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初めて

「ねー優美ちゃん」


「なにー」


「ケーキ作り手伝って」


「…なんやて?」


「いやだからケーキだよ。ケーキ」


「むう、いやまあそれは分かった。が、いきなりなんだと言うのだ」


「もうちょっとでクリスマスだしケーキ欲しいじゃないですか。それの練習」


「買ってきてはいかんのか」


「別にいいけど、なんかこの機会に作れるようになっておきたい」


「ん、まあいいよ」


「ならやるお」


「ただし知っての通り俺はお菓子作りどころか料理もまともにやったことないぞ」


「大丈夫仕事はあげるから」


「さいですか」


台所で二人でエプロン姿で立つ。

無駄に広いので狭くはない。

優美の貴重なエプロン姿でもある。


「で、まあ俺氏は何をするかもさっぱりなんだが、その点どうなの」


「大丈夫です。調べてきた」


「ちゅーか何作る気なん?」


「チョコケーキなのです」


「チョコケーキか」


「ダメですか?」


「いんや。別に。ただそういやお前ショートダメだったなと思い出してな」


「ショートっていうか果物がダメなんだよね」


チョコケーキは好きである。


「それで。最初は何をやれば良いのだ」


「とりあえず材料出すです」


「あ、うん。せやな」


何にも用意されてなかったことに気づく二人。

冷蔵庫等々よりいろいろ引っ張り出してくる。


「じゃあ改めて何するです」


「とりあえずこいつとこいつをレンジでチンして溶かして混ぜるのです」


「ん…板チョコと…バターすかね?」


「そだよ。溶かして混ぜるです」


「あいよ」


そのまま適当にそいつらをレンジでチンし始める優美。


「つーかこの板チョコビターなのですか」


「そうです」


「甘さ控えめなのね」


「たまたま家にあったのでそのまま使うことにしたですはい」


「なるほど」


優美と喋る傍ら、卵を割って砂糖と一緒に泡立てる千夏。

毎日台所に立ってるのも相まって手際はよい。


「えー、でこの溶けた物をこうぐにぐにしてけばいいわけだな」


「粗熱が取れたらね」


「あっはい」


「あと混ぜるときは牛乳も入れてね」


「あいよ」


ちょっと経って粗熱が取れたので混ぜ始める優美。


「ねればねるほど色が変わってふっへっへっへっへ」


「いうほど変わってないけどね」


「こうやってつけて…うまいっ!」


「ちょ、つまみ食いは駄目なのです」


「安心せい。別に食っとらん。ただのネタじゃい」


そうこうしてる内に混ぜ終わる。


「で、まあ出来たけど、どないすん?」


「それと私の混ぜてたこれを合わせるです」


「ほいっと」


どばーっと自分が混ぜた物を流し込む優美。


「ちょちょ、もうちょっとゆっくり」


「ん?ああ、すまん。まあもう全部行っちゃったけど」


「遅かった…」


「まあ混ぜるだけだし問題ないない」


どのみちどうしようもないのでそのまま混ぜる千夏。


「なんかあれね。こういうことやってると女子な気分」


「ケーキ作りは初めてかなー」


「ま、なんか最近はこういうことする男子も多くなってきてるようだが」


「学校でたまに配ってくるよね」


「そしてそれがわりかし美味しいというね」


「今日のこれも味は保証します」


「ん、ま、どんな味でもとりあえず食うけど」


「材料自体は市販のチョコだし大丈夫だと思う。あ、それとって」


「ん」


千夏に言われてココアだなんだをぶち込んでいく優美。


「それどんだけ混ぜるのさ?」


「いい感じになるまでかな」


「具体的にどれくらいさね」


「弾力あるかんじ?」


「スライム的な?」


「いやそこまでいかないけども」


そのうち混ぜていた物が茶色っぽい粘性の生地へと進化していっていた。


「これでほとんど完成みたいなものです」


「早いな。いや簡単すぎじゃねーか」


「そういうの選んできた」


「ま、楽なのはよいことだ」


そして登場するのが炊飯器である。


「ふむ。炊飯器だな」


「ここで作ります」


「…できるん?」


「やれるって言ってた。たぶん大丈夫」


ドロリとした生地を流し込む千夏。


「あとは白米炊くのと一緒なのです」


「さいでっか」


「というわけでぽちっと」


炊飯器にスイッチが入る。


「…というわけであとは待つだけですね」


「さいでっか」


「お疲れ様でした」


「俺必要あったかこれ」


「一人でもできるとは思う」


「一人で十分だった気がした」


「あえて二人でやることに意義があるのだよ」


「まあ、うん。お前とやる分にはわりと楽しかったので構いませんが」


少々時間がかかるのでリビングに移動。


「人生初のお菓子作りであった」


「意外と簡単だったね」


「俺やったことなんかこうねるねるねるねしただけっていうね」


「一応作業工程の短縮にはなってるよ」


「やった感はあんまりないっすわな」


「まあ、うん。それ言い出したら正直私もお手軽すぎてあんまり」


「あんなに簡単にできてしまうものなのだな」


「混ぜるのに多少時間を要するくらいだよね」


「分量間違えなきゃどうとでもなりそう」


コタツに入ってしばらく休憩する二人。


「というかどっからケーキ作るなどという発想に至ったのだ」


「いやなんか周りの子たちが作ったーとかいってるの耳にしまして」


「作りたくなっちゃった的な?」


「それもあるし、単純に作ってみたらどうなるのかという好奇心もあり」


「お前の女子力の上がり方がヤヴァイ」


「でも優美ちゃんもわりと女の子してる気がします」


「でも女子力は皆無」


「別に私も気がついたら身についてただけなのですが」


「でもなんだかんだで率先してお菓子作り取り組んでますし」


「実は前からちょっとやってみたかったという」


「そうなん?」


「そうなの。でもここに来る前は炊飯器をさっきみたいに使うの禁止されてたの」


「にゃるほど。よく作ろうとしますな」


当然優美は作るくらいなら買ってくるという考えの持ち主である。

だって作るのめんどくさい。


「できたー?」


「いやまだ早いから」


「く、いつになればできるのだ」


「少なくとも5分じゃできないよ」


「俺は米を炊く時間も知らぬのだ」


「マジですか」


「俺の家庭力の無さをなめるんじゃあない」


「誇ることではないですねそれ」


「わかっとる」


結局それから数十分後。


「できたっぽいど」


「そうっぽいど」


「確認行こうか」


「せやね」


台所へGOする二人。


「おーできてるできてる」


「さあ、開くぞ。暗黒の扉を開くのじゃ」


「中身チョコケーキだからあながち間違いでもないという」


「黒いもんね」


開けてみれば、あら不思議。

わりとしっかりしたチョコケーキが出来上がっていた。


「お、意外ときっちりしてる」


「まだ食べちゃだめです」


「いや食わんし。まだ食わんし」


「竹串ぶっさして中身まで火が通ってるか確認せねば」


ぶっすりさせばなんかまだ固まってないのがついてきた。

もう一回である。


「うがー。まだ駄目なんか」


「まだ駄目ですね」


「く、早くしろください」


「意外と待ち遠しかったりする?」


「そりゃ当然。俺氏味覚だけは強烈に女子化してるからね。甘いもの甘いもの」


「まあこれビターだけど」


「チョコに変わりなし」


「チョコ食べたいだけじゃないんですか」


「そういやしばらく食べてないな」


結局ちゃんと完成したのはそれから3度後のことである。


「でけたー」


「おお」


「というわけで切って食べましょうか」


「はい皿」


「ほいさ」


適当に切り分けて持って行く二人。


「いただくのだわ」


「どぞどぞ」


とりあえず一口食ってみる優美。


「…」


「どう?」


「むう、うん。なんだろう。おいしい」


「おいしいって言ってるわりには反応薄くない?」


「おいしい。おいしいんだけど。なんだろね?食感の問題かな?」


「なんかおかしい?」


「いや、なんかよく分からない」


「とりあえず食べてみよ」


千夏も一口放り込んでみる。


「…ああ、うん。おいしい。おいしいんだけどなんだろ。あと一歩足りない感」


「うん、ふつうにおいしいんだけど何かが足りぬ」


「やっぱり手作りだとこうなるのかー」


「まあでも最初にしては十分上出来な気もする」


「味は悪くないよね」


「うん。普通に食べれますしおすし」


なんだかんだいいつつもとりあえず切り分けた分は全部お腹に収める二人であった。


「うん、なんか足りない。お菓子職人への道は遠そう」


「まあそこまでガチになる必要もないと思うがね」


「でもなんかちょっと悔しいじゃないですか」


「分からんでもないが」


「クリスマスにはこれを超えた物を目指す」


「がんばってー」


「あ、でももう一回作るときも優美ちゃん手伝ってね」


「なんでやねん」


なお作ったケーキは次の日には完食していた。

色々言いつつも普通に食べてるあたりそれなりにおいしくはあったのだろう。


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