早さが足りない
「んっ、くぅーはぁ。朝か」
本日はクリスマスである。
が、夜通し優美、千夏、佳苗、茂光と遊んでいたため、全員布団で死亡中であった。
が、何故か普段以上に早く目覚める優美。
「…まだ4時半じゃねえか」
普段と違うことがあるとものすごく早く起きてしまうのである。
しかも頭が冴えて二度寝できなくなるオマケ付きである。
「…まあ、いいや」
起き上がって着替えて外掃除。
もう体に染み付いたルーティンワークである。
「…眠くないはずがないんだがなあ。後で絶対眠くなると思うんだが」
いつも以上に暗い中での掃除である。
正直怖いが、多少頭が寝ぼけているので大丈夫である。
「掃除終わりと。昨日と違ってえらい静かやの」
今起きているのは優美ただ一人なので当然なのだが。
あと鳥くらい。
「…部屋戻るか」
廊下を通って部屋まで戻る優美。
皆が起きてくる気配はさらさらない。
まあ時刻が時刻なので仕方ないかもだが。
「…しごとだけぱっぱと終わらせますかねえ」
ということで御札を書いていたがそんなに時間がかかるわけでもなく、終わってしまう。
やることしゅーりょーであった。
「…PCつける気分でもねえしなあ…」
縁側に座り込む優美。
外は寒いが、ここはあまり風が入らないので耐えれないほどではない。
というか部屋が暖房付けっ放しで激アツになっていたのでむしろ丁度いい。
「…相変わらず、木と草しかねえな。庭弄りでもするか?やっぱやめだ」
ブツブツ呟く優美。
「…なんか小動物いたら可愛いかもしれんね。糞の処理が大変そうだが」
優美は可愛いのは好きである。
だが動物の匂いが駄目なので飼ったことはない。
「ハリネズミとか可愛いよねぇ…ちょっと欲しくなってきた」
ここで犬とか猫に至らないのが優美であった。
「あ、優美ちゃん。おはよ」
「うおっ!びっくりした。脅かすんじゃねえよ茂光」
後ろから声がしたので振り向いてみればそこにいるのは
ハーレム主人公みたいなポジションの茂光であった。
「なんだ、早いじゃないか。他の全員まだ布団で死んでるっつーのに」
「朝はいっつもこれくらいに起きてるからな。あとトイレ行きたくて」
「ん、トイレか。そこだ」
「優美ちゃんがそこに居られるとドアが開けれないんだが」
「む、すまん」
そのまま少し場所を移動する優美。
一分経たぬうちに茂光が戻ってくる。
「早いな」
「まあ、小だけだし」
「俺小だけでも結構長いが」
「優美ちゃん女子だし」
「そういやそうだった」
「忘れるとこか?」
「俺の口調で察しな」
縁側先を見ながら話す優美。
トイレから出たばかりの茂光の方は見ていない。
別に臭いからとかそういう理由があるわけではない。
「というか優美ちゃん早いな」
「知らんよ。今日は寝てる予定だったが普通に起きちまった」
「この時間でも早いかなとか思ったんだが、優美ちゃん早すぎる」
「起きたの4時半だったりするっていうね」
「はやっ!?早すぎるだろ!?」
「目覚ましセットの2時間前に起きたとかいうあれ」
立ち上がる優美。
なお髪は既に縛ってポニテである。
「…千夏は起きてくるの遅いぞ。なんなら起こしてくるが」
「いや、千夏さんに悪いからいい」
「あいつ寝起き悪いからな」
「え、そうなの」
「起こしたい時間の1時間前に起こすのが理想。そうするとだいたい時間通りに起きてくる」
「千夏さん何してるんだ1時間も…」
「さあな。たぶんぼーっとしてるんだと思うがね」
優美の隣にいつの間にか座りこんでいる茂光。
「…なーに隣座ってんだおめーは」
「いや、なんか立ってるのもあれだし」
「だからって俺の横にわざわざ座る必要あるまいな」
「かといって離れて座るのもなんかおかしい気がするし」
「端的に言おうか。ちけえっつってんだよ」
正しく真横である。
「え、駄目なのか」
「恋人でもねえのに近すぎやしませんかねえ」
「まあでもよく知った仲だし」
「いうほど会ってねえけどな俺ら。なんでこんなことになってんだか」
「なんか気兼ねなく喋れる。男みたいに」
「さりげなく俺が女って否定しやがる」
「でもすごい男っぽい」
「だがこれが素だ」
そのまましばらく駄弁り続けた二人。
「…にしても軽くなったなお前」
「え、そうか?」
「最初、アホほど俺にビビりまくってたくせによ」
「いや…あれは…」
「気にするな。ぶり返す気はねえよ。一時の気の迷い…ということにしておいてやる」
「あ、ありがと」
「…なあ、そんなことよりも、…腹減らんか」
「…少し」
実際そろそろ7時半を回ろうとしているので普通にお腹はすいてきている。
「…とりあえずリビング行くかね」
「優美ちゃんは料理できるのか?」
「あ?この俺にそんな高等技術が扱えるとでも?」
「できないのか」
「家事は千夏にまかせっきりだ」
とりあえず縁側沿いから静かにリビングへと入る二人。
「…どうしたもんかな。出前でも取るかね」
「でもまだ寝てるし二人が」
「…そうだな。とりあえず冷蔵庫確認してみるかな」
そのまま台所へ移動する優美。
なんか茂光もついてきたが気にしない。
「んあー、っと、昨日の残りがあるな。これでいいか」
「というか本当に何も作れない?」
「俺ができるのは冷凍食品のチンとカップ麺にお湯注ぐことだけだし」
「女子力…」
「俺にそんなものを求めるでない。そっちは千夏に言ってくれ」
そう言いつつ適当に昨日の残りをレンジにぶち込む優美。
それはそれは適当である。
「俺一人だとこの家は回らねえ。回ってもすさまじいことになること請負だからな」
「さすが千夏さん」
「まあ俺が女として終わってるのが問題な気もするが」
「千夏さんに教わればいいんじゃないか」
「それをする人間に見えるか俺が。そういうことやらないから覚わらないのよ」
静かな部屋にレンジの音がなる。
「ほいよ。できたぞ。食いたまえ」
リビングの方に運んで行く優美。
「朝からだいぶ重たいな」
「女の手料理カッコってやつだ。文句言わずに食わんかい」
そのまま昨日の残り物をもそもそやる二人。
「…」
「…」
静かなものである。
「というか優美ちゃんっていつでも巫女服とは聞いたけど、本当にそうだったのか」
「んあ?せやで。というかそんなこと話してんのあいつ」
「結構話に出てくる優美ちゃん」
「マジかよ。下手なことできねえな」
そのまま朝食を終える。
「さて、お前には選択肢を与えてやろう」
「え、いきなりなんすか」
「貴様が選べる道は三つというわけだ」
「な、何の話」
優美の悪ノリである。
「一。今すぐ帰る。別に俺は止めはせん。というかなんか用があったりするなら帰れよ」
「今日は何にもないからいいかな」
「二。ここに残る。まあでもしばらくどうせ誰も起きてこねえと思うがな」
「三は?」
「今すぐ千夏の部屋に入ってだな」
「いや、しない。しませんそんなこと。二でいいよ」
「なんだよつまんね」
「千夏さんを売ろうとするなよ。一緒に住んでるのに」
「まあ本当に三を選んでいたらお前の首が飛ぶけどな」
「理不尽」
「知っとる」
それから駄弁ってみたりいつも通り掃除してみたり販売所で時間をつぶしたりしながら12時くらいになる。
もう一人の人影が現れた。
千夏…といきたいとこだが残念。佳苗であった。
「おはよー…寝すぎちゃった」
「構わん。誰かさんまだ起きてこないし」
「あれ?ちなっちまだ起きてきてない感じ?」
「起きる気配がねえ」
「起こした方がよくない?」
「今から行くべ」
というわけで千夏の部屋である。
中に入るのは優美一人であるのだが。
「おい千夏。起きよ。朝じゃ」
「…zzz」
「あーさーだーぞー!」
「…んぁあ…あと一時間…」
「あと一時間じゃねえよ。5分とかならまだしも。というか全員起きてんだよ。さっさと起きやがれ」
布団をひっぺはがす優美。
もぞもぞする千夏。
「なんでもいいから起きてこいよ。いいな」
「んー…」
とりあえずその状態で放置である。
まあなんか目は開いていたので大丈夫だろう。
なお実際に千夏が部屋から出てきたのはそれから1時間後である。
言ったことを見事にやってのけた。




