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【動画付き】ナチュラルキラードロップス  作者: サンライトスターライト
大学生編
6/9

ベイビィ~エツとチカゲ~

――――――――――――――――――――

ニコニコ動画にて公開中の動画の

半スピンオフ小説です。


ナチュラルキラードロップス

http://www.nicovideo.jp/mylist/44318811


ベイビィ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm25886588


文中に出てくる「さくらいろ」の季節を3回も―――

については、以前創った動画にネタがあります!

出てくる男の子がエツくんです。


こちらの動画をご覧下さい♪


さくらいろ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm22068933


――――――――――――――――――――



「エツせんぱーい!!」



フットサル同好会に今年入った新入生2人が

僕を遠くから呼ぶ声がして振り返る。


暑い暑い陽射しを、

太陽が笑ってるように比喩する人もいるけど

それなら太陽という奴は、全くドSにも程がある。



「おー!どうしたー?」


「あのぉ、聞きたいんですけどぉ

チカゲ先輩って次いつ来ます?」


「へ?ああ、あの色男?」


「もう!そんな言い方しないであげてくださいよー

それに先輩だって色男じゃないですかー」


「うーん、かわいい1年ちゃん達にそんなこと言われると

何でも教えちゃうな~

しかし!チカゲくんは幽霊部員だからしばらく来ませーん」


「えぇ!!」


「まじでー!!」


「フト会入った意味皆無ぅ!!」


「先輩!次の飲み会にチカゲ先輩呼んでくださいよー!!」



女子2名の倍音低めのリアル声を聞いてしまったとしても

ここは真摯ではなく…紳士に対応するのが、勤めだろうと

一瞬、うんざり顔になろうとした自分を制した。


「先輩らしく、ちゃんとね」と笑う彼女の声が聞こえた気がして

クスリと笑う。



「誘ってみるけど、チカゲくんは引きこもりぼっちだから

来るかどうかはわかんないよ?」


「でもでも、先輩の押しの強さでなんとかしてくださいー!」


「頼みましたよぉ、エツ先輩ぃ」



そう言って、嵐は去っていった。





“チカゲくん”というのは同じ学部の2年生の後輩で

出身地が僕と同じだったこともあり

ひょんなきっかけで、かれこれ1年のつきあいになる。


学年こそ1つ下だが

訳あって義務教育を1年遅らせて始めているそうで

僕とは同い年になる。





彼は、入学してから2つの意味で一躍有名人となった。


1つは、その端整な顔立ちと、

少女漫画から飛び出してきたようなツンデレな態度。


いや、ツンデレはデレの部分を見てから言うもんか。

誰もデレの部分は見てないんだから、

さしずめ、ツンキャラってとこかな。



そのツンキャラチカゲくんの2つめのエピソード

これがなかなかヘビーだ。




“高校生の時、彼女が目の前で死んだらしい。”




彼が本当に哀れなのは、彼女が死んだってこともそうだが

この偏差値だけやたら高いだけの変人の巣窟大学に

彼の過去を知る人間がいたってことだろう。


噂というのは尾ひれがついてくる。




それから、その好奇心という名の噂話は



“彼女が目の前で死んだ”



という内容から



“だから誰も愛せなくなってる”



に変わり、最終的に



“男しか愛せない”



に変わっていた。


一部の女子があの顔立ちで

ホモ疑惑ということに奇跡を感じ始めていた頃

僕は彼と出会うことになる。



サークル勧誘で校内を回っていた時に彼を見かけ

彼が入会すれば、それらの噂が相まって

新入生大量ゲットのチャンスと感じ

勧誘がてら噂の真相を聞いてみたのだ。



「君ってゲイなの?」



と聞く僕に

読んでいる本から目線を逸らすことなく



「じゃあ、試しに寝てみますか?」



と、言ってきたのだ。


遠巻きの女子は祭りでも開くんじゃないか

というくらい湧いていたが

彼はノーマルだとわかった。


男にはその“感じ”がわかるのだ。





それから、幽霊部員でいいことを条件に

チカゲくんを入会させることに成功した。


僕は、事あるごとに彼にちょっかいをかけていたが

彼の様子は明らかに同年代の子達とは違っていた。


色んなタイプの女子が彼に近づいても

彼は顔色一つ、感情の一つも変えず

ただ、淡々と“誰か”の穴埋めに

彼女達を使っているようだった。



―――誰にも興味がない。

本当の意味で眼中にないのだ。



これまで順風満帆に生きてきた僕の前に

RPGの主人公みたいな顔をした

正義も夢も語らない

不幸のどん底を纏った人間が現れたわけだ。


正直、何不自由なく清く明るく過ごしてきた僕には

無縁のこのチカゲくん、

同郷ってこともきっと何かの運命。

ほっとくわけにはいかないだろう。




「…なんて、決心した僕の心はちょっと萎えそうだよー

僕を餌にチカゲくんを釣ろうとする新入生…」


「ふふふ、頼られてるねー先輩!」



未来(みく)が遠くの国で笑っている。



僕には遠距離の彼女がいて、

日に1度、僕が部屋に帰ったらこうして短い電話をする。



「いつも振り回されてるけど

本当はいい子なんだ、チカゲくんは」


「そうだと思うよ。今は友達とも別々になって

誰もチカゲくんを近くで支える人がいなんだろうね。」


「僕は何もできないけど、必要な時がきたら

頼って欲しいと思うよ。

女の子じゃなくてもできることってあるでしょ?」


「そうだね。エツは頼もしいね。

気が向いたらいつでもパリにおいでって伝えておいて

私もちょっとは先輩らしくしないと、忘れられそうだね」






最近は専ら、チカゲくんの報告会になってしまっているけど

僕らは、さくらいろの季節を3回も越えてきた仲だ。


サークルの飲み会にチカゲくんを連れてきた時に

未来も彼と会っている。


飲み会の席で、生まれは違えどチカゲくんも、

僕と未来と同郷だということがわかり、

似たような環境で多感な時期を過ごしてきたわけで

話が盛り上がる




と、なるのが普通なのだけど…。




「偶然だねぇ、すごいね!」



という未来に対し、



「僕らの地元からしたら都心へ進学するのは割と普通ですし

そんなに驚くことでもないです」



と、僕の未来に口答えしやがったのだ。


その発言に、僕が言い返そうとした時

未来はきょとんとした後、

僕にも見せたことないくらいの大きな声で笑った。

それこそ、涙を浮かべて、ケラケラと。



「うんうん、そうだね。チカゲくん、君は正しいよ」


「はぁ…」


「み、未来…?」


「エツ、面白い後輩ができたねー」


「?」



後になって、

気になった僕がその事を蒸し返すと



「世間話で誰かにそんな風に言い返されたことって今まである?

赤ちゃんみたいに素直で、傷つくことを恐れてなくて、

一体今まで彼は誰に守られてたんだろうって思ったら

なんだかあのぶっきらぼうな態度がかわいく見えちゃって」



と、思い出し笑いしていた。


そんな心の内を聞いて

入学したてで未成年である彼は確かにまだ子供ではあるのだろうけど

大学生の男子を捕まえて“赤ちゃん”だなんて

女性が抱く母性みたいなもんなのかな。


でも、確かに、彼が今までどんな人生を歩いてきたかわからないけど

あんなに歪んでしまうような、いや、赤ん坊のように

嫌いなことは嫌い、好きなことは好きとだけ判別するような

そんな大人を僕は1人も知らない。


そう思うと、なんだかとても可愛らしい生き物にしか見えなくて

少し吹き出した。


僕も未来も世界を全て拒絶している彼が、

今後どんな人間になるのか見てみたくなったのだ。






―――その一件から少しして


未来はフランスに飛び立った。

離れてみて、彼の心がやさぐれた気持ちが

ほんの少しだけ理解できた。


僕の側に、未来がいない。

会いたい時に、お互いが側にいない。

画面の向こうや、声だけはここにいるように思うけど

触れられない、暖かい体温がここにない。




しかし、彼は―――


僕らのそれを遥かに飛び越えて

永遠に恋人に会えないんだと思うと

なんとも言い知れない気持ちになっていた。







約1年経った現在、

こうして、受話器越しで話をする僕らは

“距離”が絆を深めていたのだが


肝心のチカゲくんは

全ての物から相変わらず距離を取り

最初の頃と変わらず、

何に対しても、心が揺れなかった。


僕のことを毎日ウザがってはいたけど

表情筋はピクリとも動かない。

ただ淡々と日々が過ぎることを待っているようだった。







それから、未来との電話を終え、眠りに着くと

懐かしい人に会う夢を見た。


それはいつかのサッカーの試合。

高校生の頃の僕がハットトリックを決めた試合だった。


相手チームのエースは

試合に勝った僕に問う。



「どう練習すれば先輩に勝てますか?」



僕は答える。



「試合の勝ち負けと、思い出残せたかは全然違うぞ」



はっとした彼は、笑顔で深々と頭を下げて

元来た方へ走り出す。


その先に、見知らぬ女の子が立っていて

その子は僕の後ろを見つめていた。


振り返ると、喪服のチカゲくんが背中を向けて立っていた。

もう一度、彼女を振り返ると、すぐ目の前まで彼女は来ていて

僕を見上げて笑いかけた。



そこではっと目を覚ます。



「なんだったんだろう…」



とても不思議な夢だった。




その日、大学へ行くと、

校舎前のベンチで話す2年の女の子が

かなりの剣幕で怒りちらしているのを目撃した。



「…うっそ!」


「嘘じゃないよ!私、もう二度とチカゲくんのところいかない!」


「特定の相手いなかったから遊びでいいって思ってたのに!!」


「え…あんたも行ってたの?」


「あ……」


「……」



フライデーな男、チカゲくんの新たな噂を耳にしてしまった。






“特定の相手”




これは本人に確認を取らねばと

急いでスマホの画面を開き、電話をする。




「…はい」



いつものように感情のない声が返ってくるが

僕はめげない。



「あー、チーちゃん?彼女できた?」


「は?」


「うん、今ね、彼女できたんじゃないのかなーって話を耳にしてね

公認の恋人としては、浮気は絶対阻止ってことで事実確認を…」


「何言ってんですか。それになんですかその呼び方。

僕らそんな関係じゃないですよね」


「えー、同じ僕っこの仲じゃないのぉ」


「じゃあ、今日から一人称は俺に変えます」


「じゃあ、僕も変えちゃうからっ」


「あーもう、本当、あなたは面倒臭い人ですね…」


「ははは、で、どんな子なの?」


「いませんよ」


「…ふーん」


「今、忙しいんで切ります」




一方的に切られた画面を眺めながら

いい考えが浮かんだ。



お宅訪問だ。



彼の家は前につけて行って押し入ったことがあるので

しっかりと覚えていた。


本日の授業が全て終わり、電車に乗って彼の家へ向かう。


多少、坂道が多いが、駅からも近く

見渡しのいい高台に住処はあった。



ワクワクしながら玄関のインターフォンを押すと

だるそうでハリのない声が聞こえた。



「…はい」


「あ、あたしぃ」


「…どちらさまで。今取り込み中です」


「……」



なるべく甲高い声で女の子を演じてみてから

確認することもなく無碍に断られ、

しばらく待ってみたが、扉を開ける気がないと理解した。



「チーちゃん開けてー!嘘だよ、エツ先輩だよー

君の大好きな、大学で公認ホモの…」


「……!」



慌てて扉を開ける彼の表情や態度が

ほんの少し前と違っていることを僕は見逃さなかった。



「あれ?チカゲ…くん?」


「はい、なんですか」



明らかに怒っている。

そう、彼は感情を露わにし、“怒っている”のだ。

あの無表情、無頓着、無感情、3大無のチカゲくんが、だ。



僕はちらっと部屋の中を見るが

チカゲくんが視線の先を通せんぼした。



「取り込んでるって言いましたよね」


「え、誰か来てるの?」


「にゃー」


「あ!にゃんこ!!」


「にー」


「何この子!めっちゃかわいいじゃん」


「はぁ…まったく…」



彼の足元からやってきた黄色いリボンをした黒猫は

僕にすぐに懐いてくれた。

猫を触っていると、ダイニングの向こうに人影が見えた。



「あ、ホントに誰か来てた?」


「…まぁ、…はい」



観念したチカゲくんが、俯くと

奥の部屋にいたその子がこちらにやってきた。



「こんばんは、初めまして」


「あ、こんばんはー!え、何、チーちゃん!

この子もかわいい!誰?誰?」


「…はぁ」



愛想が良さそうな笑みを向ける美人さんと、

大きなため息を吐くチカゲくんが対照的で

めちゃくちゃテンションが上がりまくってしまった。

今すぐビデオチャットで未来に連絡したかった程だ。



「僕、江上悦って言います!チカゲくんの大学の先輩!

エツって呼んでー」


「あ、私は篠塚詩季といいます!」



深々とお辞儀をする僕らの間にいた彼は

猫を抱き上げると部屋の奥へと入っていった。


僕が中に入り、靴を脱いでいると

その子は冷蔵庫へ行き、僕に言う。



「外、暑かったですよね。麦茶でいいですか?」


「あ、うん、ありがとう!」


「ベッドの方にちゃんとしたテーブルないので

ここに置きますね」


「あーうん」



彼女はダイニングのテーブルに麦茶を置き

とてとてと奥の部屋へ向かう。

テーブルに置かれた麦茶を喉の奥へ通すと

ちらっと部屋を見た。


チカゲくんは猫をおもちゃであやしていて

表情はまたあの3大無に戻っていた。

横に彼女が座り、その様子をただ、眺めている。


会話のない2人を横目で見ながら、

いつの間にか麦茶はグラスから全て消えていた。


僕も奥の部屋へ入り、床に腰を下ろす。



「えっとー…シキちゃん…でいいかな?」


「あ、はい!」


「単刀直入に聞くけど、チカゲくんの恋人さんなの?」



それまで猫と遊んでいたチカゲくんの動きがピタリと止まる。

シキちゃんも、なんだか苦笑いで、

何でもはっきり言ってしまうこの口を少しばかり呪った。



「…エツ先輩、さっきも言いましたけど、そういうんじゃないです」


「だそうです」



よく連携のとれた2人だと思うけど、それは口には出さなかった。

何より、明らかに今までの女の子達とは違う雰囲気なのに

2人の表情が悲しそうで、

すべての事情から目を背けているようだった。



「あ、ねぇねぇ、おなか減らない?」


「減りません」


「あ、減りましたね」



シキちゃんはとてもいい子だ。

チカゲくんとは真反対なのに、その笑顔の向こうに

チカゲくんと同じものを感じるのだ。



「ここんちのキッチンは相変わらずだから、

出前でもとろっか、今調べるよ」


「ありがとうございます。何があるかなー」



それから、僕はスマホで出前できる店を探し

シキちゃんと相談の上、ピザを取ることにした。

ピザの宅配が来て、玄関で財布を出そうとすると

チカゲくんが無言でさっと僕の前に割いって払ってしまった。



「食べたら帰ってくださいね」


「はいはーい!ごちそうさま!」



そう言って、チカゲくんは荷物を受け取ることなく

さっさと定位置に戻っていった。


やっぱり、チカゲくんは

ほんのちょっと前のチカゲくんとは違っていた。



シキちゃんが宅配された物を受け取ろうと

立ち上がろうとしてくれたが、それを制し

僕が注文したすべての物を受け取ると

ベッドの部屋へ戻る。


戻りながら、やっぱりこの2人は

何かあると思った。


僕が気軽に入ってはいけないような雰囲気がある。


部屋に戻りながらチカゲくんを見やると

無表情の中にも、子供らしさのようなものが見えた気がした。


恐らく、彼は、

うずくまったままずっと暗闇の中に居て、

やっと生まれ出ようとしているんじゃないかと思った。


きっとシキちゃんが、僕にとっての未来のように

これからの彼の光のようになってくれるんじゃないかと、

そうなってくれたらいいなと、希望のような観測をしていた。




つづく


Twitterやってます!

感想等いただければ

ガソリンになります!!



サンライトスターライト

@sunlightstarlig


あこの(メリコP)

@acono0726



原作・執筆

あこの


ディレクト・校生

LuFS

銀縁眼鏡


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