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_____夢路2_____

前の夢路を読んだ方は分かるかもしれませんが、夢路の話は基本的にこの話の設定部にかかわる少し本編とは外れた夢の中の話になります。


「んあ…?ここって」


緩やかな流れとほんのり明るいその空間はいつか見たことのあるものである。


「ここ、前名前もわからんのに会った…」


「優美」が呟く。

今ここにいるのは優美である。

勇人ではなく。


「…相変わらずここは何にもできんなあ。流されてますか」


ふわふわと空間を漂う優美。

さっそくここでは何もできないのは学習済みである。


『聞こえるか』


「お、お出ましですかね」


辺りに響くのは前ここに来た時に聞いた声。

即ち勇人を優美として神社へと送った張本人である。


「ここに呼んだってことはなんか用がある感じですかね」


『左様。今宵はそなたらに伝えるべきことが出来た為に呼び出した』


「ほう。というかその前に一個質問いいですかね」


『構わぬ』


「なんで今日は俺、優美の方の姿なわけでしょ?」


『今宵の話はそこにも関係のあることだ。先に言ってしまえば、そなたらの本来の姿がそちら側になった。とでも言おうか』


「んあ?よーするにもう俺らは今の姿で固定されちゃったってことかね?」


『端的に言えばそういうことだ』


「そういうことね。納得」


相変わらずここでは変に冷静である優美。


「それじゃあ本題に入りましょーか。話したいことって?」


『その前に、先の約束を果たそう』


「先の約束?そんなもんしたっけ?」


『我の姿をあの時は見せることはできなかった。今ならば可能だ。よってそれを果たそうと思う』


「お」


周囲をつつむぼんやりした空間が揺らめき一箇所へと集まる。

それはやがてしっかりとした形を持った何かとなってそこに君臨した。


「おおう。九尾…かな」


『左様。我こそかの神社にて祀られし九尾と呼ばれしものなり』


「ほう。じゃあ何時ぞや読んだやつに書いてあったのは合ってたのね」


だが気になる点が一つ。


「はい、狐様に一つ質問です。狐ってことは分かった。分かったが…なんで女の子の格好なん?」


目の前にいるのは確かに狐である。

だがどう見ても二足歩行してる。

というかどう見ても狐少女である。


『我は体を持つ身では無いが故に不定なり。

それ故にそなたの記憶の中の姿を再現させてもらった』


「さいですか…俺のせいっすか」


優美は狐娘は好きである。

いつの間にかそのイメージが影響を与えていたらしい。

案の定、優美の記憶らしくどこか見覚えある姿らしい。


「まあ、うん、いいや。それで話ってなによ?」


改めて真面目に話を聞く体制に入る優美。


『改変が全て終了した。そなたらは初めから今の姿、今の場所にて生まれ落ちたこととなる』


「要するに俺らの存在の書き換えじゃないけどそういうの終わったってわけ?だから今の姿で固定されちゃったってわけね。前のは消えちまったのかな」


『左様。以前の存在は無いものとなった。正式にそなたらは新たな存在、今の姿になったと言える』


「ふうん。そっかそっか。ちと寂しい話ではあるな」


『本当によかったのか?』


「前も言ったろ。自分で選んだんだし悔いはねえよ。寂しく無いって言ったら嘘にはなるけど、それだけだ」


『そうか…礼を言うぞ。二人とも』


「そういやそれだけど、お礼言われるようなことってしたのか俺らは」


少々困り顔になる優美。

それもそのはず何もやった記憶がないのだから。


『そなたらがここで生活すること自体が我にとっては益となりうるのだ』


「どういうことでひょ?」


『我のように祀られているものは信仰を糧としている。そなたらがここに居るだけで我は消えずに在ることができるのだ』


「でも悪いがぶっちゃけ俺って信仰心とかねえよ?」


『存在を知られるだけでも我の力になりうる。それにそなたらがここに来てから訪れる人も増えた。十分だ』


「そういうことですか」


『それに信仰が無いと言いつつも掃除は怠らぬし、定期的に供物を置いておったりしておるであろう?』


「いやなんかしとかなきゃいかん気がするから」


『そういった行為が非常にありがたいのだ。先代が潰えてからというもの荒れ放題であった故』


「あ、やっぱり先代とかいたんだ」


『左様。我の力が残っておる限りは何もしないで次代が来るのを待つはずであったが、現れる様子も無し。我もそろそろ存在が危うくなっておったが為に強引ではあるが我の方から直接呼び出すことにしたのだ』


「それが俺らだったと」


『左様』


「でもなんで俺らだったん?」


『呼び出せるのは二人が限界であった。故につながりの強いそなたらを選んだのだ』


「でも俺と現千夏って仲はいいけど赤の他人よ?」


『赤の他人である上でそこまで仲を深めるのは容易ではあるまい。それが出来ておったからこそ二人を選んだのだ』


「真正面から言われるとちょっとあれね。照れるね」


『現に二人は逃げることもなく状況を受け入れ、今に至るまでこの地で共存してのけた。そしてこの地に残ることを選んでくれた。我の選択に間違いは無かった』


「ま、今俺らは楽しいからそれでいいんだがな。つーかもし仮に俺らが駄目だったらどないしたん?」


『もう一度誰かを呼び出せるほど我に余裕は無かった。その時はただ消えゆくのみであったろうな』


「うわ、あぶな。もうちょいで俺、神殺しとかになるかもしれなかったのか」


冗談めいた調子で返す優美。


『そなたらのおかげで我の力も回復した。後は自由に生活するがよい。我も手助けするが故』


「ま、その点は安心してつかあさい。今まで通り普通にやってくからな」


狐娘が微かにほほ笑む。


『…今宵はこれまでとしよう。またいづれ、この場所で会おうぞ』


「ああ。あ、そういや現実の方には来られないのか?」


『我は本来人との交流は許されざる身。現世で降臨することは絶対に許されぬ』


「そっか、残念。普通に喋ってみたかったんだけどな」


『ふふ…仮にも神の座に立つ我と普通に話してみたいとは』


「う、気、悪くしてないですよね?」


『気にするでない。むしろ我は嬉しいぞ。ここ数十年話す相手もおらなかったが故にな』


周囲のもやが晴れ始める。


『さらば。そして改めてこれからもよろしく頼むぞ。また会おう』


「それでは」


優美の意識が薄れていく。


「…あ、そういえばなんで俺ら女になったんだ…」


そんなことを思ったがそれも含めて真っ白な世界に消えていく――


□□□□□□


「…んぁ」


優美が目覚めた。


「…朝かぁ…」


ぐーっとのびをする優美。


「…なんか変な夢見た気がするぞ…大事な物を忘れたような夢を…」


考えてみるが思い出せない優美。


「ま、いいか。…さてと、今日も一日グータラしながら頑張りますかね」


そう言いながら起き上った優美であった。


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