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暗雲立ち込める神社

「…むう、空が暗いな」


ある日の午後の事である。

圧倒的に真っ黒い雲が上空から神社方面へ迫りつつあった。


「あいつ傘持ってかなかったけど大丈夫か」


そうこうしているうちに、雨がパラつき始める。

昨日降水確率見たら、そんなに高くなかったので傘を持ってかなかったのだが現実は非情である。


「む、降ってきおった。いかんいかん」


外の掃除を一時中断して家の方へと舞い戻る優美。


「戸締まりー戸締まりーっと」


家がかなり広いので、結構戸締まりも重労働である。

二人で住むには広すぎである。


「むう、早くせんと帰れなくなるぞあいつ」


雨は徐々に強くなり始めていた。

本降りになりそうな予感である。


「…俺も一時撤退するか」


外で待つのをやめて家の中に退散する優美。

巫女服を濡らしたくはない。


「うーん…本当に本降りになってしもうた」


ザーザーであった。


「あいつから電話来るかもしれんな…」


もしかしたらに備えて準備しようかなと思った矢先のことである。


「ただいまー」


「ん、お帰り。大丈夫か」


千夏の帰還であった。

不思議と雨には濡れていない様子。


「大丈夫。友達に送ってもらった」


「その手があったか」


「まあ、手というか成り行きなんだけどね」


「まあ、濡れてないようで何より」


空もすっかり暗くなってガチ降りである。

普段帰ってきたと思ったら即家の外に出て行く千夏も流石に今日は家にいることにしたようである。


「暇です…」


「まあうん。現状この家暇つぶし道具無いもんな」


「誰かがパソコン持ってっちゃうしね」


「必要があるときは貸してるだろ。そもそも普段いないし」


ラジオもテレビも無いので、リビングで暇つぶしはやりようが無いのである。

千夏の部屋も正直その手の類のものが無い。

服を買うのに全てを費やしているので。


「絵でも描けばいいんじゃねえの」


「ペンタブががが」


「紙に描くのじゃいかんのか」


「いや…いいよ。いいけどね。資料も無いし、そればっかりも流石にちょっと」


「…まあそうか」


千夏の趣味は絵である。

何を描いているかと聞かれれば萌え絵である。

書き続けて5年くらい。

結構うまいと思われる。


「じゃあ俺は部屋に戻る」


「なんか暇つぶしの道具無いですか」


「無くはないが。日中ずっとここいる訳だしな」


「なんか貸してください」


「えーよ。大したもの無いけどな」


「いいよ暇つぶせれば」


「あとさ」


「うん」


「着替えよ?」


「家だし、いいじゃない」


「いや、俺が目のやり場に困る」


今の千夏はシャツ一枚に黒ショーツだけ。

制服を脱いでそのまんまである。

しかもニーソは履きっぱである。


「気になるんだ」


「ならんほうがおかしい」


「でも裸は見慣れたって言ってたし」


「裸はもう別になんとも思わんが」


「うん」


「中途半端に脱げてると逆にエロスを感じるといいますか」


「ああ」


「そういうのないですかね」


「分からなくもない。脱がしてくの好きだし」


「で今のお前がそんな感じなんですが」


「別にいいじゃないですか」


「だから目のやり場に困るってば」


結局優美の部屋にやってきた二人。

千夏の格好は変わっていないが。


「お邪魔しまーす」


「はいはい入って入って」


清潔感とはかけ離れた部屋である。

布団は敷きっぱなしであるし、机の上にも物が置きっ放しである。


「というか俺の部屋入るの初?」


「夜トイレ行くとき以外は入ったことないね」


この家はトイレが縁側の一番奥、優美の部屋の隣にあたる位置にある。

夜、優美の部屋を通らないと大回りしないといけないので仕方ない。


「うわ、本の山」


「山ってほど無いけどな」


「でも結構あるよね」


「買ったからな」


少なくとも本棚いっぱいにはある。


「というかパソコンばっかやってると思ってた」


「だいたいそうだけど、そればっかだと疲れるからな」


「そうなの」


「だから縁側座って読んでみたり」


「文学少女。いや幼女だね」


「幼女言うな。まあ文学って言えるのか怪しいもの多いけどな」


「何買ってるの?」


「見りゃわかる」


適当に引っつかんで見てみると同人誌であった。


「お、同人誌」


「同人のはめっちゃ置いてあるぞ。読みたきゃもってけ」


「じゃあ持ってく。にしても同人誌多いね」


漁ってみれば、出てくるのは同人同人だらけである。

少なくとも入っている物のうち、半分は同人誌であった。

あとはマンガと小説の類である。ラノベも多い。


「多い多い。半分以上そうじゃん」


「仕方ねえだろ。前まで自由に買える状況じゃなかったんだから」


「ネットショッピング駄目だったんだもんね」


「ああ」


ここに来るまでネットショッピングは封じられていた優美である。

全ての枷から解き放たれた状態で、抑えられるわけがなかった。

当時買えなかった物が着々と増えているのである。


「それにしても色々あるね」


「どんだけ家にいると思ってる。暇つぶしの一つや二つできねば死んでしまうわ」


「外に出ればいいのでは」


「だが断る。まあこういう時助かるだろ」


「まあそうだけどさ」


そう言いつつも色々抱えて自分の部屋に戻ろうとする千夏。

結構な量である。

ぶっちゃけかなり重い。


「ん、別にこの部屋いてもいいぞ」


「いいの?」


「構わんよ。どうせ俺はしばらく御札書いてっからな」


「じゃあここに居る」


「好きにしていいからな。別にそこに敷きっぱなしの布団の中に入っててもいいぞ」


「流石にしない。他人の布団に潜るってなんか変態臭いし」


「ん、まあ俺の匂いは残ってるだろうな」


「だからだよ」


「良かったな。お前の好きな美少女の匂いが嗅げるぞ。喜べ」


「いや別に匂いフェチでもないし。そんなに変態じゃないよ」


「ふっ、そうかい」


「鼻で笑わないでよ。本当に違うし」


そのまましばらく黙る二人。

いつもずっと喋っているわけではない。

黙るとこでは黙るのである。

特に本読んでる時とか、作業してる時とかは。


「それにしても」


「なんだ」


「いやこう趣味が出るなあと」


「何がよ」


「こういう他人の買ってきたもの読んでるとね。似たような趣旨のものが多いから」


「まあ好きなものしか買わんしなぁ。似たようなものにもなるさ」


「同人誌だと特に」


「性癖までばれそうだな。別にお前に対してはいいけど」


「いいんだ」


「殆どばれてるし。今更隠すのもアホらしい」


結局その後夜のとばりが降りるまでそのまま部屋の中でグータラしていた二人。

優美も途中からはパソコンと本棚漁りに参加していた。

外に出れないと仕事である掃除もできないので仕方ない。


「…雨やまないな」


「ほんとだね」


雨は一向にやむ気配がない。

むしろ強くなってきている。


「これ風でこの家飛ばないだろうな」


「さすがにないと思うけど。藁の家じゃあるまいし」


「木造だからなんか怖い」


実際ガタガタ音はしたりする。

まあ音がしているのは窓枠とか障子なのだが。


「廊下出たくねえな」


「いつもの事じゃないの」


「いや、まあここの廊下長いから気味悪いから普段も夜あんまり出たくないんだけど。今日はこう大雨だからなおさら」


「そう?」


「今宵こそいとむつかしげなる夜なめれ」


「何それ」


「大鏡。道長の豪胆だったかしらんの帝のセリフ」


「古文?」


「そう。なんか思い出した。古文嫌いだったけどな。ナウもだけど」


なお二人がここに来たのはそろそろ高校三年生といった時である。

だいたい春休みが終わりかけの四月頭らへんにここに飛ばされてきた。


「まあでもここまで大降りだと、薄気味悪いっつーかうるさいの方があるね」


「この家、消音性0に等しいもんね」


五月蝿(うるさ)いったらありゃしない」


壁が薄い上に、ほとんどの扉が障子なのでまあ音が通りまくるのである。

雨の音程度当然聞こえ、近くを歩いている人の足音もたまに聞こえるレベルである。

周囲の音が本当に聞こえなくなるのは、せいぜい洗面所がいいとこである。


「どうせ降るなら雪の方がいいのにな」


「そう?まあ雪遊びは楽しいけど」


「雪なら別に外出てもいいかなって感じになる」


「土砂降りの雨よりはいいよね。でも雪かきしないといけなくなるんじゃないの?」


「…そうだな。参拝道は雪かきしないといけないな。…めんどくさ」


「駄目じゃん」


「まあ唯一の救いはここが東北とか北海道じゃないとこだな」


「あっちの雪は尋常じゃないしね」


「ここでもし積もったとしてもたかが知れてるしな。東北方面の人に笑われるわ」


「じゃあ雪かき頑張ろうか」


「でもめんどくさい」


「おい」


二人がいるこの神社は中部地方である。


リアルが忙しくなってきたので、今後も更新が不定期になるかもしれませんが、ゆっくりお待ちいただけると幸いです…

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