土手に捨てられてそうな記憶
とある日の午後である。
千夏が帰還した。
「ん?あんなとこで何してるんだろ」
ふと境内脇を見てみると少年らが3人ほど集まって何かこそこそしているのである。
気にならない方がおかしい。
「こんなとこで何をこそこそとしてるんだろ」
どうやら何か読んでいるようなのだが…
だが今の千夏の位置からは何を読んでいるのかまでは見えない。
だが、千夏の頭の中で一つの可能性が浮上する。
「あ、…もしかして」
少年たちがこそこそと読まないといけないけれど読みたくなる物体。
まあそんな物体は一つくらいしか心当たりがないのが千夏である。
「ふふ…」
千夏の顔がにやりとゆがむ。
何か思いついたのか。
すごく悪い顔である。
「ねえねえ、何してるのそんなとこで」
「うわっ!」
そして突然少年らに近づいて話しかける。
顔は若干まだにやついたままである。
「な、なんでもねーよ!」
「えー、何よんでるのか教えてよ」
「か、関係ねーだろ!」
逃げようとしたのか少年らが走り去ろうとしたところ、
体に当たりでもしたのだろうか、持っていた雑誌のようなものが落ちた。
それを千夏が拾い上げる。
「…へー、こんなの読んでたんだ」
それは俗にいうそういう類の本であった。
青少年の性を刺激する類のああいうの。
まあ、端的に言ってしまえばエロ本の類である。
「べ、べ、別に俺は読んでたわけじゃねえし!こいつが読もうとか言いだしたから付き合ってただけだし!」
「は、はあっ!?ふ、ふざけてんじゃねえよ!お前が一番最初に見つけて持ってきたんだろ!」
「ち、ちげーよ!というかお前ら両方ともすげえノリノリで読んでたじゃねえか!」
「…」
「「「うっ」」」
言い合いを続けていた少年3人であったが千夏からの冷めた目で我に返る。
少なくとも外見美少女のそれから放たれる寒い目はなかなか強烈である。
しかも3人ともそれなりに見知った中であるため余計それに拍車がかかる。
「へえ、こんなのに興味あるんだねぇ…へえ…」
「べ、別に興味ねえよ。ただここに落ちてたから気になって…」
「落ちてたんだ。でも気になってるし」
「そ、そっちの意味じゃねえよ。何が落ちてるんだろと思っただけだよ!」
「ふうん…まあそう言うことにしておいてあげる」
千夏のにやにやが止まらない。
少年たちの真意がわかってるからの行動であろう。
かつて自分も彼らと同類であったため。
「でもまあ…興味ないならいらないよねー」
ぽいっと。近場にあったゴミ箱にダストシュートである。
綺麗に放物線を描きながらシュートした「例のそれ」はそのままゴミ箱に吸い込まれていった。
「「「あっ…」」」
三人ともどもこの反応である。
つい出てしまったのだろう。
「あれ?興味ないんじゃなかったのー?」
千夏のにやにや度合いがさらに上がる。
千夏はわりとSである。
「い、いや別にそういうわけじゃ…」
「へー、じゃあ別に捨てても反応しなくてもいいんじゃない?もともと落ちてたゴミなわけだしね」
「…」
「それとももったいなかった?せっかく見つけたのに?ねえ?ねえ?」
「う」
「う?」
「うっせ、バーカ!」
「ひゃっ!」
一瞬の出来事であった。
言い返せなくて腹がたったのか、はたまた羞恥があおられすぎて理性がぶっ飛んだのかは定かではないが、
次の瞬間千夏のスカートが上方向に翻っていた。
当然というか、少年たちがやったことである。
で、視線は当然その中の物体に注がれる。
丸見えであった。
「こ、こらあああ!」
「うわあああああああ!逃げろっ!」
千夏と少年らの追いかけっこスタートである。
まあ千夏的にはこれくらいなら遊びの一環なので別にやられて本当に怒ってるわけではない。
というか、そこに至るまでにさんざん少年たちをあおりまくっていたので、まあ少々自業自得な面もあるのだが。
さて、まあそんな少年たちと千夏が去ったゴミ箱前である。
一人の人影がそこにこれまたこっそりと現れていた。
「…あ」
これまた少年であった。
ただ、なんというかこういうことに慣れてないというか、すさまじく周囲を気にしながらであったが。
周囲に誰もいないことを確認した後にゴミ箱の中の「例のそれ」を取り出す。
なんとも実におっかなびっくりな触り方である。
そのままそれを持って木の陰に隠れていった。
めくっている音がするので読んでいるのだろう。
「むう…なんかすげえ叫び声が聞こえた気がしたんだが」
そんなとこにやってくる人影が一つ。
優美であった。
掃除道具を持ってないので掃除しに来たというかさっきの叫びにつられて出てきただけらしい。
「…また千夏か?」
千夏が子供たちとよく遊んでるのはもはやいつものことなのでちょっとやそっと叫んでる程度ではもう驚かなくなってる優美である。
そのまま帰ろうとしたのだろうが、風に乗せられてきたのであろうページをめくる小さな音が聞こえてしまった。
静かな神社だからこそであった。
千夏らは既にかなり遠くに行っているので。
「…本の音?なんで」
音の発生源を探す優美。
耳は良いのだ。これくらいならできる。
「…あそこか。あんな木の陰で何よんでるっつーんだ」
そのまま木の陰に近づく優美。
この時にたまたま足音を立てなかったのは偶然か。
「なあ、何読んでるんだ?」
「!!!!」
優美の顔は純粋に疑問である。
普通に何よんでるのか気になっただけだろう。
それに対して少年の方は大慌てであった。
驚きのあまり体が跳ねて、「例のそれ」を地面に落とし、そのまま大慌てで逃げ出してしまった。
「…そんなに驚くことか?」
地面に落ちた「例のそれ」を拾い上げる優美。
その瞬間顔がはっとしたものに変わる。
「…やっちまった。そら見られたくないよなぁ…ぐむぅ…」
こういうのを見ているのを他人に見られるのがどれほどあれなのかは嫌と言うほど知っているのである。
まあ優美に関してはこの手の物体が落ちているのも見たことないのだが。
「…どうしよ。これ」
それから数時間後である。
「ただいまー」
「お帰り―。また遊んでたのか」
「ご名答です」
「案の定な。あの叫び声おまえだろ」
「正解」
「やっぱか」
「すっごい楽しかった」
「何してたの」
「なんかね。いっつもここに来てた子のグループの一部があれなもの読んでたからいじりまくってきた」
「エロ本か」
「あー、なんで言っちゃうの。せっかく隠してたのに」
「ばればれだろうがよ」
「でも美少女がそういう単語言っちゃだめだと思うのよね」
「知るかよ。つーか、もしかしてこれってそいつらが落としてったやつか」
「あれ?拾ってきたの?優美ちゃんHだね」
「誰が拾いたくて拾うかよ。人の持ち物だから捨てるわけにはいかねえだろ」
「それここに捨てられてたやつだよ?」
「マジで」
「大マジです」
「…捨てるか」
さっき千夏がやったようにゴミ箱シュートする優美。
が、外れたので拾いに行く。
「はあ…にしてもやっちゃったな」
「何をやっちゃったの」
「いやね、さっきお前の声につられて外出たんだよ」
「うんうん」
「そしたらさ、木の陰からページめくる音がするわけよ」
「うん」
「気になるじゃん」
「気になるね」
「で、見に行ったわけですよ」
「うんうん」
「そしたらいたんだね。見事に読んでるやつが」
「ああ、さっきのあれを」
「そう、で、気づかずに普通に話しかけてしまったわけですよ」
「あー」
「そしたらね、逃げてったんで何事かと思って見てみたらエロ本だったっていうことよ」
「それは気まずい」
「はー、どうしよ。しばらく境内出れねえぜ」
「気に病みすぎじゃない」
「でもあの子ともう一回顔合わせする自信がねえ」
「うんまあそれは」
「しかも中途半端に知り合いだからなおさらな」
「一番困る奴だそれ」
「どないしよーな…」
「しかも見た目が見た目だからダメージが」
「そう、そこなんだよな。今だけはこの見た目を恨むぜ」
「美少女にそういうの見られると辛いよね」
「ほんとだよ」
はーとため息をつく優美。
「にしても」
「うん」
「落ちてるもんだな。そういうの」
「なんか普通に落ちてるみたいだね」
「今まで掃除した感じだと無かったんだけどな」
「まあそうほいほい落ちてるわけでもないでしょうけど」
「まあありまくりでも俺が処理に困るだけなんだがな」
結局しばらくの間、子供が外にいる間は外に出なかった優美であった。
次その子と再会した時、ものすごく気まずかったのは言うまでもない。