真白
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半スピンオフ小説です。
ナチュラルキラードロップス
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真白
シキがシキのばあちゃん家に帰ってきたのは
スイカの甘さが頂点に達した夏のこと。
シキには両親がいない。
入学する高校が決まり、
中学生なのか、高校生なのか曖昧な
そんな時期にテレビのニュースで
シキの両親、篠塚夫妻が乗った飛行機が墜落した現場を
レポートする番組を見た。
俺は、同級生の両親が死んだという活字を目の当たりにし
どこか他人のことのように感じていたけど
当の本人を高校で見つけ
明るくて、誰にでも好かれていたような美人が
表情もなく
ただ"生きている"
それだけのために呼吸をしている姿を目の当たりにし
誰かが死ぬというのは
人を一人変えてしまう大きな出来事なんだと
不謹慎だけど、シキの両親の死で学んだ。
ごく近しい人が亡くなるというのは
体験したことがない人がほとんどかも知れない。
いや、俺がただラッキーなだけで
世の中のほとんどの人が誰か大切な人を亡くしているのかもしれない。
そんなことを考え出すと
当時の俺はどうしてもシキが気になって
そして、シキの笑顔を取り戻すことに成功した。
シキは無事に高校を卒業し
大学にも進学し
地元を出て、遠い都会に移り住んだ。
こうして地元に帰ってくるのは
実に1年ぶりくらいのこと。
シキのばあちゃん家の縁側に座り
横たわって扇風機にあたるシキを見た。
「おい、そうやって夏中ぐうたらしてるつもりかよ」
「…暑い」
「そりゃそうだろ。夏だし」
「どうして田舎ってこうも休まらないんだろう」
「ばあちゃん家はクーラーねぇしなぁ」
「クーラー買えばいいのに…」
「そうやって何でも文明の利器に頼るんじゃなくてな!
代謝が悪くなるから汗はかけよ、汗は!」
「ベタベタするー」
シキが重たそうに背中を縁側の方へ向けると
台所からシキのばあちゃんが
大きく切ったスイカを持ってきて縁側の近くへ置いた。
「スイカお食べ」
「おー!ばあちゃんありがとう!」
「んー……」
「寝てばっかいないで、散歩でもしてきなね」
「んー……」
「ほれ、扇風機も時々休ませんと熱中症になるっけね」
ばあちゃんがそう言って古めかしい扇風機のスイッチを切ると
シキは恨めしそうに、今度は寝ながら膝を抱えてうずくまった。
「おばあちゃあん」
「なにね」
「おばあちゃん、おばあちゃん」
「子供みたいにどうしたね」
「おばあちゃん…」
「シキー。お前何甘えてんだよ」
「あのね、どうしたらいいかな…」
「んー?」
シキがあまりにもばあちゃんに甘えるので
俺はそっとシキが言葉を全て吐き出すのを待つことにした。
「大切なものが2つあるとして
1つしか選べない時ってどうやって決める?」
「そうさねー」
「……」
「沢山考えるね」
「考えても答えが出なかったらどうしたらいい?」
「考えて考えて考えて自然と1つ選ぶよ
ばあちゃんはな、大切なもの1つ選んだよ」
「どうやって?」
「例えば手放すかもしれないと思ったら
それを手放したら死ぬかなって考えたてね」
「それってどんな時だったの?」
「お前だよ」
「え?」
「シキをどこにやるか
親戚の奴らに迫られた時、ばあちゃんは
シキがいなかったら死ぬなって思ったんだわ」
「……」
「だっけね、じいちゃんから預かった土地
ぜーんぶくれたるからシキをよこせって言えたんよ。
ばあちゃんはシキが一番!」
シキが歳をとったらきっとこんなくしゃくしゃな笑顔で笑うんだろうなと
想像できるくらい満面の笑みをばあちゃんはシキに向けると
シキが何か熱いものをぐっと堪えて
一度深呼吸してから、ガバッとその場から体を起こした。
「おばあちゃん!大好き!!」
「おっととと!」
勢いのある抱擁に
ばあちゃんは倒れそうになりながらも
子供をあやす様にぽんぽんと細い背中を叩き
汗ばんだシキの体にたっぷりと愛情を注いでいた。
俺はすっかり無視だったけど
シキの幸せそうな姿を見て、とても安心して
2人の姿を見てから、静かにその場を離れた。
「おばあちゃん、東京へ行ってごめんね」
「なにね!今更!りふれっしゅしてこいて!
大切なら、離れる勇気も必要!
でもシキはばあちゃんのこと好きなのは変わんねっけ
ばあちゃんは、シキがどこにいても元気でおれるよ」
「離れる勇気…」
「そう!」
「……」
俺は、シキの家からトコトコと歩いて
バス停の近くまで来てから
バス停小屋の前を通る自転車に乗った、角の家のおばちゃんや
勝手に散歩している魚屋のとこの犬を眺めていると
シキが東京から帰ってきた時と同じカバンでバス停に現れた。
「あれ?……シキ、帰んの?」
「そろそろ本気で覚悟決めなきゃ」
「なんの覚悟?最近俺に報告とかしてくんねーから
何が起こってんのかよくわかんねーけどどうしたの?」
シキが答える前に、バスがやってきたので
一緒にバスに乗る。
段々と陽が傾きかけているバスの中は
外から何とも言えない情緒のある陽の光を入れ込んで
万華鏡の中にいるみたいに照らした。
一番奥の端の席に座ったシキは無言で、
その横顔が綺麗で、
隣に座りながら俺はチラチラと横目でシキを覗いていた。
しばらくして
バスが卒業した高校の前を通ると
シキは徐ろに校庭を見つめる。
その視線の先には、日に焼けたサッカー少年達が
ボールを追いかけていて、真っ白な体操服が
校庭の砂でところどころ茶色になり
どれだけ情熱を傾けて打ち込んでいるのかよくわかった。
「そういえば、夏の大会どうなったかな」
俺が話しかけても、
シキは過ぎようとしている校庭から目を逸らさずに
ただ、じっと見つめていた。
「ダイスケも、あそこでああやって
ボール追っかけてたよね」
「…うん。楽しかったなぁ高校。シキとも仲良くなれたし
あ、でも本当はそれだけじゃなくて…」
話しながらシキを見ると今度は下を向いて
指先あたりをじっと見ている。
どうしたのかと、それを見つめていると
ポタポタと水滴が落ちる。
シキが泣いている。
自分の零す涙にはっとした彼女は
慌てて掬い上げるように、瞳に蓋をするように
懸命に涙を止めようと両手で目を覆う。
けれども止めどない涙は溢れ出して
ついに彼女は声を上げて泣いてしまった。
バスの運転手がルームミラーでこちらを見ている視線を感じる。
俺の知らないところでシキは
何かを抱え込んでいて、
何かの決断をするために地元に帰ってきて
そして、何かを決めたんだと思う。
何もできない俺は、
瞳からこぼれて、落ちるまでに真白色に染まっていく
その美しい涙を
横で眺めることしかできなかった。
「シキ……ごめんな。」
つづく
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