ハーレムもの
優美の次は千夏の番。
「え、えっと、あの?な、なんて?」
「す、好きなんです!付き合ってくださいぃ!」
「ええ!?」
ここは校舎裏である。
今日はこの高校の終業式である。
なにやら千夏が机の中を確認したら見知らぬメモが出てきたので見てみたところ
放課後校舎裏に来てくださいとか書いてあったのである。
それで来てみたらこれである。
「え、え、ええ?」
「最初見た時から好きで好きでたまらなかったんです!どうか、どうかお願いします!」
「いや、あの、こう、い、いきなり来られても困るっていうか…」
「わ、分かってます!分かってるんですけど!今日言わなきゃ言える気がしなくて!」
「で、でも私あなたのことあんまり知らないし…」
「これから知ってくれればいいです!どうか、返事だけでももらえませんか!?」
「うー…」
優美のちょっと前の色恋沙汰を見て数日してからのこれである。
まさか自分に来るとは思ってなかった千夏であった。
なお相手の男子の顔は知っているが、正直話した記憶はほぼない。
「え、えっと、と、友達からじゃ…?」
「駄目です!お願いします!いいか駄目かはっきり言ってください!」
「うぅ…」
伝家の宝刀、お友達からが封じられて言いよどむ千夏。
「と、とりあえず明日まで、へ、返事まってくれませんか…いきなりすぎて、ど、どうしたらいいのか…」
「わ、分かりました…どこで会えば…?」
「あ…そうだ、学校もう終わりだった…」
今日は終業式。
学校が終わる日である。
千夏自身は部活等で来る日もあるが毎日ではない。
相手の男子が来る保証もない。
「そ、それじゃ、明日のお昼にこ、この場所で」
「は、はい!」
とりあえず返事は先延ばしにする。
というか本気でなんて返したらいいのか分からなくなったのである。
そも、男の心が抜けきってない現状でいきなり同年代の男子に告白されても困りものであった。
「うぅ…ま、まさか本当にこんなことがあるなんて…そ、そりゃあしげみっちゃんの時もあったけど、なんかあれは流れだったから告白って感じじゃなかったし…」
そしてそんな千夏の手元にあるのは5枚のメモである。
そう、何を隠そう千夏の机に入っていたメモは1枚ではなかった。
まさかの5枚、しかも全部違う人と思われる。
結構洒落になってなかった。
「…もしかしなくても、これって…」
メモを見ながら立ち止まる千夏。
指定されていた場所が全部違ったのは幸か不幸か。
「うわぁあ…どうしよう…」
頭を抱える千夏。
一番の問題はとてもではないが千夏自身が受け入れ体制が出来上がっていないということである。
そのためどう考えても断るしかないのだが、
千夏自身の妙なやさしさが発動しているせいでどうにも正面切って断れないのである。
ただ単に臆病なだけかもしれないが。
「と、とりあえず行くだけいってみよう…」
まさか放置するわけにもいかないので指定場所まで歩いていくことにする千夏であった。
そうして待ち受けるのは怒涛のラッシュである。
「好きですっ!付き合ってください!」
「と、とりあえず明日まで…」
二枚目である。
「こ、これ受け取ってくださいっ!」
「え、えっとこれは」
「ら、ラブレターですっ!」
「ふひぃ!?」
三枚目である。
「君がどうしても頭から離れなくて…付き合ってくれないか?」
「ご、ごめんなさいぃ!」
四枚目である。
まさか壁ドンされるとは思わなんだ。
「あ、あ、あの、あの」
「えー、っと。な、なんでしょう?」
「え、あー、え、えーっと、あの」
「は、はい」
「す、好きです。つ、つ、つ、つきあて、く、ください」
「え、えーっとそ、その、ご、ごめんなさいっ!」
五枚目。
やっと終わりであった。
「…う、と、とりあえず帰ろう」
疲れた感じで帰路につく千夏である。
そうしてそのままコタツでぬくぬくしていた優美の下へと帰還した。
すかさず今までの事を話す。
「ふ、く、くく、はははっ!モテモテじゃあないっすか千夏さん!」
「ほ、本当にどうしたらいいか分からなくて困ってるんだってば!」
「わ、わりい。く、くく、だが5人。多い。多すぎ。ど、どこのハーレムエロゲ、くはは」
結果優美の笑いがしばらく収まらない事態になった。
「ふー、あー、はーはー。それでさ、どうするのよそれ」
「…どうしたらいいんだろう。少なくとも返事を保留しちゃった人が3人もいるんだけど…」
「なんでこう一発で切り裂かないかね。お前の場合少なくとも現状受ける気はないんだろ」
「…無いね。うん。むり。男とキスとかするはめに陥りそうになったら逃げる」
「だろ。だったらなぜその場でごめんなさいとやらんのだ」
「え、そんなことしてこうなんか仲が悪くなったら嫌だし…」
「仲がいいもクソも、そいつのこと知らんのだろう」
「いや知らないけど…」
「だったらそうやってきっぱり断ったほうがそいつの為じゃねえか」
「優美ちゃんだって先延ばしにしたじゃん…」
「ん、俺の場合は約束は守るぞ。期待させといてはい終わりとはしないからな。この前も言ったろ」
「むむぅ…」
「まあとりあえず明日ちゃんと会って断るだわな」
「それしかないかあ…」
「そりゃ付き合う気もないのに期待持たせたまんまじゃだめだろ」
「だよね…分かった、明日言ってくる」
「そうするだね」
コタツから少しだけ体を起こす優美。
「ま、この手の事を受け入れれるのなんてまだまだ先やわな」
「だよねぇ…」
「でもお前学校はいる前になんて言ってたか覚えてるか」
「ん?」
「男どもはべらせたいんじゃなかったのか?」
「…あ、そういえばそんなこと言ってたね」
「忘れとったんかい」
「うん。忘れてた」
「別にやってもいいのよ」
「無理。そんなこと言ってたけど、実際行動に移すとか無理です」
「こう教壇のとこに立って、この愚民どもぉ!ってやってもいいのよ」
「絶対無理。そんなことやったら私の心がブレイクしちゃいます」
「こう朝教室の扉を開けてちょっと経ってから、この千夏が入ってきたのに挨拶も無しとはどういうつもり!?とかいう感じで」
「無理、無理。絶対に無理です」
「演じれば案外いけるかもよ」
「そういうの無理なんです。メイドさんの定型句すらいえないのに」
「そういや俺相手にすらお前駄目だったけ。そりゃ辛いわ」
そのまま立ち上がる優美。
「まあ、明日ちゃんと言って来いよ。よけいな期待を持たせちゃだめだぞ」
「うん、分かった」
「じゃあまあそういうことだ」
そのまま部屋を出かけてふと立ち止まる優美。
「…ああ、そうそう。俺はいつでもオッケーだからな」
「ふえ?」
「別にお前が俺に告白してきたらその場で受けてやる。というわけだ」
「え、いいよ。レズになる気はないし」
「中身ホモだけどな」
「もっといやです」
「そして片方の精神ともう片方の肉体で考えるとノーマル」
「ややこしい」
「あ、ちなみにそんなことあったらその場で食うからよろしく」
「怖いって」
「見た目は俺のストライクゾーンついてるから問題ない」
「私が大問題です」
その次の日千夏は全員の告白をあらためて断った。
正直内心ビクビクものであったが外面には出さず、自然な感じにである。
「考えてみましたけど、やっぱり。駄目。です。付き合うのはまだ私の心が許しません。ごめんなさい」
「…いえ、むしろ、きっぱり断られてすっきりしました。ありがとう」
「…ごめんなさい」
「いいんです。むしろ未練が残らなくてよかったです。あ、でも見かけたら挨拶くらいしてくれると嬉しいですかね」
むしろ反応は良好であった。
そして知らず知らずさらに株が上がっていく千夏であった。




