休み終わりの地獄
「そろそろ休みも終わりだな」
「そうだねえ」
「とりあえず狐弄るのなんとかしろやい」
「だって気持ちいですし」
ふもふもと。
なんだかこんな光景が普通になりつつある。
「というか実際問題そんなに気持ちいのか尻尾って」
「うーん?死ぬほど気持ちい訳じゃないけど、やっぱり気持ちいよ?触る?」
「いんや。いいわ」
寒いので日課の御札書きをこたつにて行う優美。
「というかさ。課題とかねえの?」
「なんの?」
「学校課題だよ。冬休み課題。あるだろ?」
「んーだいたいは学校でやったはずだけどなぁ…ちょっと確認してくる」
「おう」
「ちょっとイナリ見ててね」
「あいよ」
放置しておく訳にもいかないので狐のイナリを抱えておく優美。
「暖か。生物の体温ってやっぱあったけえ。…しっかし動き回るのは慣れんな。動いて当然なんだが」
腕の中でもぞもぞするイナリ。
逃げようとしている感じではないのは
優美にも懐いている証拠か。
「た、大変だよ優美ちゃん!」
「最近いっつも大変だな」
「いや、うん確かにそうだけど…大変なんだよ!」
「今度はどうした。無くしたか。課題」
「やってなかった!」
「おい。大丈夫って言ってたじゃねえか」
「いややってはあった。あったんだけど数学が終わってない!」
「おいおい。なんで最高に時間のかかる課題が残ってるんだ」
「お正月とかイナリとかの事件ですっかり…」
「どうするんだよ」
「やるけど…終わる気がしない」
「…んーまあ手伝ってもいいけど」
「お願いします。絶対終わらない」
「答えは?」
「あるけど…」
「写せば?」
「実力にならないですし」
「いやまあね。大学行くならそうだけど行かないなら定期テスト乗り切れればよくね?」
「実力テストの範囲なのです。やらないと絶対とれない」
「そうすか。まあとりあえず持ってきてよ。軽くなら教えれると思うので」
「もう持ってきた」
「はや」
そして突き出されたウルトラ分厚い問題集。
「まさか今回の宿題ってこれか」
「これだったのです」
「かつて俺が1週間かかった物なんだがこれ」
「やっぱかかるよね」
「答え見ながらでも理解しようと思ったら終わらせるのに数時間かかったっていうね」
「うん」
「それを、残りの数日でやれと」
「そゆこと」
「ぐおお。頭抱えるレベルだわ」
「でもやらないと間に合わないのです」
「ちょっと提出物まとめみたいなプリント見せるですよ」
「はい」
ペラリと渡されるB5用紙。
そしてそこに書き並べられる問題範囲。
「ぐむむむ…これ何ページ分だよ…いつぞやの宿題の比じゃねえぞ」
「分からないけど量が半端じゃないほどある」
「ぐふっ…ん?あれ?提出期限まだじゃねこれ」
「え?」
「ほら、ここ。最初の授業って」
「あ」
「最初の数学いつ?」
「えーと実力考査あって…あ、その週無い」
「…ふう、ちょっと余裕出来たな」
「よかった。これで出来る」
「まあテストのある日は変わらないけどな」
「うん。でもそれは優美ちゃんに教えて貰えばいいや」
「それは確定なのね。よしじゃあイナリ一旦お休みな」
「なんだかんだ言って優美ちゃんもイナリ好きだよね」
「まあ狐とか滅多に触れ合えるもんでもねえしな」
そう言ってイナリのいつもいる場所に戻してくる優美。
「さあてと、鬼の問題集始めようか」
「はい」
「他はないだろうな?」
「他も少し」
「じゃあ先そっちやりたまえよ。その間にどんな問題か見とくから」
「わかった」
とりあえず問題に目を通す優美。
その隣でその他の課題をやる千夏。
そして顔の雲行きが怪しくなる優美。
「…はあ…またこのタイプかよ」
「どったの」
「答え見てるんだけどさ」
「うん」
「ながーい。答えが」
「めんどくさいと」
「そういうことだ。これを1週間かからずに…むぐぐ」
「ごめんね」
「まあやらねばならん以上頑張るべ。とりあえずテストの日までに内容だけでも分かるようにしとかねばなるまいて」
結局その日進んだのは十問程度であった。
「がふ、内容的に教えるだけで疲れた」
「お疲れ様」
「お前もな。まあまだ終わりじゃないんだけど」
「半分もいってないんだよねこれ」
「相変わらず冬休みだってのに夏休み級の量だな。意味わからん」
「仕方ない…いや仕方なくないね。どうしてこんな量が出るんでしょうかね」
「学校に聞いてください」
時計を見ればすっかり夜である。
「数時間はやってたな」
「やってたね」
「お前はまだやれるんですかね」
「頑張ればできるかな」
「まあ俺の気力が持たないので教えれなくなるけど」
「自力でやれるところはやっとくのだわ」
「そうしろ。とりあえず気晴らしに掃除してくる」
「うん。あ、あとイナリに餌あげといて」
「ん、りょーかい」
そのままイナリの下に向かう優美。
「んーすまん。腹減っただろ。ほれ」
当然狐に何を食べさせたらいいのかなんてわかるわけ無かったので
ここは動物病院で聞いておいた。
さすがにネットで調べてもまともに分からなかったので。
「はあ、疲れちまったよ。おめえは疲れてなさそうだな。むしろ暇か?」
いなりの頭を軽くなでる優美。
「…にしてもお前は全然俺たちを警戒しねえな。まあ俺らとしては嬉しい限りだがね。助けた恩でも感じてるのか?」
そのまま立ち上がる優美。
「そいじゃまたあとで。千夏も来るだろうしな」
イナリの下から立ち去って掃除を始める優美。
それが終わってリビングに帰ってみるとまだ千夏が机でやっていた。
動いていないようである。
「まだやってんのか?」
「うん。これでも終わら無さそう」
「もう俺掃除し始めて帰ってくるまでで一時間は経過してるが」
「一時間じゃ大したことないよ」
「その精神がやべえ。一時間拘束されたらいやになってくるわ」
「でも一日中やったりしたことあったからこれくらい余裕」
「…ありえん。長くて五時間ぐらいが限界だぜ」
「あ、というか夕飯作ってないや。今からやるね」
「よろしく。俺は続きの説明考えてる」
結局そこから数日。
テスト前日の夜までやってなんとか一通りの説明を終えた優美。
「とりあえずこれでおしまい」
「ありがと。助かった」
「つーわけでテストがんばれ」
「うん」
「というか他の教科はいいのか」
「昼間のうちにある程度はやっておいたので大丈夫だと思うのです」
「そうか。まあ頑張ってこい」
「逝ってくる」
「逝ってこい」
そうしてテストが終わった日。
「どうだったよ」
「数学やってたら頭が真っ白に」
「おいおい」
「でも、後半になって思い出せたのである程度は解けたと思う」
「お、なら死亡はしてないか?」
「たぶん玉砕はしてないと思う」
「よかったな」
「よかったのです」
「でもテスト明日もあるだろ」
「まあ数学は終わりましたですしおすし」
「明日は?」
「国語と英語と理科二つ」
「四教科かよ」
「うん」
「つら」
「つらいけど、数学ないぶんマシ」
「それだけは理解できん。英語あるし」
「数学よりマシ」
「数学嫌いすぎるでしょ」
「仕方ないね」
「というかまだ課題自体は終わってないというね」
「そうだった」
「まあもうできるよな」
「分からなかったらまた助けてくだちい」
「えー」
「そう言わず」
「しゃあないですな」
「わーい」
「とりあえず明日のテストもガンバ」
「もう一回逝ってくる」
「逝ってら」
なおテストの結果自体は良くも悪くもなかった。
「おおう。なんとも評価しがたい点数」
「死ななきゃ安い」




