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あれ

「むう」


「どしたの?」


「なんかここんとこ調子よくねえです」


「ああ、なんか言ってたね」


「何なんやろなあこれ。風邪ひいたか」


「夜遅くまで起きてるから体調崩したんじゃないの」


「かもしれんなあ…」


ちなみに優美も千夏も連日2時まではほぼ確定で起きている。

千夏は学校があるのでそこで寝ることも多いが優美は起きていることも多い。


「むぐう…」


「だるい感じですか」


「ああ、うんそんな感じがだいぶ近いかな。腹もいてえし」


「お腹壊したの?」


「わからん。とりあえずなんかもうぐでーってしたい」


「それは普段からしてるような」


「いやまあそうだけど」


やることなくなると縁側でお茶飲みつつぽけーっとしてることはわりかしよくある優美である。

偶に千夏も参戦してくるが。


「…トイレいてくるでござるよ」


「いってらー」


リビングから出てトイレに向かう優美。

この家はトイレがものすごく端にある。

廊下から縁側に出て一番奥にいかないといけない為。


「変なもんでも食ったっけかなぁ…あーかったりい」


そのままトイレにインして腰掛ける。

トイレは洋式である。

しょうじき和式じゃなくてよかったと思う優美であった。


「別に大も小も正常なんだよねえ…何が原因でしょうかねぇ…」


そのままトイレを済ませてさっさと出て行こうと思ったところで何かの違和感を感じ、下を見る優美。

真っ赤に染まったトイレの中の水が見えた。


「…はっ?」


優美が固まる。

唖然である。

何が起きたか分からないというべきか。

そのまま1分くらい経っただろうか。


「…ぎゃあああああああああああああああ!!!」


絶叫であった。

そりゃ下向いたら血の海だったら驚くのが普通であるだろう。

リビングからは相当離れたこのトイレではあるが、

響いた絶叫はそのまま千夏を呼び寄せることとなった。


「ちょ大丈夫!どうしたの!」


「…ふ、ふ、っふふ、あは」


「え、ちょっと本当に大丈夫?」


「い、いっかん。忘れて、た。ふふ、あー、そりゃくる、わな、くく。いや、大丈夫。大丈夫じゃないけど」


「えーと、何があったんです?」


千夏は外にいる。

優美の笑い声が聞こえるだけだ。

結構怖い。


「ああ…千夏。ちょっと買い物頼んでいいか」


「え!今?」


「そうそう今。いやあ俺としたことが。完全に忘れてたわ」


声の調子が普段の感じに戻る優美。

多少落ち着いたらしい。


「えーと。何をでしょうか?」


「生理用品」


「うえ?ということは」


「きちゃったねー。初潮ですねえ。そりゃ体女だしくるよねえ」


「そ、そうだね」


「くく、んじゃあ頼んだ頼んだ。むふふ、痛いのねえこれ。ぷふ」


…まだ少々テンションが壊れているようである。

その後使用方法がわからずまた一騒動あったりしたが、なんとか収まった。

ネットはやっぱり便利である。


「流石に失念しとったわ。そりゃ歳が歳だしあるわな」


「落ち着きました?」


「まあうん。いやまあ分かってしまえば当然だしね。違和感は当然あるが」


「大丈夫なの?」


「んーまあやんわりっつーかジワジワっつーか、まあ痛いけど」


「けど?」


「ぶっ倒れるほどではない」


「そっか」


「世の中、冗談抜きで寝込んだり、倒れたりする人もいるみたいだしな」


「へえ」


「ま、流石にいきなりすぎて頭の回路が止まったけどな」


「でも買い物頼んだりする余裕はあったのね」


「あれたっぷり1分固まった後だからな」


「まあその後のテンションがおかしくなってたけど」


「いやまあ知識で知ってるけど、いざ我が身に起こるとあれよ?テンパるよ?」


なお二人とも男子高校生であった身の為、そういう知識は十分にある。

が、あってもこのザマである。

知ってるだけと実際起こることは違うということか。


「まあうん。あれね。一人だったら死んでいた。あざす」


「生理用品買うためにダッシュすることになるとは思わなかったよ」


「まあうん。前だったら絶対考えられんわな」


ここに来る前の二人は当然男ゆえ、そんなことがあることは無かったし、

彼女もいなかったので必要になることは一切なかったのである。


「言っとくけど来た時間は一緒なんだから、おまいも他人事じゃねえからな?すぐくるぜたぶん」


「まあ、来たら来たときですしおすし」


「割り切っちまえばそうかもしれんが、割り切れるのがこええよ」


さすがに数時間も経ってしまえば優美も慣れたのか、

普通に生活するのを再開していた。

生理用品を替えたりするのがめんどくさそうではあったが、

えらいことになってはたまらないのでそこらへんはしっかりやっている。


「ふむう、なんだかんだで慣れてしまうのが恐ろしいな。人間と言うやつは」


それから数日、生理痛に悩まされていた優美であったが、

なんなのか理解して心構えでもできたのか、次の日からはわりと普通に行動しているようである。

本人いわく予想よりは痛みが少なかったので大丈夫だったとのことである。


「ん…トイレいってくるね」


「ああ、いってら」


そんな優美の傍ら、千夏がリビングから出ていく。

しかし、もう数十分は経っただろうか。

帰ってくる気配がない。


「…もしや」


そのままトイレの方に行ってみると、電気がついていて、まだ中にいることが窺える。


「おい、どした」


「え、な、なんでもないよ!」


「…」


上ずった声が響く。

何にもないわけがなかった。


「入るぞ」


「あ、ちょま」


ガチャリと、トイレの扉を開けて中に侵入する優美。

ちなみにこのトイレには鍵がついていないので鍵をかけて立てこもることはできない。

まあどうせ使用するのは基本二人だけなものなので気にする必要性もほとんどないものだが。


「長すぎると思って来てみれば案の定なわけだが…何してんだ」


「え、いや、その」


「いやね。別に便器はどうでもいいからさ。体を先に労わろ?な?」


トイレの中はなかなかの光景であった。

便器部分に血が飛び散っている。

まあ簡単に言えばこっちにもあれが来たのである。

で、千夏が何をしていたかと言うと便器の掃除であった。


「いや、汚しといたらだめじゃん?やっぱり」


「いや分からなくはないが、これは別に俺許しますよ?というか真面目に体の方をなんとかしろっちゅーに」


「いや、生理用品無かったし」


「俺の見た後なんだから準備しとこうぜ」


「こんなふうにくるとか思ってなかったもの」


「だから言っただろ他人事じゃねえぞと。あいよ、持ってきた」


「あ、ありがと」


そう言って自分で後始末する千夏。

この前調べまでしているのでやり方自体はだいたい覚えている。


「ところでですね」


「なんすか」


「いつまで中にいるんですかね」


「ん、確かに、居る必要ねえな。出るわ」


「なんかあまりにも自然に中に居続けるからツッコミづらかった」


「出ます出ます。便器の方はやっとくから部屋戻っていいかんな」


「いや自分のだし自分でやるよ」


「いいって、この前お前にだいたい全部やらせちゃったし」


「じゃあお願いするです」


「おうよ」


その後の掃除はまだ乾いて固まっているわけでもなかったので楽ちんであった。


「ところで」


「ああ」


「私の入ってるトイレに押しかけてきたけど」


「それがどうした」


「なんとも思わないのね?」


「お前のトイレインしてる姿じゃもうなんとも思わんよ」


「そうですか。仮にも美少女なのに」


「そっち方面の趣味はねえ。つーか裸も見てる相手の見てもなんとも思わねーよ」


「裸とは別の何かがあると思うの」


「そういうの視界に入れて興奮する変態じゃねえっつーの」


結局1週間の間に二人とも経験するハメになったのであった。

両方とも軽かったのが救いか。


「そういやすっかり忘れてたけど」


「うん」


「このままいったら俺ら男に戻れなくなりそうだなあと」


「戻りたいの?」


「いんや別に。ちょっと思っただけだ」


「なんで?」


「生理経験しちゃったし、なんだかんだ言って一か月くらいは女の子してるしでさ」


「うんうん」


「突然ある日戻ったら逆に困りそうなんだが」


「まあ確かに」


「どうすりゃいいんだか」


「まあ、それこそ起こっちゃったときでいいんじゃないのかな。どうせ私たちにどうにかなる問題じゃないし」


「…そうだな」


「それにここでの生活も楽しいしね」


「…せやね。そろそろコタツでも買うべかな」


そろそろ季節も冬。

そんな日にこんなことを思う二人であった。


「…いつか結婚とかしちまうのかなあ」


「ま、それはまだ先のお話と言うことで」


「…まだ心の準備できてないしな」


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