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好きこそ物の上手なれ(★)

挿絵提供 teruruさん http://pixiv.me/pochi-tr

朝の日差しがゆっくりとその場所を照らし出す。

社、石畳、そして鳥居が静かにその光を反射している。

とある森の近くにその場所はあった。

決して広くも新しくもないが、そこはまぎれもなく神社である。


そんな神社の広くない境内裏手にある家に「彼女」はいた。


「朝…か」


ポツリとそんなことを呟いて「彼女」は体を起こした。

寝相が悪いのか、布団は滅茶苦茶になり、腰まで届きそうな黒髪は寝癖がつき放題。

寝巻きははだけて片側の肩が丸見えである。

見た目的には12、13辺りだろうか?

少々垂れた目のおっとりとした雰囲気の美少女であった。


「ああ…くそ。なんでこれ、こうもすぐはだけるんだよ…突然だとまだ反応しちまうっつーのに…」


そんな見た目に似合わないぶっきらぼうな口調が飛び出す。

肩が見えているのは気になったのか肩を慌てて隠した。

心なしかそこを見たとき頬が赤くなったような気がする。


時刻は朝6時。

先日寝たのは4時過ぎであったためか、目がぼーっとしている。


「…たりい」


とかなんとか言いつつゆっくり起き上がると、身支度へと移る。


「…慣れちまったなあ」


と鏡を見ながら、自分の手で寝巻きを引き剥がし、既に用意しておいた普段着兼仕事着の巫女服へと着替えていく。

髪をちゃんと撫でつけてやれば、寝癖はきっちり消滅し、ストレートの長い髪へとなった。

それを後ろ手で纏めて縛ろうとする。

俗に言うポニーテールというやつであり、これだけは外せない外さないというのが「彼女」のポリシーである。


が、どうにもうまく纏まらないのか、なかなか形になっていかないようだった。


「あー髪って縛るのこうも大変なのか?一向に出来る気配が…」


そんなこんなで悪戦苦闘していると、部屋の扉からもう一人の少女が顔を出した。


「あ、すまん。起こしたか?あ…千夏」


その言葉にその千夏と呼ばれた少女は首を振る。

それに伴って「彼女」と違って深い茶色の髪が激しく揺れた。


「いや。なんか普通に目が覚めただけ…おはよ優美」


「ああ…おはよ」


二人のいつものやりとりであった。

ここにはこの二人以外住んでおらず、この少女二人でこの神社を回しているのであった。

保護者は誰も見たことが無いので、恐らくいないのだろう。

「彼女」こと優美が神社の経営をし、千夏が家事等のことを行っている。


「そういえば、何してたの?」


「いや、髪やってたんだが結べなくてね。悪戦苦闘中」


「やったげよっか?」


「…頼む。このままだと結ぶだけで1時間くらいかかりそうだ」


そう言って髪から手を放す優美。

長い黒髪が下に垂れてそのまま地面に落ちる。


「あー駄目だって。汚れちゃう汚れちゃう」


「ん、あー。いかん、忘れる。どうしても。髪長いのも考えもんだな」


座ったまま髪を千夏に任せる優美。


「にしても」


「ん?」


「手慣れたなお前。髪、結ぶの」


「まあ、好きですし」


「2週間だぞ。まだ」


「好きな物ならば別にこの程度造作もないってことで」


「…ロングフェチだったもんな。お前」


「ロングは偉大ですから」


「…てか、当たってるんだが」


「何が?」


「…胸」


千夏の胸はなかなか服の上からでも主張する程度には大きい。

それが背中に当たればそれはそれなりの感触が伝わるだろう。


「そうだね」


「そうだねじゃねえよ。あれか?俺への当て付けか?」


優美の胸は無い。

無い。正しく無い。

絶壁、まな板である。


「別に?ただ感触気持ちいんじゃないかなと。あとちょっとやってみたかった」


「いやまあ確かに気持ちいですけどね。というかわざとですかそうですか」


「顔赤いよ?」


「ならない方がおかしい。気になるだろ普通。というかお前は何故それを胸につけていて平気なのか」


「なんだろう。慣れ?」


「だから慣れるのはやいっつーの」


ちなみに二人とも元々健全な男子高校生諸君であり、友人同士である。

というか僅かに2週間前までそうだった。

ある日目覚めると唐突にこの神社で目覚めたのである。今の少女の姿で。


「はい出来た。もういいよ」


「ん。あざす」


「というかその髪は絶対なのね」


「ポニテは正義」


「可愛いぞ勇人ちゃん」


「やめろせめて今の名前で呼べ。鳥肌立つわ」


挿絵(By みてみん)


二人とも元の名前だと違和感しかなかったので名前は自分たちで勝手に変えた。

ちなみに優美は元々長原勇人(ながはらゆうと)。現在長原優美(ながはらゆみ)

千夏は藍澤明(あいざわあきら)という名である。現在藍澤千夏(あいざわちなつ)

ちなみに千夏と言う名前がどっから出てきたかは謎である。

優美は一応原型あるが。ユウの漢字の読みが。


「んじゃ、掃除してくら」


「なんで今日こんな早いの?」


「昨日突風。今季節秋。外を見ると落ち葉だらけ。おわかりか?」


「なるほど理解。朝食できたら呼ぶから来てよ」


「ああ」


そう言って外に出る優美。

先日すさまじい突風が吹いていたので境内は荒れ放題である。

まして季節は秋。まわりの草木が吹き荒れたのかほとんど地面が見えなくなってるレベルである。


「うお…これはまた時間かかりそう…」


物置から竹箒を引っ張り出す。


「うむむむ…俺これ使うの下手なんだよなあ…」


ここに来る前に使ってみたときはかえってゴミが広がった。

しばらく使い続けて慣れてきてるので広げることはなくなったが、それでも学校で使ってた箒が欲しくなってくるらしい。


「あんまり広くない境内で助かるわ…」


そう言いながら掃除し始める優美。

ぱっぱと落ち葉たちを集めていく。

こういうところの手際は割といい。

仕事はさっさと終わらせてだらけたいのである。


「…終わらん。こりゃ1時間コースかもしれん」


それから10分も経った頃である。

一区画こそ掃除し終わったがまだまだ落ち葉まみれである。

というかそうしてる間にも上から葉が降ってくるので無限ループであった。

一応掃いた場所は落ち葉は格段に減っているのだが。


「優美。ごはんだよ」


「ん、今行く。後でこれ手伝ってくれ」


「りょ」


そう言って家の方に戻ると既に食卓に朝食が並べられているのである。

本日は目玉焼きに味噌汁。ついでに漬物。あと白米である。


「むう、相変わらずよう作るな。普通にすげえ」


「別にこれくらいならやればすぐだったけど。元々それなりには出来たし」


「だがカップ麺以外しか料理…いやこれ料理でもねえか。しか作ったことねえ俺には普通にすごく思えるという」


「やってみる?」


「ギャグ漫画みたく台所で爆発起きても知らんぞ」


「無いでしょさすがに」


とかなんとかいいつつ朝食に手を付ける二人。

あからさまに量が優美の方が多い。

元々優美は大食いである。体が変わろうがそこは変わらなかったようである。


「うん、うまい」


「そ、よかった」


食事中は基本喋らない。

無言である。食事は食事で集中したい二人であった。


「ごちそうさん」


「おそまつさまでした」


経過時間にして10分ほど。

綺麗に朝食が片づけられた。

残すことは良しとしない。特に優美は。


「片づけくらいは手伝う」


「あ、じゃあやっといてくれる?洗濯してくるわ」


「おk」


そういいつつ食後の片づけである。

洗い物する手つきがなんとなくぎこちないのは仕方ないといえよう。

ここに来るまでまともにやったことなかったのである。

2週間ではまだ慣れる段階に到達していないらしい。

千夏の方は洗濯である。二人しかいないので量はそれほど多くもないが、

やっぱりそういう方面のことは優美はポンコツなので千夏にまかせっきりである。


「ちべてえ…(冷たいの意)」


だいぶ水は冷たい。

冬はもう少し先ではあるのだが。


「…感覚無くなってきたし。温水用意しとこ」


蛇口が無駄に二つあるので片方で温水を用意しておく。

感覚無くなったら温水に手をぶち込むのはここに来る前によくやっていたことであった。

冬の屋外で手を出した状態で千夏――その時はまだ明であったが――と話していると割と高確率で感覚が無くなったようである。

外で数時間話し続けるくらいには二人は仲が良い。


「…終わりっと。あー手ぇさみい」


どぼんと溜めておいた温水に手を突っ込む。


「んーはあぁーああー」


何やらよく分からない声が漏れる。

なかなかあれな声になっているのは本人は気づいていない。


「そんな悩ましい声出して何してんの」


「ん、なに終わったの」


「終わったよ。で何してたん」


「別に、指が寒さで死んだのであっためてただけ」


「さいですか」


「さいですな」


「それでさ。ちょっと巫女服着させて」


「ん、なに、まだ駄目か」


そう言うと優美は巫女服を千夏に手早く着せていく。

あっという間に着させてしまった。


「やっぱり」


「何がやっぱりなんだ」


「いや、好きな事って出来るようになるなあと。ものすごい慣れてるじゃん」


「…慣れって怖いな」


「悪くはない」


「…まあ確かに。巫女服は偉大」


「でも髪結べないんだよね」


「…言わないでくれ。練習中だ」


優美が一人で髪を結べるようになったのはこれから1週間後のことである。




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