お仕事
「優美ちゃん」
「なんだ」
「これ」
「…なにこれ」
千夏が持ってきたものは、小さな木箱のようなものであった。
装飾等々は一切ない。
「俺にプレゼントっすか?それならありがたく…」
「違うよ。学校の友達にわたされたの」
「ふうん…で、何故俺に見せる」
「あのね。それ神社で処分出来ないかって言われて渡されたの」
「…ちょっと待て。それようするにヤバくね?ヤバい物ってことじゃねーか」
「ここのところ悪夢ばっかり見るからと思って原因探したらそれっぽかったって言ってた」
「よく原因分かったなおい。じゃなくて、ようするにマジ物?」
「たぶん」
「おいおい」
そう言われて改めて見てみると禍々しい気がしなくもない。
気がするだけだが。
「つーかこれ中身何よ」
「さあ」
「聞いとけよ。重要だろそれ」
「開けてみたら?」
「やだよ気持ち悪い」
「でも気になるんでしょう?」
「気になるさそりゃ」
「じゃあ開けてみるのです」
「むう…」
なんだかんだ言いつつも中身が気になるので開けてみる優美。
「…なにこれ。干物?」
「なになに。何が入ってたの」
「見てみろよほら」
なにやら小動物が干からびたようなものが入っていた。
見ていて気持ちいいものでは当然ない。
「というかなんでこんなもの貰ってくるんだよ」
「物凄い頼まれて断りきれずに」
「…ちなみに誰」
「佳苗ちゃん」
「…あの子か。なんつーもん持ち込んでくれるのやら」
「どうにか出来る?」
「出来ないっつったらどうする気なのさ」
「仕方ないし、返してくる」
「それこそ出来ねえっつーの。はあ、一応処理はしてみる。どうなるかは知らん。この手の知識は付け焼き刃だもんでね」
「付け焼き刃でもあるんだ」
「こういうのくるかと思ってな。そしたら案の定だ」
「じゃあお願い」
「つってもこんな時間にこの手のことはしたくねえ」
なお既に夜の8時である。
真っ暗である。
「じゃあいつやるの?」
「今ではない。とりあえず明日まで保留だ」
とりあえず忘れないようにリビングのど真ん中に置いておく優美。
普通に不気味である。
「ああ、こういうことだけはやりたくねえや。どうしてこうなった」
「でも私出来ないし」
「知ってら。ぐむう…不気味だ。今すぐ燃やしたい」
「やれば?」
「それしてこっちが呪われちゃたまらんね。こいつと一晩共にするのか。嫌だあ」
その後自分の部屋に帰った後、リビングに優美が入ることはなかった。
なんか怖いので。
「むう…寝付けん。気になる」
そうしてこの手の物体があると気になるのもまた然りである。
「…オールしようかな。最悪明日の昼に寝ればいいし」
結局徹夜決行である。
悪夢見るとか言われてて寝れるほど神経は図太くない。
というか家の中にヤバい物があるのに寝付けるわけがなかった。
なお千夏は既に寝入っているようである。
「…PCつけるか」
真っ暗な部屋でPCをつける優美。
明かりはつけない。
何かが徘徊してたら真っ先に狙われそうなので。
まあただの想像だが。
「…ふふ」
どこぞの掲示板でも見てるのか微かに笑いつつPCを弄る寝巻き巫女。
顔だけ照らされて本人様子が一番怖いのだが気づいていない。
そんな中何処ぞからゴトリと音がした。
「うひっ!?」
一瞬でPCをスリープさせて布団にダイブする優美。
忘れる努力はしてもやっぱり怖いものは怖かったようである。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」
宗教がずれているがそのくらいにはビビっている。
というかパッと頭に浮かんだのがこれしかなかった。
そして横になったら眠気が襲ってきたのか知らず知らずに意識を手放す優美。
一回眠気のスイッチが入ってしまえばもう抗うなど無理であった。
「うぎゃああ!」
そして朝。絶叫で飛び起きた優美であった。
身体中が変な汗まみれである。
「はあ、はあ、ゆ、夢か」
何かよろしくないものでも見たようである。
「…起きよ」
まだ朝早いが二度寝する気分ではなかった。
そして廊下に出てみると千夏と鉢合わせした。
「ん、千夏。おはよ」
「おはよう」
「早いな」
「変な夢見て目が覚めました」
「お前もか」
「お前もってことは優美ちゃんも?」
「あい。思いっきり見たわ」
「ちなみにどんなの?」
「ひたすらよく分からん奴が追っかけてくる夢。追いつかれた辺りで目が覚めた」
「へえ」
「お前は」
「宇宙人っぽいのがじーってこっち見てくる夢かな」
「…まあ確かに変な夢だな」
「悪夢と言えるかは微妙だけど」
「その宇宙人の造形による」
「なんかうごめいてたよ」
「人によっちゃ悪夢じゃないかそれ」
喋りながらリビングのふすまを開ける優美。
そして机に置かれた箱を見て絶叫した。
「うぎゃああああ!」
「ふええ!?な、なに!?」
箱のふたがずり落ちていた。
「ふた開いてる!ふた!ヤヴァイ!ヤヴァイってこれ!」
「あ、そういう」
「なんでそんなに落ち着いてるのさ」
「開けたの私だし」
「…へ?」
「昨日部屋に帰った後もう一回リビング来た時に中身見るために開けたの」
「…驚いて損した」
驚愕から死んだ魚の目に変わる優美。
ネタをばらせば普通のことであったのだからこういう反応にもなるだろう。
「…はあ、うん、とりあえず、着替えてからさっさとこいつなんとかしますか」
「朝食は?」
「呪いの物体隣に置きながら食う気にはなれねえよ」
ささっと巫女服に着替える優美。
「じゃあとりあえずやるだけやってきま」
「いってらー。と言うか見てていい?」
「ん、こういうのって見せて大丈夫なんだっけ?」
「さあ?」
「まあよっぽど大丈夫か。好きにしてくれや」
「じゃあ見てる」
そのまま掃除以外で滅多に入らない本堂の方に行く優美。
「ここでするの?」
「場所がよく分からんけどここなら間違いないだろ」
「それで何するの?」
「軽くお祓いらしきものしてから札貼って封印だな」
「何処に?」
「うーん…まあゴミに出すわけにもいかねえし倉庫に放り込むだね」
「ああ、だからあそこってあんなに御札貼ってあった物が多かったんだ」
「まあもしも俺らの前に先代がいるとするならその人たちも同じことやったんだろうな」
その後付け焼き刃のお祓い+自作御札シリーズをぺたぺたと貼られたそいつはそのまま倉庫にさようならと言うことになった。
「ぐむう、なんか知らんが疲れたぞ」
「結構本気でやってたね」
「適当にやって恨みとかくらったら敵わん」
「そういうの本当によく信じてるよね」
「大嫌いだけど大好きですから」
ようやっとゆっくりできる二人組。
適当にお茶を入れて一息つく。
「ふええ…頼むからこの手のことは事前報告頼むぜ。死んじめえよ」
「うん。次からそうする」
「次が無いことを祈りたいけどな」
お茶を一気飲みする優美。
「…というかなんかひっさしぶりに掃除以外でちゃんと働いた気がするぞ」
「御札書いてるじゃん」
「もう半分日課だなあれは」
「販売所で売ってるでしょいろいろ」
「滅多に人来ませんからねえ」
「それでも私は家の掃除くらいしかしてないですし。たまに外掃除手伝うけど」
「まあ家の掃除は大助かりだがな」
ちびりとお茶をすする千夏。
「…さて、今回の報酬はどんだけだろうな」
「お金取るんですか」
「ん、一応仕事したし」
「いくら?」
「真面目に聞くなよ。冗談だって。お前の友達だし無償無償」
「そっか。よかった」
「さすがにそこまでがめつくねえから」
「でも結構お金に五月蝿いし」
「節約はしたいけど、そんな来る人全員から金をせしめようとかは考えてませんが」
「まあ甘いものでお金吹っ飛ばしたりしてるもんね」
「分かってるじゃないですか」
なお優美の甘いもの趣味はいまだ継続中である。
既に落ちた。
「…あれ効果あんのかしら」
「あるんじゃない?」
「だってやってるの俺だろ」
「優美ちゃんだから駄目とかないでしょ」
「大丈夫かなー」
「大丈夫。可愛いし」
「そこは関係なくねーか」
その後眠たくなった優美が昼寝したところ、特にこれと言って悪夢は見なかった。
唯一の失態は朝食を食べるのを結局忘れてお腹が減りすぎて死にそうだったとこだろうか。




