…うぐおお、重いっ!」


それでも片側が持ち上がってるだけなかなかの力である。

ちなみにこの臼の重さは60㎏くらいある。


「やっぱ持ち運ぶのは無理か」


「さすがに、少し動かすくらいならどうにかなりそうだけど」


「んー…じゃあこの荷台に」


とどこからともなく荷台を連れてくる優美。

相変わらず色々出てくるこの倉庫である。


「ぐおおおおぉ!…はあぁ…の、乗ったか」


「お疲れ。腰大丈夫か」


「い、一応」


「じゃあまあ押してくから先戻ってていいぞ。あざす」


「どういたしまして」


そのまま臼を連れて千夏の下へ。


「というわけで茂光の協力の下でなんとか運んでくることができた」


「おー」


「ちゅーわけでさっそくやろうぜよ」


「すぐにできる物なの?」


「…ちょっとネット見てくる」


そうしてネットを見て帰ってくる優美。


「下準備に1日かかった…」


「あらら」


「…むう、なんかすまんの茂光。今日中に準備しとくで暇なら明日来てくれや」


「了解っす。じゃあ今日はいい感じか。また明日」


「悪いな。じゃあまた明日」


「またねー」


なんだかいいように使われた茂光の後姿を見送る二人。


「さてと、ノリでやろうとか言い出したけど下準備いるっぽいのでせねばな」


「なにやるの?」


「もち米をといてから一晩水につけておく。ついでに臼には水はって、杵は水につけておかねばならんらしい」


「ほえー。じゃあ夕飯終わったらお米の方は準備しようかな」


「俺は杵と臼に水やっとくわ」


「そういえばそれどこにおいとくの?」


「外に放置もあれだし玄関先だな。茂光が荷台に乗せたまんまにしてくれて助かった」


結局その日は冬の水で凍えながらも全ての作業をしておいた。

さらに次の日もネットで情報見ながら前準備である。


「くう、準備だけで疲れてまうわ」


「意外とやること多いのね」


「だれだよノリでこんなことやろうとか言い出した奴」


「優美ちゃん」


「はい俺ですねすいません」


お昼過ぎ茂光がなぜか佳苗まで連れてやってくる。


「おっす」


「おいっす」


「久しぶり優美ちゃん」


「この前もあった気がするけどな。そいつに聞いたか」


「ううん。私が電話しといた」


「まあ量結構あるし人数多いほうがいいかね」


「とりあえず餅つきするって聞いたので飛んできたよ」


そのまま全員で裏庭に移動すると既に全部がセットされていた。


「というわけで誰がやる」


「私餅をつく側やりたいです!」


「ん、じゃあ佳苗つく側で。疲れたら交代な」


「うん。合いの手は?」


「…ん、じゃあ俺がやるわ。さっぱりやったことねえけども」


「手うったらごめんね優美ちゃん」


「許さん」


「うわ、優美ちゃん怖い」


その後餅つきスタートである。


「よいしょー!」


「ほい」


「よいしょー!」


「ほい」


「よいしょー!」


「なんかあれだな。なんかのゲーム思い出すな。リズムうんちゃらってやつ」


「よいしょー!」


「聞いてねえな」


その後予告通りに佳苗が優美の手をぶっ叩いて優美が涙目になったり、

茂光が千夏と一緒に餅をついていたら共同作業という単語が頭に浮かんだのか鼻血を吹き出しかけたり色々あったがとりあえずは餅完成であった。


「できたな」


「できましたね」


「おーできたー!」


「多くないか、これ」


「うむ、茂光。俺も同意見」


「かなりあるよねー」


「調子乗って昨日いっぱい準備しすぎちゃったね」


「どうするの?」


「そりゃもちろん食うんだわさ」


その後出来上がった餅を全員で食べたが多すぎで食べ切れず一部茂光が持ち帰ることで丸く収まった。

残りは冷蔵庫行きである。


「…しっかし。後っ、片っ、づけっ、はっ!さっさとやっとくべきだったくそっ!」


その後放置気味だった杵と臼に餅がこびりついて取るのに必死になったのはいい思い出。


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