毛
2026年9月のお話。
「…」
神社裏の家の風呂場。
その中に男一人。
「…最近優美と入ってないなあ」
鏡の前に座る男の名は翔也。
優美の夫の座に位置する男である。
「まあ優美なら言えばすぐにでも一緒に入ってくれそうだけど」
風呂は結構広い。
結構無駄に広い。
二人くらいならまあ普通に入れる。
翔也がこの家に来て間もないころは、そこそこの頻度で一緒に入っていたらしい。
主に優美が翔也を引っ張り込む形で。
「…いっ!…あー」
一瞬痛そうな声を上げる翔也。
口元周辺を動いていた手が止まる。
「…出るまでに止まるかな」
□□□□□□
「優美ー」
「ん」
リビングでうつらうつらしていた優美のもとに翔也の声が飛ぶ。
リビングのすぐ目の前に脱衣所の扉があるので、叫べば余裕で届く。
「なにー」
一切の躊躇なしで脱衣所の戸を開く優美
対する翔也も既に着替え済みである。
裸を晒すようなことはしない。
ある程度一緒に過ごしてきたせいで、優美がこういう時に基本躊躇なしに扉を開くのは学習済みである。
「ああ、優美ちょっと絆創膏持ってきてもらっていい?」
「ん、どうかした?」
「切った、唇」
「…ああ、はいはい髭剃りね。ちょっと待ってろ」
「ごめん、血が止まる気配無いから早めにお願い」
「はいはい」
そういいながらリビングに戻る優美。
「えーっと小型絆創膏ってあったっけ」
ごそごそと棚をあさる優美。
日常的に必要なものはだいたいここに置いている。
が、あんまり使わない医療品の有無までは覚えていないようである。
「ああ、あったあった。前買ってきてたなそういえば」
そのまま踵を返して翔也の下へと戻る優美。
「持ってきたぞ」
「ああ、ありがと優美」
手を出して絆創膏を受け取ろうとする翔也。
が、それに対して何やってんだこいつみたいな顔で見つめてくる優美。
「おら、こっち向け」
「え?」
「切ったんだろ?貼ってやるから面かせ」
「え、いいよいいよ自分でやるから」
「いいから、ほら」
「…分かったよ」
観念して優美に身を任せる翔也。
「…ここ?」
「そこらへん」
「ああ、出てるな血。先に拭くか」
「まだ止まってない?」
「溢れてますねえ、どくどくと」
「いやそこまでひどくはないと思うけど」
「…よし、これでよかんべ」
「ありがと優美」
「んにゃ、気いつけろよ」
そのままリビングに戻る優美。
翔也もとりあえず流れる血が止まったのでリビングに向かう。
「しかし、あれだな、お前髭生えるんだな」
「いやそりゃ生えるよ。生えてくるのは遅いけどさ…」
「いや翔也の子供の時代のイメージが強いからなんというか髭とか生えなさそうな感じがして」
「いや…さすがに僕も男だから生えるからね?」
「お姉さんのとこに足しげく通ってたショタも大人になったんだなあ」
「大人になったのでそのお姉さんと結婚しました」
「ふふっ、こう聞くとなんとも言えない気分になるね?」
「でも事実だから」
「そう事実。事実なんだよねえ。現実は小説より奇なりってか。どこの馬鹿が10年追っかけやるのやら」
「ここにいるよ優美」
「そうだな。いたなあ…ふふっ」
自分の口元に手を当てる優美。
「しっかし髭ね。もう生えてる感覚が思い出せんな」
「え、優美生えることあるの?」
「え?ああ今は生えんよ?前々の話さね」
「ああ、そっか」
「これで納得してしまうあたり翔也、お前さんだいぶ毒されてないか」
「まあなんというか受け入れちゃったらそれまでだよね」
「そんな簡単に受け入れられるもんなのかねえ…」
「今の優美しか僕は知らないからね。だからかも」
「どっか分けて考えてるってことか。まあそりゃそうなるんかな」
「前の優美を知ってたならまた違ったかも知れないけど」
「ははっ、前の実際の映像をお前に見せたくはないなあ」
「ちょっと気になるけどね」
二人の会話では時折昔の話になるので、こういった話題も度々出てくるが、二人とももう特に気にする様子はない。
「というか髭生えるの遅いのっていいな」
「そう?」
「伸びるの早かったから一日でも剃り忘れしようもんならひげもじゃよ」
「あはは、そりゃ困るね」
「実は今も受け継がれてるけど」
「え?」
「これこれ」
と髪の毛を指す優美。
「髭の代わりに髪の毛は結構伸びるの早いのよ。定期的に切りにいかないと平安貴族になりそうでね」
「そういえば、結構よく髪切りにいってるもんね」
「さすがに自分でやれる気しないからなあ。切るつっても長めにしときたいから」
「優美もともと長く伸ばしてるもんね」
「ああ、長いのが好きでね。あと長くないとポニテにできないから」
「あ、そのためなんだ」
「四六時中基本的にポニテにしてんだ、察しろ」
実際ここに至るまで、
千夏に髪を遊ばれてほかの髪型にされた時以外は、
基本的にポニテか下ろしてるかの二択である。
「でも優美、髪の毛以外の毛少ないよね基本的に」
「ん、まあ確かに。腕とか足とかにもほとんど生えてないもんな。あと下もあんまり」
「ちょ、優美」
「ん、いや毛と言われてそっちが浮かんだもんで。別にそういう意味じゃないぞ」
「そ、そっか」
下に走ることは相変わらずの多さである。
「てか翔也髭あんまり生えてこないってあれか?男性ホルモン足りてないとか?」
「いやそう…なのかな?」
「いやまあそれに限った話じゃないと思うけど」
「昔からそんなにって感じなんだよね」
「まあ確かに今も翔也中性って感じだもんな」
「中性って」
「いやだって女装とかいけるだろ?てかいけたじゃん巫女服似合ってたんだもん」
「いやまあ…うう、否定できない自分が嫌だぁ…」
「うーむ、生涯添い遂げるつもりの相手の男成分が足りねえのは問題だな。よし、翔也、今から暇だな?暇に決まってるか」
「ちょっと待った優美さん?」
「やることやってりゃ分泌されるっしょ。というわけで体貸してやるからありがたく思いたまえ」
「ちょ、それ優美がやりたいだけじゃ…ストップ!すとーっぷ!せめて寝室行こう!優美!」
「えーしゃあないなあ」
この後滅茶苦茶やることやった。
お待たせしました。
投稿再開いたします。




