こいのめもりー
「そういえば今日小学校が終業式だったらしいよー」
「へー」
「一年がもう終わるね」
「はええもんだな。実感ないけど」
掃除しながら優美が呟く。
「…そろそろ正月だな。ここもえらいことになるのか」
「人はそれなりに来そうだよね。ここ近くに神社ないし」
「どうしよ。二人でここ回せるのだろうか」
「最悪片方が寝て、片方が起きてを繰り返すとか」
「つーかマジでそうなりそうなんだよね。夜中とかにも人来られるとさ」
「一日くらいなら徹夜頑張ってもいいけどね」
「下手すると三が日の間ずっとって可能性が」
「さすがにそれは死んじゃいます」
「寝不足で死亡とか勘弁だわ」
「だよねえ」
「嘘か本当かは知らんけど、そういうの続けてたら幻覚が見え始めたとかいう話も」
「それ信用度は?」
「ぶっちゃけ微妙だがね。まあ体によろしくないことに変わりはない」
「基本夜遅くまで起きてても次の日起きるのが昼過ぎだもんね私たち」
「せやな。だから休日前しかそういうことやらないしな」
掃除の手を止める優美。
「そういや今日は子供ら来てねえな」
「今日は家の方に遊びに行ったりしてるのかもね」
「ああ。まあ小学生じゃ今日すぎるとしばらく連絡取れない可能性高いしな」
「まあハイテク小学生は知らないけど」
「使ってるやつもいるしな。もう」
座っていた千夏が立ち上がる。
「出かけてこようかな」
「ん、別にええけど。ただ暗いから気をつけなはれ」
「うん。分かってる」
「変質者もだが、普通に事故とかにもな」
「うん」
「それなら行ってら。連絡はくれよ」
「分かった。それじゃ行ってきまーす」
「行ってらー」
後姿を見送る優美。
境内掃除だなんだは優美の仕事である。
さすがに雪が降ったりしたときは手伝ってもらうが。
「…んーなんか久しぶりにこの時間で俺だけだな。ここ」
最近はなんだかんだで子供が遊びに来る率が上がっていたので誰かかんか居たのである。
誰もいない静かな神社も久しぶりであった。
「時刻は夕刻…と。ここは相変わらず夕日が綺麗じゃの」
ちょっと横を向けば綺麗に夕日が見えるのである。
自然が多い地形も合わさって優美の好みである。
「今の俺って結構絵になってたりするんだろうか。くく」
くだらないことを考えながら掃除を再開する優美。
「…んぁ?誰か来た?参拝客かね」
パタパタと石段を上がってくる音が響く。
誰か来たらしい。
「…ま、邪魔にならない位置にいればいいよね」
基本的に神社にいる優美にとってはこういうことも日常になりつつある。
普通の参拝客相手に必要以上の干渉もしないので。
「…んあ?」
が、見えた頭は知ってる顔である。
ここに遊びに来ていた小学3、4年生くらいの子か。
「一人…?いっつも誰かと来るのに」
ちょっと気になったので近寄る優美。
「今日は誰も来てないよ?君も一人だし…どうかした?」
「誰もいないの?」
「来てないね」
「ちーねえは?」
「ついさっき外に出てっちゃったけど。なんか言いたいことあるなら伝えとくけど」
「いや。今日は優美姉に用があるんだ」
「私?」
優美の頭に飛来するのは当然クエスチョンマークである。
なんか言われるようなことしたっけかとかそういう感じの。
「用ってなんでしょ?」
「え、えーと」
「?」
言いよどむ少年。
若干顔が赤くなってる。
「何?」
「…!好きです!付き合ってください!」
「…」
「…」
「はいっ!?」
唖然である。
頭に溜まっていたクエスチョンマークがぶっ飛ぶ。
驚き以外の何物でもない。
「え、ちょ、え?」
「最初会った時から好きでしたっ!何回もここに来るうちにもっと好きになってっ!今日言うって決めてたんですっ!」
「ま、まま、待って。待って。私?本当に私?千夏じゃなくて?」
「優美姉が好きなんですっ!」
「にゃい!?」
持ってた箒が地面に落ちる。
とりあえず改めて認識して思考回路が凍結したのである。
「…」
「…」
「…あ、えー、えーと、ごほん」
軽く頭を振って思考回路を回復させる優美。
「…本当に、私、なの?いや、知ってると思うけど女っ気ゼロだし偶に一人称俺になったりする私だよ?」
「それでも好きです」
「…そっか」
一旦目を閉じる優美。
「そうか。私が好きか。うん、ありがと。素直に。ありがと」
「…」
目を開ける優美。
「…でも、今、その言葉は聞けない。ごめん」
「え…」
「別に君が嫌いなわけじゃない。他に好きな人がいるわけでもない」
「…」
「でも、でも。まだ早い。その言葉を受けるには、私も君も、まだ幼すぎると私は思う」
その言葉に泣きそうになる少年。
「…だから、さ。今はその気持ち、しまっておいて。そうだね。あと5年、いや10年かな。それだけ経っても、その気持ちが変わらなかったら、さ。もう一回ここにきて。その時は、真面目に君との付き合いを考えるから」
「…」
軽く少年の手を握る優美。
「ごめん。私こういうの軽々しくオッケーとかできないからさ。こんな返事になっちゃうけど、許してね」
軽く微笑む優美。
「まだまだ君には出会いがあるはずだからさ。私よりもいい人がいるかもしれない。でも10年後、私も君も大人になって、それでもまだ私しかいないっていうのなら。また、ここに来て。待ってるから、さ」
「…分かった。約束だからね。優美姉」
「うん。約束。はい手だして。指切り」
小指と小指が絡む。
「…ゆーびきりげんまん。嘘ついたら針千本のーます。ゆーびきったっ!」
「絶対だよ。絶対約束だからね」
「大丈夫。約束は破らない主義です。もし破ってたら本当に針千本飲ませていいからね」
「やだっ!そんなことしたら優美姉死んじゃうじゃん」
「はは、それもそうか。いや案外大丈夫だったりして」
「絶対大丈夫じゃないよ」
「ふふ、ありがとね。言ってくれて嬉しかったよ」
「うん!じゃあ、今日はそれが言いたかっただけだから!またね!」
「ばいばーい。気を付けて帰りなよ」
少年が去っていくのを見送る優美。
「…」
そのままその場でぼーっとする優美。
「…まさか告られるたあ思わなんだ」
□□□□□□
「ということがあったのさ」
「私がいないあいだにそんなことがあったとは。いればよかった」
「見る気かよ」
「ちょっとこうちらっと」
時刻は夜。
千夏が帰ってきてしばらくしたところである。
「でも10年後ってひどいなあ優美ちゃん」
「なんでよ」
「ほとんどノーって言ってるようなもんじゃないですかそれ」
「だって今の歳考えてみなよ。小学生よ。まだ無理だろ普通に考えて」
「期待を持たせてるだけひどいと思う」
「言っとくが嘘はつかんぞ。本当にあいつが10年後にこの約束覚えててまた告りにくるようなら真面目に考えるさ」
「ああ。でも考えるとこからなのね」
「そりゃね。いくら約束覚えてたとしても性格が狂っちゃってたりしたらさすがに無理だろ」
「いや、まあそりゃそうだね」
「正直こんな約束覚えてるくらい一途なら見てくれが多少悪くなってようが気にはせんよ。そん時は正式に付き合うまでさ」
「実際どうなんだろうね」
「10年後がどうなってるかだね」
「とりあえず今はまだ無理だよね」
「せやな。さすがに今すぐはいろいろ無理です」
「さすがにまだ男に言い寄られる準備はできていないです」
「まあ確かに実際お前も一回告られてるもんな。茂光に」
「そうだよ。丁重にお友達からって言っといたけど」
「しかし恋人に発展することは」
「たぶんないですね」
「お前のほうがひどい」
「でもさすがに10年くらいアタックされたら落ちる自信はある」
「まあそれはさすがに」
「でも今すぐのお付き合いは無理なのです」
「だよね」
大きく息を吐く優美。
「にしても初めてああいうことされたせいでアルティメット思考停止した俺氏」
「私もしげみっちゃんに最初言われたときは戸惑ったよ」
「あれだよ?冗談抜きで頭が一瞬スパークしたからね」
「そこまででしたか。私そこまではいかなかったけど」
「なにせ全く想定してなかったしな。箒落としたっていうね」
「唖然ですか」
「冷静になるまで結構かかったわ」
「まあその手のことって前は一回も無かったし」
「…本当にこういうことに関しちゃ子供同然かもな」
「にしても乙女だね」
「しかたないでしょ、慣れてないし」
なお次の日もその少年はやってきた。
優美も少年もほとんどいつも通りであった。
ちょっと優美が少年を見る目が変わったかもしれないが。




