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【動画付き】ナチュラルキラードロップス  作者: サンライトスターライト
高校生編
3/9

チェリッシュメモリーズ

――――――――――――――――――――

ニコニコ動画にて公開中の動画の

半スピンオフ小説です。


ナチュラルキラードロップス

http://www.nicovideo.jp/mylist/44318811


チェリッシュメモリーズ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm23827712

――――――――――――――――――――





彼女は、とても美しかった。


それは、誰もが認める容姿で

容姿だけではなく、いつも友達に囲まれて

よく笑う、性格もとてもいい子だった。


他校の生徒にもその噂が届いていて

同い年で従姉妹のムツミにもしつこく彼女の事を聞かれたくらいだし


何より、俺の友達が何人も一度でいいからつきあいたいと漏らしていた。

そんなことを聞いたはいいが、

自分とは住む世界の違う人だと思っていたのが

中学の出来事。




―――高校の入学式後にクラス表が掲示され見に行くと

〝土橋 大輔〟と同じクラスに〝篠塚 詩季〟の文字があり

彼女とクラスメイトになったことを知った。



けれども、入学式後1週間程彼女は学校に来なかった。

噂話をしていた女子によると、先日報道のあった飛行機事故で、

彼女は両親を亡くしたらしい。


同じ中学というだけでこれまで特に接点もなかったが、

なんだか少し気がかりになった。



学校に来るようになってから、彼女は中学の時とは

一変したように笑わないし、遠巻きに見てはいるが

誰も彼女に近寄ろうともしなかった。


何より、彼女がそれを拒むオーラを出していたし

両親を亡くすという事実が好奇心を越えて

どう接すればいいのか誰もわからなかったのだろう。




―――サッカー部に入部した俺は、

サッカー漬けの毎日で、思い描いた高校生活を送っていた。


入学から1ヶ月くらい経ったある日のこと、

部活の練習後、

ある女子生徒のおかしな行動を目撃した。


音楽室裏の落葉樹の幹に

届かない両手を伸ばし、しがみついていたのだ。

特に何か考えることもなく、彼女に近寄って、



―――チョップした。




訝しげに俺を見上げたのは、やはり彼女だった。



「篠塚…だよね?俺同じクラスの土橋!あ、中学も一緒」


「……」


「何してんの?」


「……別に」


「えりか様かよー!」



自分なりにはなかなかエッジの聞いたツッコミをいれたと思ったが

彼女はピクリとも笑わなかった―――




―――俺はそれから意地になって彼女を笑わそうとした。

周りの奴らから気遣われたが、特に気にすることもなかったし、

何より、愛想笑いさえしない彼女は、

上辺だけで生活している学校という空間では

とても面白い存在だったからだ。


中学の時の彼女は

容姿淡麗で、気立てのいい子だったのだろうけど

いい子の鏡みたいな感じがして全く興味が持てなかったが

今の彼女は、とても自然に感じた。



「ねえ、そろそろ戻ってよ。先生来てるってば」


「えー、俺今日からここの席にするわ」



席の本当の持ち主があわあわと慌てているが

彼女が困っている姿が面白くて

そいつには悪いと思いつつ、とどまった。



「土橋くんー、自分の席に戻りなさい、鈴木くん困ってるでしょ」


「はーい」



おじいちゃん先生が震え声で注意を促し、

先生と俺と、鈴木くんの様子にクラスメイトがクスクスと笑う。

彼女は迷惑そうにしていたが、いつもの鉄仮面が少し崩れた気がしたので

立ち上がり様に急いで写メを撮った。



「笑った?今、笑った?」


「笑ってないわよ!何撮ってんのよ!」


「どーばーしーくんー」



笑ったと思ったんだけど、先生の再度の忠告で

また鉄仮面に戻ってしまった。



仕方なく席に戻り、さっき撮った写メを確認すると

やはり、彼女は少し笑っていたようだ。



「手ブレ機能、ナイス」



呟いて、フォルダに移動する。

楽しければ良くて、あまり人に執着しない性格だったはずだけど

彼女のことはどうしても放っておけなかった。



その日は、彼女に逃げられっぱなしで

部活が終わった後、まっすぐ帰宅した。


帰宅すると、従姉妹のムツミがまた家の縁側で

おやつを食べていた。



「おーお帰りー。実習でドーナツ作ったから持ってきたー」


「おー」



ドスンと部活バッグをダイニングに置くと

着替えに部屋に行く。


ムツミは、いかにも女子って感じの奴で

何かとつけては恋愛の話ばっかりしてくる。

本読んでるな、と思ったら、ファッション誌だし、

爪なんてキラキラしすぎて人間じゃないみたいだ。


しかし、母親の再婚で自宅に居づらいらしく、

片道2時間の高校に受験して

あれこれ理由をつけては、俺の家に泊まって学校に通ったりしている。

そうした方が母親も新婚で気兼ねなくていいだろうと

あいつなりに気を使ってるんだと思う。


見た目は派手だけど、そういうところは

とても純粋で、いい奴だと思う。



―――着替えて戻ると

縁側で足をブラブラさせてるムツミが

スマホをいじっている。

また彼氏か何かだと思って特に気にもせず

冷蔵庫を開けて、冷やしてあった水をぐびっと飲む。



「ねー。この子、あの子だよねー?」


「んー?」


「やっぱかわいいね」


「?」



ちらっと見やると、ムツミがいじっているスマホが

俺のものだと気づき、水を吹き出してしまった。

部屋に戻ってる間に部活バッグから勝手に取り出しのだろう。

水が入ったペットボトルをシンクに投げ、ムツミに慌てて駆け寄る。



「おい!人のだぞ!」


「知ってるよー」


「知ってるよーじゃねぇ!返せ!」


「ダイスケもなんだかんだ色気づいちゃってお母さん、うれしい!」


「誰がお母さんだ!」



ムツミの手からスマホをやっとこさ取り返すが

ニヤニヤするムツミに事情を説明する気力はなかった。



「なにー、好きになっちゃった?」


「そんなんじゃねーよ」


「相談だったら、このムツミちゃんが適任ですよ!!」


「そういうんじゃないって、ただ、ちょっと…」


「ちょっと?」


「あーもういいから駅まで送ってやるから帰れよ」



そう言ってその場を離れようとしたところ

買い物に行っていた母が帰宅した。



「今日はムっちゃん、家に泊まるのよー」


「そうなのよー」


「あら?陽輔まだ帰ってないの?」



陽輔とは俺の3つ下の弟のことで最近思春期で

口数もなんだか数なくなり、

どうも好きな奴がいるらしく、最近帰りが遅い。

どいつもこいつも恋愛恋愛って忙しそうだ。



「電話してみるよ」


「うん、お願いね、早く帰るように言って

お兄ちゃんの話しか聞かないんだから…」


「陽輔も男の子だからねー思春期ってたいへーん」



弟に電話をする。

何度か鳴って、電話に出る音がした。



「今、どこにいるんだ?兄ちゃんとウイイレする約束だぞー」


「……すみません。陽輔くん眠ちゃってて…」


「え!あ、え、どちら様ですか?」


「あ、陽輔くんの、ともだ…ち?…友達です、たぶん」



電話の向こうから女性の声がしてどぎまぎしていると、

俺の様子を見やり、察したムツミが盗み聞きをしだした。

恋愛魔王の魔の手から逃げるが、しつこく付きまとってくるので

そんな状況下でしどろもどろ事情を聞くしかなかった。


どうやら、この女性と時々公園で話をすることがあるらしくて

今日は、話をしていたら眠ってしまったらしく

女性も、どうしたらいいかと思っていたところ

弟のスマホがバイブして、画面に「兄ちゃん」と表示されたので

電話に出たのだそうだ。



「俺、今から迎えにいきます!どこの公園ですか?」



女性から公園の場所を聞いて玄関に向かう。

恥ずかしながら、大人びた女性の声に少しドキっとしてしまった。

声なんかでドキっとする俺は、健全な男子高校生のようでよかった。

サンダルを履かずに、この間買ったばかりのスニーカーを履く。



「ねぇねぇ、ムツミも行く」


「来なくていいよ」


「陽輔の初カノ見たいもん」


「彼女じゃないよ、友達って言ってたから」


「えー、彼女だよー!」


「うっせ、家にいろ」


「えー」



後ろで文句を言うムツミを振り切り

公園の方へ向かう。ここから歩いてもそう遠くない距離だ。


さっきの女性の声を反芻しながら

少し顔が熱くなった自分に照れた。



「何やってんだ、俺」



しばらく歩くと公園につき、

公園の垣根を通ると入口のすぐ横のベンチに

弟は女性にもたれかかりながら寝ていた。


弟がもたれていて、女性の姿がよく見えないが、

近寄りながら声をかけた。



「あーすみません。俺、陽輔の兄貴の…」



そういうと、女性がこちらを見た。



「あ…」


「あ!」



―――篠塚だ。



「え、お兄さんって…」


「なんで篠塚が?」



篠塚は少し気まずそうに、下を向いたが

それでも弟を起こさないように体を動かさなかった。

一瞬、時が止まったようになったが、

篠塚はぽつりぽつりと話しだした。



「大人っぽい声だったから、お兄さんってもっと年上の人だと思った…

前からよく、ここに来てて、陽輔くんが小学校の時から

ここで話とかしてて…」


「あー。そうなんだ。ありがとな、面倒みてくれて」


「…ううん」


「座っていいか?」


「…どうぞ」



篠塚の横に座って弟を見るが

泥だらけで傷も多かった。



「こいつ、なんでこんなボロボロなんだ?」


「………」


「何か知ってる?」


「………陽輔くん、学校でお友達とあんまりうまくいってないみたいで」


「え……なにそれ」


「詳しくは私からは言えないけど、家族には心配かけたくないらしい」


「………」



全く何も知らなかったことで、

正直、兄貴として申し訳ない気持ちになった。

篠塚にも、弟の相談とか乗ってもらってたのかと思うと

ありがたい気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

弟がよく泥がついた状態で家に帰ってくることはあったが

そんなことになってるとは思いもしなかった。

最近、俺や母さんに突っぱねた態度を取るのも、

単なる思春期だと思っていたけど

こいつなりのシグナルだったのかもしれない。



「帰ったら、詳しく聞いてみるよ、ありがとな」


「…ううん、私もよく話聞いてもらってたから、

お礼を言いたいのはこっちの方」


「篠塚は……なんで学校で誰とも仲良くしないんだ?」


「………」



凄く、突拍子もない質問をしてしまった。と後悔したのは

言葉をすべて吐き出した後だった。

篠塚が一瞬黙ってしまったので、

まずいと思いながら次の言葉を探していたら

篠塚は話してくれた。



「……ただ……

今まで優しかった周りの大人たちが急に私をどうするかとか

遺産や保険金の話で人が変わったようになったから

上辺だけの関係はもう必要ないなって思ってるだけ。

おばあちゃんが私を引き取ってくれなかったら

私は今、高校に行けてたかどうかもわからない。」


「そうか、なんて言っていいかわからないけど

人ってある程度上辺なところがないと

社会として成り立たないんじゃないかな

でも俺は、篠塚のこと上辺で哀れんだとか、

からかってたとかじゃなくて、

なんとなく、1人にしたくなかったというか……

他の奴らと共犯みたいになるのが嫌だったというか…その…

気になるというか……」


「え…?」


「あ、いや、そういう意味じゃなくて、

いや、そういう意味なのか?あれ、俺もよくわからないんだけど

篠塚はおもしろいやつだなーって!!あれ、何言ってんのかわかんねー」



篠塚は弾丸のように早口になった俺を見て

唖然とした後、くしゃくしゃな笑顔で声を出して笑った。



―――正直、ドキっとしてしまった。



綺麗だなーとは思っていたけど

笑うとこんなにかわいいのかとびっくりした。


でも、湧き上がるような、痛いような、

この感情がなんなのか答えを出すには

俺の予備知識はあまりにも足りなすぎた。



「土橋くんて、単なるうざい奴かと思ったけど

なんか色々考えてるんだね。」


「む…失礼な!俺だって人間だから考えたりするよ!」


「あはは、そりゃ、土橋くんも人間だよね」


「あ、ダイスケ」


「え?」


「ダイスケでいいよ!」


「ダイスケ…」


「そ!俺もシキって呼んでいいだろ?」



彼女の背景がオレンジ色に広がって

どんな表情なのか逆光でいまいち見えなかったけど

きっと、笑顔で、大きくうなづいたと思う。


俺は、きっとこの美しい景色を、一生忘れないと思った。





―――それから、弟を起こそうにも

完全に熟睡しきっているようで、シキの手を借りて

おんぶして帰ることにした。

シキを送ると言ったが、家はすぐだからと断られてしまった。


シキと途中で別れて

背中から弟の寝息を聞きながら

さっきのやりとりを思い出していた。


すると、背後から不気味な笑い声がした。

振り返ると、逆光で黒くなった人影がこちらを見て笑っている。

ぎょっとしてから、よく目を凝らすと、ムツミの姿だった。



「…ふふふふ。みぃー…ちゃったー…」


「ム、ムツミ!」


「ダイスケも男子やってるじゃん!

弟だしにして美少女とイチャイチャしてからにー!!」


「い、イチャイチャ?!してねーよ!!」


「してたね!!ダイスケって呼んで、俺もシキって呼んでいいだろ!

きゃー!!」


「う、うっせー!陽輔起きるだろうが!!」



その後も家に帰るまでムツミの攻撃は止まなかった。

何より、ムツミに付けられていて

あまつさえが盗み聞きされていることに気付かなかった俺のミスだ。



家に帰ると、弟が目を覚ましたので、

そこから弟と学校のこととか

今、悩んでることをそれとなく聞き出した。

好きな子がいて、その子が学校でいじめられていて

それを助けるようになってから

学校で冷やかされたり、よく喧嘩をするようになったそうだ。


女子とつきあったこともない俺が弟の恋愛事情に

あれこれいうのもいかがなものかと思っていたら

また、お節介焼きのムツミが恋愛について弟の教師をかって出て

単純な弟の恋愛思考回路は完全にムツミに譲ることとなった。


面と向かって話をしてみると

弟は、昔のように純粋な弟のままだった。

俺や母さんが勝手に思春期と決めつけて、解決しようとしたから

このターンで話を聞けないままだったら

本当に絵に描いたような反抗期になるところだったんじゃないかと、

今日の出来事でシキに心から感謝した。



―――翌日、学校でシキに昨日のお礼を言うと

少し、シキの表情が柔らかくなっているのを感じた。


この出来事がきっかけで、

弟が家で話しづらいことは、公園で2人で弟の話を聞いた。

あまり深くは考えていなかったけど

シキは部活をしていないのに、放課後、俺と帰ることが多くなった。

これと言って約束をしているわけではないけど

シキはいつも学校から少し離れた下り坂のところで

俺のチャリが通りかかるのを本を読んで待っているようになっていた。

俺の毎日の帰路は、学校から素知らぬ顔で友達と別れてから、

大きい坂を目をつぶって全力で駆け上がり、下る頃に目を開ける。

シキを見つけて、ゆっくりと彼女の姿を見ながら下る。

彼女がいなかった時は…なんだか淋しい気持ちで全力で坂を下った。



そんな日常が繰り返して行ったある日、

昼休みになり、いつものように中庭でサッカーをしていると

音楽室裏へ行こうとするシキを見つけて声をかけた。



「おーい!シキー!!」



シキはこちらに気づいて

あの鉄仮面ではなく、少し照れて手を振り返していた。

距離がぐんと縮まったようで、とても嬉しい。



向きを変えたシキが歩いて行く姿を見ていると

サッカー仲間の友達がつっかかってきた。



「なーなー、お前さ、篠塚さんとつきあってんの?」


「はー?つきあってねーよ」


「そうかー?なんか急に名前とかで呼び合ってねー?」


「名前で呼んだら付き合ってることになんのか」


「ムキになるところが怪しいよ、ダイスケくんよー」



そんな話をしていると

別の奴らも集まってきて、話に加わってしまい

段々といじられていることにイライラしてきた。



「おー、なにー?彼女できたん?」


「できてねーよ」


「お。篠塚さんじゃん、かわいいなー」


「なんかさっきダイスケが呼んだら笑顔で返してたんだぜ」


「おお、氷の女も恋をすると柔らかくなんのかな」


「柔らかいと言えば、篠塚さんの乳、揉みがいありそうだよなー

ダイちゃんもう揉んだの?」


「だから!そういうんじゃないって言ってんだろ」



珍しく、俺が声を荒立てるもんだから

彼らは少したじろいで、中庭サッカーもそこでお開きとなった。


中学の時とはレベルアップして

周りの男子が女子に色めきだっているのがわかる。

俺は、恋愛とかよりも、毎日楽しく過ごすことを心がけているので

彼女とか作ったら、なんだか面倒くさそうで興味がなかった。

何より、サッカーに費やす時間の方が楽しいと思っていた。


かといって、今まで全くモテなかったわけじゃない。

中学の時も、告白をされたこともあるし、高校に入学してから

サッカー部の応援で女子に黄色い声を浴びせられたりもしてる。


だけど、彼氏とか彼女とかの

持ち物みたいなブランドにするのもされるのも

全くもって嫌でたまらなかったし、

やっぱり俺にはサッカーしてる時間の方が重要だった。




サッカーがお開きになったので

いつもシキがいる木の下を通りかかってみたが

シキはそこにはおらず、飲みかけのジュースがノートと共に置かれていた。

何か忘れ物でもして取りに行ったのだろうと

腰を下ろして木にもたれかかったいたら

陽だまりに意識がうとうととするのを感じた。


そこへ、本を持った人影が近づいたが

うとうとした意識の中で目を開けるのをためらってしまった。


シキの匂いがする。

シャンプーと、いつも新緑の匂いがするのだ。



「ねて……る?」



はい、寝ています。とも言えず、そのまま寝たふりをしてしまった。

そもそも寝てる人に寝てる?と聞くという質問自体

寝てる人に向けてではなく、自分自身の“この人は寝てる”という

確認作業に等しい言葉だろう。

そうこう突っ込みたい気持ちを引っ込めていると

シキは隣に腰を下ろして、しばらく動きがないまま

コホンと1回咳払いをしてから、本を開く。



「『―――もう二度と』意を決して放った言葉は、思ったよりも強くて

またがっかりした。いつでもそうだ。

もっと優しく、女の子らしくなりたいのに

『大切な人を失いたくなかったの』だからいつもうまく伝わらない。

友達にも、先生にも、誰にも。」



急にシキがしゃべりだして、びっくりしたが

目を開けることなく、彼女の声を聴いた。

本の内容を朗読しているらしかったが、途中、急に言葉が消えたので

ちらっと薄めで彼女を見た。

陽射しのせいなのか、少し彼女の頬が赤らんでいるように見えた。

すると、本から視線を前へ向け、大きく息を吸った後に、

また本に目線を戻した。



「あなたが私を思う気持ちは、私を異性として好きだということなのか

それともただ、哀れと思って側にいるのか、私にはわからない。

けれど、この気持ちだけははっきりと知ってしまった。

あなたのことが好きだ。人としても、異性としても

いつかあなたが私を好きだと思うまで、この気持ちを湖のように

貯めようではないか、一生かかっても構わない―――」



―――また、ドキっとした。


シキは俺をドキっとさせる天才だと思う。

その声はいつか電話で聴いた、公園で話した、帰りにしゃべった、

あの時の声。


勢いよくパタンッと本を閉じ、立ち上がったシキがため息を一つついて

俺の肩を揺らしたので、今起きたように振舞った姿をみて

シキはその場を立ち去った。


多くを語らないシキの声が、空気を震わせ、鼓膜に届き、

予鈴の音など意識できないほどに、今もまだ反芻させていた。

なんて落ち着く声なのだろう。





シキは――――何かが違う。





それは自分でも段々と気づき始めていた―――






「恋でしょ!」



帰ってからすぐダイニングで、ため息をついたばっかりに

ムツミに声をかけられてしまった。

しかも、棒付きのアイスをなめながらもごもごと

クイズ番組のアナウンサーばりに

人差し指をビシっとこちらに向けている。



ムツミをちらりと見て無視すると、

定位置の縁側から立ち上がって近寄ってくる。



「ダイスケ、それは恋だよー」


「うっせ」


「今のため息は恋煩ったため息だった!」


「ちげーよ」


「素直に認めちゃいなさいよ!ゲロったら楽になるよ!」


「俺もなんだかわかんないんだからほっといてくれよ!!

どいつもこいつも!」



声を荒げると、ムツミはきょとんとした後、

ニヤリと笑って縁側へ戻っていった。

そして、最近流行っているらしい恋愛ソングを鼻歌に変えて歌っている。



これが恋愛感情だったらなんだっていうんだ。

だからってシキに告白して、断られて、気まづくなって

あいつ、また1人になっちゃうじゃないか。


そんなことはどうしてもできない。

だからこれは恋愛感情なんかじゃないんだ。

そうであっちゃいけないんだよ。


部屋に戻って、着替えてもダイニングには戻らず

部屋でスマホをいじっていた。

ふとシキの写真を思い出して、開いてみる。



「…って!何してんだ俺は!本当に好きみたいじゃないか!」



エゴだって言われるかもしれないけど

俺は、今立ち直ろうと少しずつ傷を治し始めた彼女の力になりたいんだ。

それで、彼女の周りに自然に人が集まるようになったら

そしたら、俺だって――――



「結局、自分のことしか考えてないじゃん……俺……」



高校生の俺がいうのも変な話だけど

まだまだ高校生活も長い。


その先だって、大学もあるし、俺たちが大人になったって

まだ何十年と先に途方もない時間があるんだから

今すぐ、答えを出さなくたっていいじゃないか。


その間に、沢山恋愛もして、色んな経験を積んで

そういうものの中に、俺とシキがいる。

今すぐ焦ってどうにかするほど

俺達の人生って短くないだろ。



シキの痛い思い出を1つ1つ愛しく、

大切な思い出に変えたい。

振り返った時、またあのくしゃくしゃな笑顔でいてほしいと思う。




時間は数えられないほどあるんだから―――――






つづく。



――――――――――――――――――――

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原作・執筆

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