_____夢路_____
ちょっとだけ謎に触れる回。
「…ん、ここ、どこだ」
浮いていた。
ぼんやりした空間で、「勇人」、が浮いていた。
「あれ…体、戻ってる…のか?」
浮きながら体を見る勇人。
神社に来る前のままだった。
「なんなんだここ…少なくとも俺が前住んでた場所じゃないし…」
だれがこんなもやの中に住んでいるというのか。
「…まいったな。何をしたらいいのかすらわからん」
そのまま場を流れていく勇人。
現状、行動が何もできないのでしかたない。
『…勇人』
「ん?誰だ」
空間に声が響く。
右か左か上か下か、出所場所が分からない声。
内から響くようなそんな声であった。
『我はそなたらをこの地に導きし者…』
「へえ…」
妙に落ちついている勇人。
普段の勇人であればここまで落ち着きはしていないだろう。
普段であれば少なくともビビる程度はしているはずである。
それが無いのはこの空間の恩恵か。
『そなたに問う。今、この場で答えてほしい』
「…答えれることならな」
静かに答える勇人。
少なくともどうでもいい質問ではないのは雰囲気で読み取れる。
『そなたは、元の生活を望むか?』
「帰れるのか!?」
提示された質問は帰還である。
元の場所、元の生活。
帰れるということはすなわちそういうことなのだろう。
『左様。そなたがそれを望むのであれば、我はそなたの全てを元の鞘に納めることができる』
「…本当に帰れるのか?対価とかはいらねえのか?」
『そなたが支払うものは何も無し。もとより我が勝手に行った行為。そなたはあるがままに戻るのみ』
「…」
『ただし、ここでの生活の記憶を持って行くことはできぬ。ここでの生活の記憶は、本来あってはならぬもの故』
「つまり、本当に何もなかったことになるってことなのか」
『左様』
勇人は思案する。
確かに、帰れることは当然良いことであると思う。
だがここでの生活が無かったことになるのも考え物だ。
「…先延ばし、はできねえよなぁ…」
『今ならば後戻りは可能。だがここを過ぎ去ればもはや戻る道は無し。二つに一つ。選ぶがよい』
「…こんなに早く選択する羽目になるとは思ってなかった…」
思案を続ける勇人。
そのまま時間が流れていく。
――――――
――――
――
『答えは出たか。勇人よ』
「…ああ。やっぱ俺は行かねえ。帰らねえよ」
『残ることを選ぶか』
「ああ。ここで過ごした記憶だって俺の人生だ。消すには惜しい。前までの生活に未練がないわけじゃねえけどさ。ここの生活は楽しいからな。だったら俺はこっちを選ぶ」
『左様か』
「ああ、左様だとも。普通に考えりゃおかしな選択かもしれねえけど、せっかくだから俺は楽しい方を選ばせてもらうぜ。正直こうやって面白いとこに送ってくれてちょっと感謝してんだしな」
勇人はこういったことを望んでいた。
超常現象、ありえないことの類いをである。
受け入れこそすれ、せっかくの機会を逃す気はないのだ。
『もはや、戻れぬぞ。良いのか』
「いいってば。俺は一回決めたことは変えねえ主義だ」
『…有難う』
「なにがどう有難うなのかさっぱり分からんが、どういたしまして」
『…今宵はもう時間が無い。またいずれ』
「姿は見せてくれないのね」
『…許せ。今はまだ見せることができぬ』
「別に俺は気にしとらんよ。んじゃあまたってことならまた」
その言葉を最後にぼんやりしていた世界が光りに包まれ…
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「…むう。朝か」
「優美」が目覚めた。
「…なんか変な夢見た気がするんだが…何見てたんだっけか…」
思案する優美。
だが結局思い出せない。
「…まあいいか。さてと、さっさと着替えて掃除するかな」
結局いつも通りに行動する優美であった。
その後いつものように起きた千夏に出会った優美。
「おはよ千夏」
「おはよー優美ちゃん」
「うーむ…なんかお前に話しといたほうがいいことがあった気がしたんだが…」
「え、なになに」
「…思い出せん」
「えー気になるじゃん」
「俺が一番気になるっつーの。確か夢に関することだったような気がするんだが…」
「また変な夢見たの?」
「またとはなんだ。いや確かに昔から変な夢ばっか見てたけど」
「そういえば私も夢みたよ」
「ん、どんなの」
「…覚えてないや。なんか変なもやの中にいた気はするけど」
「お前もかいな」
「起きたときは覚えてたんだけどねー」
「ああいうのすぐ忘れるからな」
「まあいいや。とりあえず朝ごはん作ってくるねー」
「はいよ。んじゃ掃除してくら」
「いってらー」
いつもと変わらぬ朝。
ただ、何かが心の片隅ではまったような気がした優美だった。