倉庫に眠る物ども
「…今日はこんなもんでいいか」
「お疲れ」
「暇なら手伝ってくれよ」
今優美は机に向かっている。
家の中に転がっていた本から仕入れた知識で最近お札やらお守りやらを作ったりするようになっていた。
この場所自体は元々あったのか参拝客自体は来るのでこの手の物も割と売れる。
「しかし」
「何?」
「俺が作った札とか売って大丈夫なのか」
「そりゃまたどうして」
「効力無さそう。字汚いし」
「信じればあると思うの。きっと」
「いいんだろうかそれで」
「いいんじゃないかな」
「そうか」
ちなみに手書きである。
優美はもともとミミズの這ったような字を書いていたことに定評がある。
多少マシにはなっているがやっぱり汚い。
「今度おみくじでも作ろうかな」
「また売るの?」
「金がなくなると普通に困る」
二人がここに来た当初、家の中にあった鍵の開いていた金庫の中に当面の生活は安定するレベルに
金品は入っていたのだが、使えば無くなるのは世の常である。
「金庫の中どうなってんの?」
「余裕は十分あるけど」
「けど?」
「やっぱ減っていくの見てるだけだと辛い。というか不安」
「まあ確かに」
「貧乏巫女化はごめんだ」
「同じく」
「お賽銭がもっとあればマシなんだけど」
普通の日は多くても二千円程度なので期待できない。
下手すると空っぽである。
「妖怪退治とかあればいいのに」
「なぜに」
「そうすれば一度に十分報酬入りそうだし」
「どこのファンタジー巫女さんですか」
「御札持って破ァ!とかやりたいね」
「私は後ろで援護で」
「回復は任せた」
「使える前提ですか」
「使えないの?」
「使える気がする。たぶん」
「なら問題ないな」
ゲームとかやってた時に敵に突っ込んでいくことが多かったのは優美である。
見た目は変わっても性格は何も変わっていない。
「そういえばさ。倉庫、あるじゃん」
「あるね。ものすごくごちゃごちゃしてて、奥まで入りたくなかったけど」
「あそこの中に何かあったりしないかな」
「何かとは?」
「金目の物」
「売るの?」
「売れそうならな」
「勝手に誰の物かも分からないもの売っていいの?」
「今さらすぎるだろ。金庫勝手にあさってるし」
「こうやって聞くと強盗みたいだね」
「俺らを勝手にこんな場所に連れてきた方が悪いと思うのね」
そう言ってさっさと倉庫に向かおうとする優美。
こういう時の行動は早い。
「あ、ちょっと待って」
「ん、どうした」
「巫女服で行く気ですか。あのゴミだめの中に」
「そのつもりだったが」
「洗うの大変なんですけど」
「…そうか確かに。着替えてくる」
「そうして」
自分の部屋へと戻る優美。
それほど広くはない部屋であるが一人の人間が生活するには十分な広さである。
「…PC欲しいなあ」
元々優美はインドア派でPCを毎日触っている人間であった。
暇になれば触っていたので、少し余裕が出てきた最近は欲求が復活してきているのである。
初めの数週間こそ色々ありすぎて暇に思うことなど無かったが。
「…着替えっか」
部屋の中にあるタンスから別の服を引っ張り出した。
このタンスにはここに来た時から種類を問わず結構様々な服が入っているのである。
「…うん。これでいいか。他のよく分からんし」
引っ張り出したのは体操着つーかジャージである。
いたって普通のジャージである。
「うんまあこれなら大して着方変わらねえだろ」
優美は女物の服にはかなり疎い。
着方うんぬん以前にそもそも種類が分からんといった始末である。
なのでここに来た後も最初に覚えた巫女服以外他のものを着ていなかったりする。
替えはあるので毎日洗ってはいるけれど。
「むう、思った以上に体の線が出ますなこれ。初めて着たけど。…いや初めてで当然か。女物だし」
鏡を前にして仁王立ちである。
優美曰く直立してるときは腕を組んでる方が落ち着くんだとかどうとか。
「終わったー?」
半開きの扉から顔を覗かせている千夏が呼びかける。
こっちもジャージである。
「うわ!ちょ、いつからいた!」
「え?着替えてる途中?」
「途中?じゃねえよ!なにがん見しとんじゃゴラァ!」
顔が少々赤くなっている。
いくら友人と言えど着替えをがん見されたらそりゃ恥ずかしくもなるだろう。
「そんなの私好みの美少女が着替えするとか言ってたら、覗くしかないでしょ」
「その理屈はおかしい」
「だって優美、ずっと巫女服ばっかだったし着替えるのすっごいレアだから」
「だからって覗くか普通」
「まあ本当は着替えられるのかなと」
「その心配はありがたいができればドアの外でお願いしたいね。できないなら呼ぶし」
「それにしても」
「なんだよ」
「無いね」
「何が」
「胸」
「喧嘩売ってる?」
「いや別に」
「いいんです。貧乳はステータスなんです」
「貧ってか無いけど」
「やっぱ喧嘩売ってます?」
そんなこんなで倉庫へと赴く二人組。
家のすぐ脇にあるのだが、これがまたかなりの大きさである。
二人とも手前の部分を掃除用具入れとして活用しているが、奥の方までしっかり見てみたことは無い。
「…暗いな。ここ」
「暗いねえ」
「…」
「どうしたのさ優美」
「…いや、別に」
「…もしや怖いんですか?」
「…怖いです…」
優美は暗いとこが苦手である。
幼少期は家の廊下すら電気が無いと足がすくんでいたレベルである。
だいぶ落ち着きこそしたが怖いものはやっぱり怖い。
「だが行かねば」
「いや別にそこまで使命感に燃えなくても」
「今やらないと一生ここの中見ない気がする」
「まあ好き好んでこの中に入ろうとする日は来なさそうだね」
「つまりそういうことだ」
「じゃあ入りませう」
「懐中電灯はあるか」
「小さいのならあったよ」
「貸して」
「あい」
入り口から足を踏み入れるとほとんど光が差し込まない。
真っ暗すぎて足元が見えないのである。
「う、なんか踏んだ」
「大丈夫?」
「一応運動靴にしてきたから」
「あ、私草履のまんまだ」
「気を付けろよ。なんか割れてるものもあるっぽいし」
時たまバリンとかグシャとか音を響かせながらさらに奥の方へと入っていく。
色々置かれているのは分かるのだが懐中電灯の光だけでは弱すぎて何があるやらさっぱりである。
「…ダメだ。全く見えん。太陽光がいる」
「ほんとだねー。あでもこれ窓じゃない?」
「え、そんなのあったの」
壁の部分に留め金があった。
窓らしい。
「うっわ埃まみれ。触りたくねー」
とかなんとかいいながらも自分から触って開けにいくのが優美であった。
窓を開けると太陽光が倉庫内部をしっかりと照らし出した。
ただし、大量の埃と引き換えにだが。
「げほっ!ごほ!ちょ一回退散!げほ!」
数年は使われてなかったと思われる窓から放たれた埃の量はなかなか絶大的であった。
数分おいてから入りなおす。
「やっとまともに探りを入れれるな」
「なんかあるかなー」
数十分そのまま探し続ける。
普通にお宝が眠っている可能性もあるので心が躍るものである。
「げほ…いやまあやっぱりというかほとんどゴミだな」
「なんなのこれ」
出てきたのは用途不明の物体が大量であった。
読めない書物から始まり大量の御札が貼り付けられ、絶対に触るなよという雰囲気を出していたものまで多数である。
「まあ、この本たちは使えるかもしれねえからとりあえず持ち出しとこうぜ」
「そうだね」
「あとはなんかないか」
そうやって探し出してきたのは長い棒状のものであった。
表面には装飾が彩られている。
「鞘かなこれ」
「鞘っぽいね」
「だとしたら刀だったりするのかな」
「するのかもね」
「おお!」
「やっぱ好きなのね」
「大好きです!」
優美は無類の刀好きである。
中学校時代に和全般が好きにはなったのだが、刀だけは飛びぬけて好きである。
「巫女に刀。最高だよね。異論は認める」
「物理的な除霊でもするんですかね」
「悪霊でもなんでもかかってくるがよいわ。ふははは」
鞘から刀身を抜いてみると太陽光に綺麗に反射した。
かなり大きめの太刀である。
「むふふふふ」
「なんかきもいよ」
「俺を狂わせる魅力がこいつにはある」
「本物?」
「いんや。模造刀。書いてある」
がっつり鞘の部分に書いてあった。
とは言えど優美のテンションは上がりっぱである。
「さて、死合うか」
「誰に言ってるのさ」
「お前以外に誰が」
「やだ。というかもう一本無いのにどうしろっていう」
「なんだろ。試し切りの的?」
「最悪の役回りじゃないですかやだー」
「しかしいいもの拾った」
「当初の目的忘れてる気がする」
「それについてはあんまり期待してなかったし別にいいのさ」
「いいのか」
その後探し続けた結果、価値のありそうなものがいくつかは見つかった。
これで当面は安泰である。
「それでさ」
「ああ」
「なんで帯刀してるの」
「なんだろ。ノリ?」
「ノリですか」
「男のロマンだよ。ロマン」
「今女だけどね」
「言わんでよろしい」