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【動画付き】ナチュラルキラードロップス  作者: サンライトスターライト
高校生編
1/9

メガネボーイ

――――――――――――――――――――

ニコニコ動画にて公開中の動画の

半スピンオフ小説です。


ナチュラルキラードロップス

http://www.nicovideo.jp/mylist/44318811


メガネボーイ

http://www.nicovideo.jp/watch/1392457333

――――――――――――――――――――

「ナチュラルキラー細胞って知ってる?

治ろうとする免疫を助ける細胞なんだって!私たちの体にいるんだって

それってとってもロマンチックじゃない?」


やや興奮気味に本を持ったまま、フミは本棚から顔を出す。


昼休みで日が照っていても

2月の風はまだまだ冷たくて、図書館の中二階、奥の窓側の定位置は

体温の高い男子高校生の僕には程よい冷気をまとわせてくれていた。


僕らが出会ったのは、もう随分前のことで

“随分前”というには過去過ぎる出来事だ。


父の仕事の関係で海外から日本にやってきた僕は

日本語がまだ身についていなくて一学年落として小学校へ入学した。


そこで、フミをはじめ、イチコとエイ3人に出会った。

3人は正真正銘の幼馴染って奴で

ハーフで日本語もままならない僕を快く輪の中に入れてくれた、かけがえのない存在だ。



―――とは言っても、天邪鬼な僕は、素直に態度には表せないのだけど・・・。




「ねぇ!チカゲったら!聞いてる??」


「ああ、聞いてるよ、ナチュラルキラー細胞のことだろ」


「そう!ロマンチックじゃない?」


「細胞のどこがロマンチックなんだよ」


「だって、誰かが誰かを支えてるこの世の中みたいに

今も知らないところで私たちの細胞も免疫を助けてるんだよ。

そう、まるで私が影でチカゲのフォローをしているみたいに!」




まただ。



フミはすぐ、ロマンチックだとか少女漫画とか

僕には備わっていない部分の意味不明なものを持ち出してくるし

言葉の端々に僕への執着心を晒してくる。


わざと―――なのか?無意識なのか。


どちらでも構わないが、1つわかっているのは

フミは僕のことが“随分前”から異性として好きなのだ。

わかった上でフミを弄るのが僕の日課だ。


それまで読んでいた本を壮大なため息と共に閉じると

穴が開いた元の場所にすっぽりと戻す。


「あ、ちょっと!チカゲ!!」


意味不明な妄想は僕には無縁のもの。

こういう時はさっさと撤収するに限る。


「もー」


背後でフミのふくれっ面が手に取るようにわかる。

そして、いつものようにパタパタと音を立てて僕を追いかけてくるんだ。


それは、いつもの、なんてことない、毎日。

変わることのない、僕らの日常だ―――





ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴がなり

教室のいつもの席に戻った僕に

エイがこっそりと話しかけてきた。


「もうもらったぁ?」



おっとりした性格のエイは

語尾をのばすような喋り方をするし

動物のそれのように口の端がいつも上へ向いている。


チワワ男子とか、猫男子とか、小動物のようだ。

いつも女子に囲まれてお菓子を餌付けされているし

その様子を見ているイチコも哀れだ。

そして、こいつはイチコのそういった感情にも気がついていて

わざとイチコのジェラシーを煽っている。


僕ら4人の幼馴染は

高校生らしい恋愛模様を繰り広げているのだ。


僕らも馴れ合って数年の高校生。


そろそろ進展があってもおかしくはないのだけど

好きな子が自分のことを好きなことを確かめるという

長年の幼稚なクセはなかなか抜け出せない甘美なものとなっていた。


何より、日常をわざわざ打破するような出来事が起こらないのが

幼馴染って存在なのだろう。



「もらった?って何を?」


「ほらぁ、今日、アレの日でしょー」


「アレ?…ああ、バレンタインね」


「そうそう!俺の大好きな日」


「放課後またまとめてくれてやるよ」



僕がそういうと、

小動物の口元は前にも増して上に向き

嬉しそうに前に向き直った。

ちょうどそれと同時に先生が教室に登場し授業も始まる。




―――毎年毎年、厄介なことに

2月14日のそれに合わせてそわそわするのが

共学高校の行事のようなもんか。


昔から色んな女子にチョコレートを渡されたり

下駄箱にこれでもかというほど詰められて

結局はエイに全部流れていく。

よく知りもしない人間から渡されるものなんて

気持ちが悪い。


しかし、毎年のこの行事で唯一楽しみにしていることは

多くをもらったフリをして、その中から

ささやかなひとつを見つけ出すことだ。


たった1つだけ、メッセージも何もかかれていない

不器用が包装紙にまで表れているかわいらしい贈り物。


いつか、僕に直接渡してくれる日が来るのだろうか。

いや、この日常を変えたくないと思っているのは

きっと彼女もそうだろう。



楽しみにしている贈り物は

必ず2月14日の僕の行動より先回りされて

朝刊と一緒にポストに入っていたり、

委員会から教室に戻ると机の中に入っていたり

忍者かくノ一か、流石に僕の行動をよく読んでいるのだけど、

今年はまだそれがなかった。


今日は委員会もない。


まさか、他に好きな男ができた―――


というのはないだろう。


いやいや、まさかな。


真横の彼女の顔を盗み見る。

僕の左からは冷たい空気に澄んだ陽射しが照り

僕らを照らした。


彼女は黙っていれば、部屋があんなに汚いことも

家ではジャージ姿でちょんまげをしていることも

全くもって想像できない程、綺麗だ。


他の男子達ももちろん放ってはおかなかった。

でも、いつも僕が横にいて

彼らが彼女にちょっかいを出すところを

本人には気づかれず睨みつけているから、

今まで誰のものにもなっていない。



それに、引っ越してきたばかりの頃

彼女の誕生日に僕があげた三日月のピンを

高校生になった今でも

彼女は欠かさずつけている。


それが答えだと、僕は確信があるのだ。


彼女は、フミは、僕のことが好きなのだ。





―――授業が滞りなく進み、休み時間になる。



休み時間になると、そわそわした男子たちが

急にそわそわしてないフリをしだす。


廊下に女子が通りかかり、それに一喜一憂している。


僕は何度も何度も覚えてもいない女子に呼び出され

校舎裏や、階段の踊り場に連れ出される。

それから教室に戻って、机を素知らぬ顔で探っても、

本当に欲しい物が入っていない。



おい、今年はどうするんだ。



段々とイラついてきた。

本日最後の授業も佳境になり

担任である教師もまとめに入っていたからだ。


すると、

斜め前に座るイチコからフミに手紙が渡されるのを目撃した。


フミの横顔を盗み見ると

手紙を読んで、一瞬顔が赤くなり急いで返事を書いている。



なんなんだ、まったく。

先生に捕まっても知らないからな。



「はい、じゃあ一ノ瀬さん!一ノ瀬壱子!」


甲高い先生の声が響く。

ほーら、イチコの奴が捕まった。



「あ!は、はい!えっと…」


パラパラとページを探すイチコにフミが助け舟を出そうとしている。

それを見て、大きなため息を吐いた先生は

腰に手を当てて、気を取り直した。


「そんなにお手紙のやり取りが好きだったら

今日はさぞかし素敵なお手紙を渡すんでしょうね、一ノ瀬さん」


「たははー。いやー…ははは…」


なんとも答えられないイチコはちらっと真横のエイを見る。

エイはニコっと笑ってイチコを見上げている。

かと思ったら、前に向き直った。


「せんせー!俺、めっちゃ楽しみにしてるんだから

ネタバレとかしないでよー!」


教室が笑い声に包まれる。

エイがイチコを助ける形となった。


「あんたたちねー…」


先生が何か言おうとしたところでタイムアップ。

授業の終了を告げるチャイムが鳴った。


イチコは赤くなったまま、ストンと座り、エイの横顔を見つめている。

エイはそれに気づかず、両手で頬杖をついて前の席の奴と話をしてる。


恋する乙女って生き物はこんな顔するんだな。

彼女はどうだろう、僕に、こんな顔をしたりしているんだろうか。



「…はい、じゃあ今日はこれまで。青春まっただ中の君たちに先生から

バレンタインのプレゼントだ。HRもなしにしてやろう!

素敵な放課後を過ごしたまえ、諸君」



先生がそう言うと、ある男子は予定がないことを嘆き

ある女子は喜び出し、誰かが先生に声を投げる。


「せんせー!先生も義理じゃないやつ渡す相手探せよー」


「うっさいよ!自分の心配だけしてな!!」


さらに教室は笑い声に包まれた。





―――放課後。




僕は、そわそわするようなマネはしない!絶対にだ。


さっと教室を出て、

帰る前に本を借りようと図書館に向かう。

幸い、先生がHRを省略してくれたおかげで

図書館まで女子に止められることもなく到着した。


扉を開けて中に入ろうとしたところで

横目でフミの姿が写った。



―――来た。



見なかったフリをして、特に興味もない本を手に取り

図書館中二階のいつもの窓側に体を預けた。


扉を開ける物音がして少しずつこちらへ近づき

少し先の本棚の影からこちらの様子を伺っている気配がする。

声をかけようと息を吸い込み、やっぱりやめる。

そんな往復の深呼吸が幾度となく耳に届く。


「…フミ」


「え、あ…気づいてた?」


「うん」


本から目線をそらさずにフミに声をかけた。


―――平静を装う。そんなことしかできない愚か者は僕だ。

日本男児なら男らしく自分から決断しろ!

なんて、頑固な父に怒られそうだが

生憎、父は単なる日本好きのイギリス人で日本人の母と結婚し

僕はその息子なわけで帰国子女の僕が日本男児らしくと言われたら

違和感しか持ち合わせていない。


須らく彼女が何をしようとしているのか手助けすべきだろう。


「あ、あのね…」


「うん、なに?」


「えっと……か、帰んないの?」


「………。」


そう、いつもここから進めない。

壊すのが怖い。それが僕らの関係だった。


だけど――――本当にこのまま?


フミだって、この関係を壊そうと

今年はここまで来たんじゃないのか?

僕は本当に何もしないまま、彼女だけが

僕に歩み寄るのを待っているだけ?


「……後ろに隠してるそれをくれるんじゃないの?」


「え?」


僕は、パタンと本を閉じ、本棚に戻してからフミを見る。

フミは真っ赤になった顔で両手を後ろに隠している。



なんだ、このかわいい生き物は。



「……頂戴?」


「あ、あの、えっと」


少しずつフミに近づこうとすると

何故だか彼女は後ずさる。


「あのさ、そのまま後ろにいくと、壁ドンすることになるけどいいの?」


「え!あ!」


慌てて後ろを振り向くフミの手にはやっぱり

包装紙に包まれた箱があった。

フミの手から取り上げると

またこちらに振り返る。


「あ、あの、それはさ、なんてゆーか、

これまであげなかったから、日々のお礼?ってゆーか…」


「あげなかった?僕は毎年受け取ってたよ」


「え…」


「気づかないとでも思った?だから部屋は片付けろっていつもいつも」


「あ…!」


フミが毎年くれているって確信を持ったのは

もちろん、誰にも負けない不器用さを放ってはいたけど

彼女のゴミ箱のような部屋から、

同じ包装紙が毎回発掘されるって物的証拠も相まっていた。



「えっと…あのね!!」



意を決した彼女はギュッと目を瞑り声を大きくした。



「僕は、フミのこと好きだよ?いただきます」



包を開け、中のチョコレートを口にする。


案外すんなりと気持ちが口をついた。

ダムのように溜めた気持ちが一言でどうなるだろうとは

考えたことはあるけれど、止めど無く溢れ出すようなものでもなかった。


すんなり、小川のように静かに流れていった。


「私も…チカゲのことずっと好き」


「うん、知ってる」


「…うう」


「おいしいよ、チョコ。食べる?」


僕は、このかわいい生き物が愛おしくて堪らない。

どうにか触れられないものかと近寄る。



「はい」



チョコを1つつまんでフミの口元まで運ぶ。

気まずそうに視線を横に向ける彼女を

もっといじめたくて堪らない。



「砂糖と塩…間違った?」


「え…嘘!!」



彼女は急いで僕の手からチョコを食べる。



「なによ!ちゃんと甘いじゃん!!」


「はい、ごちそうさま」


「あ…」



僕の手から食べたことに気がついて

また顔を赤らめる。


―――ああ、触れたい。


チョコが入っていた箱をカバンに入れ、

触れたくて、彼女に近寄る。


お互いが無言で向き合う。


僕はメガネを外し、胸ポケットにしまう。



彼女の頬はこんなに白く滑らかだったのか。


まつげはこんなに長かったのか。


いつの間にメイクなんて覚えたんだ。


唇は―――こんなに柔らかかったのか。



重ねた唇が離れるのを嫌がる。


彼女は息を止めているのか

少し苦しそうにしたので、仕方なく離す。


「甘いね」


「ち、チョコ食べたばっかりだから…」


堪らず僕は、彼女を抱きしめる。

彼女の心臓の鼓動が早くて、こっちまで移っているようだ。


「…心臓、うるさい」


「ちがっ。チカゲだってうるさいよ」


「お前のが移ったんだよ」



2回目も彼女は硬直し、受け入れるのがやっとのようだ。

僕だって恋人のするキスはしたことがなかったし

離れて尚、もっともっとと思ったことがない。




―――僕らは誰もいない図書館で

何度も何度も、離れてはくっついて、また冗談を言い合って、くっつく。

繰り返しては、不器用に求めた。



僕らの甘いひと時を終わらせたのは

フミのスカートのポケットで点滅している緑の光りだった。


「なんか来てるよ?」


「あ。」


フミは急いで画面を見る。


「イチコだ!!やった!」


「なに?」


「イチコも今日エイに告白しに行ってるの」


「へー。じゃああっちもうまくいったんだな」



なんだか、いきなり凄くこそばゆくなった。

ついに、僕たちはそれぞれが


“幼馴染”という肩書きに兼任で




“彼氏・彼女”



がつくことになったわけだ。



「一緒に帰ろって」


フミは無邪気に笑うと、僕のメガネを

胸ポケットから奪って自分の顔にかけた。



「へー。ぼけぼけする」


「度が入ってるから当たり前だろ。ほら返せ」



メガネを奪い返そうとすると、かわされ

フミは自分の胸ポケットにメガネをしまう。



「はい、免疫細胞さん、お手を拝借」


「は?」


「見えないチカゲを私が助けるんだよ」


「またわけのわかんないことを…」


「これからも私がチカゲを助けるんだからね、私だけじゃなくて

チカゲがどんなに素直じゃなくても、チカゲが前に進もうとすれば

必ず、誰かが助けてくれるんだよ」



フミが急にもっともなことを言い出した。

またかと呆れるかと思ったら、なんだかすんなりと

僕の胸に届いた。


僕は、素直じゃない。

メガネみたいにフィルターを通さないと何も見ようとしていない。

きっとそのことをフミは言いたいのだろう。



「私もイチコもね、チカゲやエイがヘタレすぎるから

行動したんだからね!ほんと、うちのメガネボーイ達は

世話が焼けるったらないよね。何も見えてないんだから」


「はは。全くだな」



僕は笑いながらフミの手を取る。

視界はぼやけているが、なんだか晴れやかな気分だ。


フミはゆっくりと僕を連れて行く。

玄関に着くと、よく出来ましたとメガネをかけてくれる。



陽射しは濃いオレンジで

校庭の先の門に手をつないだ2つの影が見えた。


僕らも手をつなぐ。

まだ残っている他の生徒達が僕らを見て

ヒソヒソと何か話している。


恥ずかしさよりも、なんだか誇らしい気分だった。

フミのおかげでまた1つ前に進めた。


僕が彼らの幼馴染になったあの瞬間の掌より

少し頼もしくなった掌を一瞥する。




これからは僕も彼女の細胞の1つになろう。


彼女の全てを助け、背中を押せるような存在に。




つづく。



――――――――――――――――――――

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サンライトスターライト

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あこの(メリコP)

@acono0726



原作・執筆

あこの


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