表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【動画付き】ナチュラルキラードロップス  作者: サンライトスターライト
高校生編
4/9

背中にちくおんき

――――――――――――――――――――

ニコニコ動画にて公開中の動画の

半スピンオフ小説です。


ナチュラルキラードロップス

http://www.nicovideo.jp/mylist/44318811


背中にちくおんき

http://www.nicovideo.jp/watch/sm23829288

――――――――――――――――――――




「見て!ダイちゃんがまたサッカーしてるよ!」


「もーマミちゃんいっつも土橋ばっかじゃん」


「だってほらー!あ…!コケた!かわいい」



クラスの女子がきゃーきゃー言っているのにつられて

私も校庭を見下ろすと砂煙からダイスケが見えた。

砂煙の立ち方からすると、ずいぶん大胆にコケたらしいことがわかった。



「あっ!ダイちゃん血が出てる!!」


「あーあー。マミちゃん手当して来なよ」


「えー。マミ行ってもいいのかなぁ」


「土橋、鈍感だから

そんくらいアピールしないと気づかないよ!

ファイト!」


「マミ行ってくる!!」



こんなに明ら様な女子のアピールにも気がつかないのかと

ちょっと呆れてダイスケの様子を伺っていると

どうやら思ったよりも怪我が酷い様だった。

流石に心配になったけど、

あの子が行った後で私が行くのもいかがなものかと思い、

気を沈めた。


授業が始まり、あの子は教室に戻ってきたが

ダイスケが戻ってこなかった。

戻ってきたあの子が半べそで友達に報告しているのを聞いた。



「マミちゃんどうしたの?」


「ダイちゃんね、すっごい血出てるのにマミのこと心配してくれて

先に教室戻れって、めっちゃ優しいの」


「え、それで泣いてんの?」


「うん…ダイちゃんやさしいぃ」



友達も呆れ顔だけど、

泣いたり喚いたり、この手の女子は安い涙を流すものだなと

わざわざ慰めてるあの子の友達を哀れに思った。



授業は生物だったが

血液の話から免疫や白血球の話になっていた。

ボロボロの白衣をまとった先生と

いつ使うかもわからない人体模型がこちらを向いている

よく見るお決まりの授業風景だった。



「造血幹細胞がー」



先生が漢字だらけのその細胞の名前を黒板に書いていた時

ダイスケが教室に戻ってきた。



「すんませーん!戻りました!」


「おー土橋、大丈夫かー?」


「大丈夫です!手当がちょっと大げさだけど」



席についたダイスケの足は

制服のズボンが幾重にも折られて膝までまくられ

右足の外側に大きなガーゼが白いテープで止められて

ガーゼは血で滲んでいた。


きゃーと言ったり、両手で目を覆う女子もいる中、

彼の席の周りの男子は、まるで英雄の様に扱っている。


怪我は男の勲章か何かなのだろうか。

こういうところを見ると、いつまでも子供心を忘れないのは

男子の方なのだなと知ることができる。





それから放課後になり、ダイスケは部活を休むとのことで、

先に学校を出て、いつもの坂道の下で彼を待つことにした。


しばらく待っていると、

あの子と自転車を押したダイスケが坂の上に現れた。

ダイスケはとても困っているような感じで

坂の上で、あの子を振り切ってこちらに向かってきていた。




―――モヤっとした。



あの子は単に図々しいだけで、

ダイスケがどうしたいかは頭にないんだ。

自分の欲求が通ればそれで満足なのだ。


ダイスケが自転車を押しながらひょこひょことこちらに向かってくる

しばらくあの子が見ていたので、私は他人のフリをして角に隠れた。


ダイスケが降りてくるまでの間、胸の少し上のあたりがムカムカした。




「おーっす。いやー参った!」


「……」


「ん?なんか機嫌悪い?」


「…なんでもない、自転車貸して」



そういってダイスケから自転車のハンドルをもぎ取ると

代わりに自転車を押した。



「お、ありがとな!」


「……」


「なんかあった?」


「……ちょっと心配しただけ」


「……ふーん。さんきゅー」



いつもの土手をいつもの感情じゃない

不思議な感じで歩いた。





―――私達は、友達だ。



心配するのは当然だし、彼が嫌がることはしない。

だから、ああいう場面は凄くイライラする。



「ダイスケさ、あの子のことどうすんの?」


「あの子?ああ、マミタン?」


「……マミタン?」


「どうするも何も、何もないし。ん?…あっれー?」


「なによ」


「ヤキモチですか、シキさん」


「や、ヤキモチ?!やめてよ!そういうんじゃない!」


「あれ、残念」



そういって笑いながらダイスケが少し先を歩いた。

背中越しでどんな顔してるのかわからなかったけど

私の表情も見られなくて良かった。


これは、ヤキモチなのかな。

友達にもヤキモチを焼くことあるらしいけど

これは友達のヤキモチかな。



「お。真っ赤だな」


「え?!」



ダイスケが急に言ったので、

一瞬、私の顔が赤いのかと頬を触ったけど

ダイスケが見ていたのは向こうの夕日だった。


急に真面目な顔をするから、ダイスケの横顔を見つめてしまった。



「明日も、天気いいかな」


「…明日も天気だよ」


「サッカーいつできるかな」


「しばらく休むの?」


「うん」



横顔がなんだか凄く淋しそうで、ダイスケの横に並ぶと

少し背伸びをして頭を撫でた。


猫っ毛の髪は少しだけワックスがかかっていて

ダイスケに“男の子”を感じてしまった。



「へへへ」


「なに?」


「人に撫でられるっていいな」


「もうしない」


「え、またやってよ」


「しない!」



急に甘えられたから慌てて手を引っ込めたけど

内心、嬉しかった。


少しだけ、本当に少しだけだけど

両親からもらった愛情を他人に渡すことができた気がした。




―――それからダイスケのペースに合わせて

いつも別れる公園まで歩いた。


公園まで着くと、弟の陽輔くんが待っていた。

ダイスケが事前に連絡していたんだと思う。



「兄ちゃん!」


「お、陽輔ー!お迎えご苦労!」


「陽輔くん久しぶり!」


「久しぶり!シキちゃんここまでありがとう!

もー!何やってんだよ!うわ!いったそー」


「そんな痛くねーよ」


「陽輔くん、後はよろしくね」


「うん、自転車貸して」


「シキ、ありがとな」


「うん」


「じゃあな」



私は陽輔くんに自転車を渡して2人の後ろ姿を見てから帰宅した。




それからしばらくダイスケの足の傷は治らなくて

帰りに一緒に帰ることもなくなってしまった。


ダイスケはよく私にちょっかいを出していたけど

その頃から少しずつ

何故だか、学校であまり声をかけなくなっていた。


私と目が合うとこちらに来ていたのに

段々とそれもなくなっていった。


何かしたのかなって考えたけど思い当たることもなくて

少し悩み始めていたある日、クラスの女子2人に声をかけられた。


いつも元気な八戸さんと、メイクばっちりで大人っぽい藤森さんだ。



「ねぇ、篠塚さん、最近土橋と一緒にいないよね」


「……別にいつも一緒にいるわけじゃないよ」


「だよね!マミちゃんが付き合ってるわけじゃないって言ってたから!

土橋だけじゃなくてうちらとも仲良くしよーよ!」


「え…」


「篠塚さんて1人がいいのかなーとか思ってたけど

土橋といる時なんか普通だし、

うちらでよかったら移動教室とか体育とか一緒やろーよ」


「わ、私でよければ…」


「やった!私、八戸菜々美!ナナって呼んで」


「私は藤森心乃。ココノでいいよ」


「じゃあさ、じゃあさ!シキって呼んでいい?」


「う、うん…」


入学式からしばらく休んでいたから

クラスメイトと自己紹介をする機会がなくここまで来てしまったけど

ようやくそれらしいことができた瞬間だった。



それから、ナナの勢いで放課後、一緒に街に行くことになった。

ちらっとダイスケの方を見ると、ダイスケもこちらを見ていた。

そして、私に向かってニカッとあの大きな笑顔を向けた。


なんだか、全てを察して、

最近側にいなかったのはこういうことだったのかなって、

悩んでたのがちょっと恥ずかしくなった。


ナナとココノは見た目とは全然違ってとてもいい子達だった。

学校が始まってから1人でいる私を気にかけてくれていたらしくて

ダイスケに私のことをアレコレ聞いていて

それで、ダイスケがそのタイミングを彼女達に示したのだそうだ。




ダイスケへの感謝は止まない。


彼がとてもかけがえのない存在になっていることに

私はとっくに気がついていた。



学校でダイスケの姿を探すようになっていて

見かけると、どうにも嬉しい気持ちになった。


この気持ちはきっと、本で何度も経験したあの気持ちに似ている。




―――恋。




たぶん、そうだと思う。

自覚するようになると、相手の気持ちがどうなのか気になって

ちょっとだけマミタンの気持ちがわかるような気がした。



「あー!また土橋見てるっしょー!」


「ナナ、声大きい」



声の大きさを自覚していないナナをココノが制止した。

ナナの指摘は正解だったので、私はたぶん、顔が赤くなっていたと思う。



「み、見てない…」


「いーや!見てたね!」


「見てた」


「ココノまで便乗しないでよ…」



すっかり詰め寄られてしまって居場所が見当たらない。

ナナが穴が飽きそうな程、私を見ている。



「み、見てました…」


「だよねー!」


「もうつきあっちゃいなよ」


「え…無理」


「好きなんでしょ」


「いや、好きというか感謝というか…」


「ごちゃごちゃ言ってないでー!告白しなよっ!」


「土橋も悪い気はしてないよ」



背中を押されている。物凄い勢いで押されているけど

教室にいるマミタン一味の視線が痛い。



「あー。あれは気にしない」


「ココノの言うとーり!!」


「む、無理…」



そう言って立ち上がるとノートと飲み物を持って

いつもの場所へ向かった。



「あーらら照れちゃった!」


「あれはご出勤だね」


「ご出勤?」


「ほら、音楽室のとこ」


「あー!うひひひひ。やっぱつきあえばいいのに」


「だよねー。問題は土橋のアホだね」



私は真っ直ぐにいつもの木の下へ向かっていた。

ダイスケが好きだけど、

だからって色々やってくれたダイスケの気持ちを無下にするような

そんな事はできない。

きっと好きだと言ったら、彼は困ってしまう。

いつか見た坂の上のマミタンに向けた困ったダイスケの顔。

あんな顔はさせたくない。


外履きに変えて校庭に出ると

さっき上から見ていた姿が見えた。


ダイスケの傷の様子は

ガーゼに滲む血が続いて、ひょこひょこ歩きはなくなり、

最近やっと昼休みに軽くサッカーをしている姿を見かけるようになった。


ナナとココノと帰る機会が増え、

ダイスケも先に帰ることが多くなり

その時、ダイスケが誰とどうしているかはわからない。

もしかしたらマミタンと一緒に帰ってるのかもしれない。

わからないけど、私には知らない何かが放課後にあるような気がした。



聞きたいけど聞けない、言いたいけど言えない。

そんな物事が、私達の間にどんどん敷き詰められている様な

もどかしい想いが溢れそうだった。



「おーい!シキー!!」



久しぶりにダイスケに名前を呼ばれた。

ちょっと恥ずかしくなって、でも応えなきゃって

ぎこちなく手を振る。


すると、ダイスケの周りに友達が集まってきたので

急いで、その場を後にし、

木の下について、しばらくノートに小説を書いていた。


私が小説を書いているのを知っている人は少ない。

幼い頃から学者で海外を飛び回っていた父の書斎で

本に触れる機会が多く、

いつからか母の勧めで小説を書くようになっていた。

本を読みながら、思ったことを文章に書き記す。

それは両親が死んで、高校生になってからも

クセのようになっていた。



小説の続きを書き、

本を見ようと手を伸ばすも

教室に忘れたことに気がついて急いで取りに戻る。

高校生のお昼休みってとっても貴重なのだ。


本を取りに行き、また定位置に戻ると

ダイスケが寝ていた。





―――魔が刺した。





とか言ったら、ちょっと邪だけど


寝てるなら―――


寝てるなら、大丈夫かもしれない。



「ねて……る?」



寝てる。ちゃんと確認もした。

コホンと1つ咳払いをすると

私は、本の一節を朗読した。


ちらっとダイスケを見るが

気持ちよさそうに寝ている。

調子に乗った私は、自作の小説の一文を口にする。



「あなたが私を思う気持ちは、私を異性として好きだということなのか

それともただ、哀れと思って側にいるのか、私にはわからない。

けれど、この気持ちだけははっきりと知ってしまった。

あなたのことが好きだ。人としても、異性としても

いつかあなたが私を好きだと思うまで、この気持ちを湖のように

貯めようではないか、一生かかっても構わない―――」



それは、誓いにも似た、完全なる自己満足。

急に我に返ると恥ずかしさだけが込み上げてきた。


いつものようにダイスケの肩を揺らすと

起きる気配がしたので、そそくさとその場を後にする。




―――告白…の、予行練習…。



そう自分に言い聞かせて、

トイレで顔が赤くないかチェックしてから教室へ戻った。






それから、授業が全て終わっても

一度もダイスケの顔を見ることができなかった。

私は完全に様子がおかしく見えていたのか

帰り支度をしていると、ダイスケが机に近づいてきた。



「なぁ、今日チャリで来てるんだけど」



一緒にいたナナとココノの目が一瞬見開かれて

ナナが私の背中を大きく叩いた。



「どうぞどうぞ!」


「あたしら、用事あるから、じゃあね」


「ちょ…えっ」



戸惑う私をよそに、2人は帰っていった。

ダイスケを見ると、少し照れていた。



「いや、久しぶりにチャリだから

送っていけるなーって思っただけなんだけど

なんか勘違いさせちゃってごめん」


「あ…うん。帰ろう」



ダイスケは人に冷やかされるのが嫌いだ。

しばらくやりとりしてなかったから

少しぎこちないだけで、ダイスケからしたら

何の気もないことなのだ。


でも、教室でこんな風に放課後の予定を聞かれたのは

初めてのことだったので一瞬だけ期待してしまった。

私達の間に流れるどうしようもない

溝みたいなものが埋まるんじゃないかと思った。



急いで帰り支度を終わらせると自転車置き場から一緒に帰った。

自転車置き場から帰るなんて初めてのことだ。


ダイスケは自転車を引いていたが坂道を登ると

サドルにまたがった。



「この坂、めっちゃ気持ちいいんだぜ!後ろ乗って」


「え、危ないよ」


「大丈夫、ちょっとだけだから」



私は自転車の荷台に横乗りした。

坂をぐんぐん下るとちょっと怖くて、

自然にダイスケの体に手を回して頭をダイスケの背中に

ぴたっとくっつけた。


坂道を下る風の音と

ダイスケのちょっと音痴な鼻歌と

うるさい私の心臓の音と、ダイスケの命の音が耳から伝わった。



「ねぇ、その曲なんだっけ」


「え?」


「鼻歌の曲!」


「ああ、ムツミ――…こないだ言ってたいとこが歌ってたー」



少し大きな声でやりとりする、何でもない会話。


なんで今その曲を歌ってるんだろう。

どうして、今日、帰ろうって誘ってくれたんだろう。

ダイスケの鼓動も少し早いのはなんでなんだろう。

どうして知らないことばっかりなんだろう。


色んなことが一瞬で駆け巡った。


坂を下るとちょっとだけと言ったダイスケの言葉をすっかり忘れ

自転車を下りずに減速して土手に入った。

自転車のチェーンがゆっくりカラカラと音を立てる。



「最近、元気そうじゃん」


「おかげさまで」


「あいつらいいやつらだろ?」


「ナナとココノ?」


「そう!シキのことずっと気にしてんのに

なかなか声かけらんなくてなー」


「…そう、みたいだね。ありがとう」


「それは俺じゃなくて、あいつらに言えよ」


「そういうところ優しいよね、ダイスケ」


「え…いや、別に俺、優しくないし!普通だよ、ふつー」


「マミタンにも優しいの?」


「マミタンなー、ははは。ちょっと困ってるけど」


「なんで困ってんの?」


「なんか女っぽいじゃん。すぐ泣くし」


「かわいいじゃん、女の子っぽくて」


「んー。なんか違うんだよなー」


「なんかって何?」


「何ってなー。マミタン誰でもいいだろ、俺じゃなくても」



そう言って、ダイスケは少し笑った。

確かに、マミタンは別にダイスケじゃなくてもいい気がする。

私の方がダイスケを必要としてるし、

ダイスケだって私を必要と―――




―――してる?




私はダイスケのために何かできただろうか。

何もしてない。

私だってマミタンと一緒じゃないか。

事実、今日だって、ダイスケから言ってくれなかったら

これからずっと一緒に帰ったりしなかったんじゃないだろうか。


私はいつも待っているだけで

ダイスケのために何もしていない。


お父さんとお母さんが死んだ時だって

自分から誰の手も取らなかった。

誰かが決めてくれるのを待っていた。



「ダイスケ!」


「何?」


「私に何かできることある?」


「何かって?何だよ急に。別に何もしなくていいよ」


「でも、それじゃダメなんだよ」


「?」


「私、何かしたいんだよ…」



言葉が尻すぼみになり、何もできない自分が

どうしようもなくちっぽけな存在に思えた。




しばらく、黙ったまま、土手を下りて家の方へ向かう。



「じゃあさ」


「なに?」


「学校でいい思い出作ってよ」


「思い出?」


「学校ってそうゆうとこだろ?」


「…学校は勉強するところだと思うけど」


「まあまあ」


「それに、ダイスケ自体に何かすることじゃないよ…」


「俺にとっても嬉しいことだからいいんだよ。

シキがさ、俺の弟の力になっただろ。

それが俺の力になったんだよ。

だから俺もシキに何かしたいと思ったし

シキが俺にそう思ってくれてるのは自然なことだよ。

世の中ってそういうのの繰り返しだろ」


「それと思い出作るが繋がらない」


「よーするにだ!楽しめ!ってこと!」



気がつくと公園の前まで着いていた。

そっと荷台から下りて、スカートを直していると

ダイスケがさらに続けた。



「大人になって振り返った時にさ

八戸と藤森と、俺とかもちゃんといて、

いつでも笑って思い出せるように、そういうのを作るんだよ。

前にサッカーの試合で負けた学校の先輩とさ

俺、めっちゃ仲いいんだけど、負けた俺に声かけてくれて

試合の勝ち負けと、思い出残せたかは全然違うぞって。

それからちゃんと思い出に残るような試合をするって毎日練習してんだけどさ」


「悔いを残すなってこと?」


「そうそう!さっすが物分りがいい!」


「言葉ではわかるけど、なかなか難しいよ」


「だぁーから、毎日楽しめってこと!

泣いてるより笑顔の方が周りも明るくなるだろ!

いいから笑ってりゃいいんだよ

ほら、約束しろ」



ダイスケはそういって右手の小指を出す。

おずおずと私も右手を出すと

ダイスケは私の小指を絡めてブンブンと上下に振った。



「子供みたい…」


「俺達まだ子供だろ!未成年!」


「そういうんじゃなくて…あれ?」



なんとなく目線を下げると、ダイスケの足から血が滲んでいた。

ダイスケも私の目線を追いかけて滲んだ血に焦ったようだった。



「うっわ。また出てきた!」


「治ったんじゃなかったの?」


「いや、治ったんだけど、かさぶたが乾いたり、血出たり繰り返してて」


「それって治ったんじゃないじゃん」


「治ったって医者が言ったからたぶん治ってんだよ」


「ちゃんと大きな病院とか行ったの?」


「町医者だけど、こないだ一応デカイ病院行ったよ」


「それで?」


「いや、結果はまだだけど…」


「それでサッカーやってたの?!」



それから、茶化すダイスケと心配する私のバトルがしばらく続いて

病院の結果が出たらすぐ報告してくれる約束をして

そこで初めて私達はスマホの番号を交換した。


これまでお互いの番号を知らなかったことにはびっくりしたけど

これまでの私達の暗黙の了解は

スマホなんて必要としていなかったということだ。




ダイスケには毎日楽しむのはいいけど、体が基本なんだから

ちゃんと自分のことも大切にしてほしいとお願いした。



ダイスケが人に優しい分、

私がダイスケのことを気遣わないといけないと

心に固く誓った。



口ではいくら興味ないと言っても

この人はどこまでも、他人のために動いてしまう。

そこにたまたま私がいるだけで

相手なんて誰でも、彼は人に優しい。


だから私は、彼の代わりに、彼自身を気遣って

約束したように、思い出を沢山作っていこうと思う。



子供のように小指を絡ませ

約束したこの日を忘れないように。








つづく



――――――――――――――――――――

Twitterやってます!

感想等いただければ

ガソリンになります!!



サンライトスターライト

@sunlightstarlig


あこの(メリコP)

@acono0726



原作・執筆

あこの


ディレクト・校生

LuFS

銀縁眼鏡


――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ