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積もる 凍る 滑る

「うお。積もってやがる」


一段と冷え込んだ朝。

ストーブをガンガンにつけた部屋の中で起き上がった優美が見たのは真っ白い世界であった。

要するに雪である。


「さぶいねぇ…まあやることは変わらないけどさ」


いつもの巫女服の下に着込みつつ境内掃除に移る優美。


「何センチくらいだろ。これ」


白く積もった雪の上に足を置くと

ざくりという音とともに足が沈みこむ。

少なくとも数十センチは積もっている気がする。


「とりあえず参道は確保せにゃな」


いつもの倉庫より雪かき棒を引っ張り出してくる優美。

何故か掃除用具は無駄に豊富なこの神社である。


「…よいしょっと。重いし」


重い上に寒い。

二重苦である。

今の体が少し恨めしい優美であった。


「たいして量はないけど時間かかりますなこれ」


それなりに広いのでそれも仕方ないと言えばそれまでだが。


「おはよ。優美ちゃん」


「ん、おはよ。どうした外に来て」


「雪降ってるから優美ちゃん雪かき大変じゃないかなって」


「ん、割と辛い。手伝ってくれると助かるけど時間大丈夫か」


「まだ余裕あるから」


「んじゃ手伝ってちょ」


千夏も雪かきを手伝う。

参道は見えるようにしておいたほうがいいんじゃないかという優美の考えである。


「結構積もったね」


「だな」


「こんなに積もるの初めて見た」


「まあ元々俺らがいた地域ってそこまで雪まみれになるような場所じゃなかったもんな」


ここに来る前にいた場所は一年に一回積もるかどうかというレベルであった。

雪遊びできるレベルに積もるのも結構稀だったので、数十センチ積もってる雪は二人には結構珍しい。


「とりあえずこんなもんでいいか」


なんとか参道は確保した。

これで一応道は分かるだろう。

まあ迷うような広さではないが。


「じゃあ私は朝食準備してくる」


「いてら。というか寒いし俺も一旦入ろ」


「本当に寒いね」


「極寒だぜ。とりあえず早くあったかい飯にありつきたい」


「今から作りますね」


「おねげえします」


そのまま家のリビングに戻る二人。

千夏は台所で朝食準備である。

優美はコタツにほとんど頭以外全部入っている。

相変わらず家事は任せっきりであった。


「ふはー。汁物が体に染み渡るわー」


「こういう日は汁物いいよね」


「おでんとかも食いたくなってきた」


すっかり体の冷たさが回復した二人。


「千夏。足元気をつけろよ。下手すりゃ死ぬぞ」


「大丈夫。足元は注意するから」


「ゆっくり行けよ。滑って頭打ったらシャレにならん」


「分かってます」


心配しすぎるほど心配する優美。

まあ優美もこけたことはないのだが、

よく道端でこけそうになってた人がいたので。


「それじゃまあ気をつけて」


「行ってきます」


「いってらー」


ところがそう簡単に行くわけではない本日の登校。


「あ…」


千夏の眼前にあるのは階段である。

神社の石段である。

その段数普段と変わらず50段。

しかも雪がしっかり積もっている。

凍っているかもしれない。

完全に処理を忘れていた二人であった。

地獄である。


「ど、どうしよ。溶かしながらとか無理だし」


短い距離ならそれでも行けそうだが、残念ながら長いので得策とは言えない。

やってる間に遅刻しそうである。


「…休んじゃだめかな」


そんな千夏の頭をよぎるのは何処ぞの巫女服幼女。優美である。

どう考えてもそんな理由で休むことを許可してくれるとは思えない。

そこらへんは優美は厳しい。


「…仕方ないっ」


覚悟を決めて一歩目を踏み出す千夏。

心底手すりがあってよかったと思う次第である。


「うわぁ…物凄い足場がわかりにくい…」


足がついたのは想定より深い場所。

しかも雪が繋がって階段段の境目がわかりにくいときた。

下手しなくてもずり落ちそうである。


「怪我とかしたくないしなあ…ゆっくり行くしかないよね」


痛いのくらいなら我慢できるが、顔とかに傷はつけたくないので。

そこからの進行はゆっくりしたものであった。

時間をかけつつも安全第一で下までやってくる。


「ふーなんかここだけでどっと疲れた」


そしてそのまま前に進もうとする千夏。


「うわっ」


そして何かに蹴つまずく。

滑ったわけではない。

何かに引っかかっただけである。

なんとか体制を立て直し後ろを振り返る千夏。

そこには何もない。

何につまずいたか不明である。


「…雪よりもドジ踏む方に気をつけないと…」


雪関係なしに普段からわりとよくあるのである。

あらためて肝に命じる千夏であった。

そのままなんとか学校にまでたどり着いた。

なお早めにでたのに時間的にはぎりぎりである。

雪って怖い。


「う…またここ通らないと…」


そして帰りである。

またである。

階段である。

まだ雪は降っているので下手したら行きよりも厚みが増してるかもしれない。

どうやら優美はここのことは忘れたままのようである。


「い、行き大丈夫だったし」


ということで登り始める千夏。

相も変わらず境界線不明な上に、

凍ってる面積が増えたのか行きよりも滑りやすくなっている気がする。


「あうっ」


つるっとあしが一瞬すべる。

立て直したが、ぶっちゃけかなり怖い。

半分ぐらい上るだけで神経がだいぶ持ってかれる。


「うー、荷物重い」


当然学校のカバンは持ったままなので重い。

行きは最悪先に投げて地面に落としとくとかいう手が使えなくもなかったが帰りはそうもいかない。

邪魔だが持ってあがるしかないのである。


「はあ…やっとついた。エレベーターほしくなるよ」


上り始めてから数分。

なんとか上までたどり着いた千夏。


「はぁ…ただいまあ」


「ん、お帰り。どした疲れた顔して」


「あのね。階段がね」


「ああ」


「そこの階段なんだけど」


「うん」


「ものすごい凍ってて怖かった」


「あ」


「忘れてた?」


「思いっきり。そりゃそうだよね。階段にも雪積もりますよね。凍りますよね」


「うん、滑りかけた」


「よく学校行けたな」


「手すりにつかまりながらゆっくりと」


「手すりつけといて正解だったな」


手すりは後付である。

無いと落ちそうで怖かったので取り付けた。

おもに優美が。


「分かった、ちょっと溶かしてくるわ。お前は手洗って体あっためとけ。絶対冷えてるだろうし」


「うん。学校は暖房ついてたけど行き帰り死ぬかと思った」


「だよね。寒いよね」


「寒いです」


「そのためのコタツ」


とりあえず階段の方に行く優美。


「うわー。やべえわこれ。よくあいつ通ってきたな」


とりあえず一旦家に帰ってお湯を沸かす優美。


「何してるの?」


「ん、雪溶かすお湯沸かしてる」


「そのお湯が凍らない?」


「うーん、凍りそうだけどとりあえず。現状だと足元すら見えんし」


「なんか塩かけるといいって聞いたことあるけど」


「まあじでえ。やってみようかな」


「あんまりお塩ないけど」


「駄目じゃん」


「でも多少使っても大丈夫だから」


「じゃあその多少とやらの分量をくれ」


「りょーかい」


とりあえず助言通りに塩を持って外にでる優美。

傍から見ると塩とお湯もって外に出てるとかいう結構謎な光景である。


「とりあえず足元確保」


お湯を垂れ流しにして溶かせる分だけは溶かしておく。

そしてもう一回凍結しないように塩をまいておく。


「…こんなでいいのだろうか」


量もそんなにないのでところどころ塩がまいてある状態である。

しかも食塩。


「…まあいいや明日になれば分かるだろ」


家に戻る優美。


「どう?」


「分からん」


「分からんとは」


「すぐ効果でるわけでもなさそうだしな」


「ああ」


「ま、明日にでもなればわかるだろ」


「凍ってないことを願う」


「本殿行って願ってきたら?」


「そういえばここ神社だった。行ってこようかな」


「忘れるなし」


そして次の日である。

朝再び階段に行ってみる千夏。


「…少しは…まし、なのかな?」


「…ぶっちゃけ分からんな」


優美もやってきて覗き込む。

正直効果不明。

凍ってないような、凍っているような。


「…ダメだな。結局凍ってる部分あるし」


「どうしよ」


「…はあ、凍結防止剤買ってくるか」


「そうしようか」


「ま、とりあえず学校行けよ」


「行かなきゃダメ?」


「うん」


その後凍結防止剤を買いに行こうとした優美が階段で滑りかけたのはもはや当然か。


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