彼女の心根
嫉妬なんてらしくない。
だから『女』である自分は嫌いなんだ。
こんなの馬鹿馬鹿しい。
彼はあたしを愛してくれているじゃないか。する必要もないはずだ。
そもそも、こんな醜くて時間を無駄にするだけの感情を抱いて何になるのだろう。
わかってる。
わかってる。
それでも苛ついてしまって、仕方ないので机に向かい、書類にガリガリとペンを走らせる。
「ラムセスさんラムセスさん。どうしたんすか?あれ」
「ん?
・・・あー、なんかあの変態青髪がまた女の人からかっていたらしくて、それで」
「あぁ・・・なるほど」
後ろで聞こえる会話に舌打ちしてペンを走らせ続ける。
ーーーどうせまた、「らしくない」とか思われているのだろう。
「素は冷静沈着、普段は余裕綽々な御嬢が、まさかそんなこと・・・」
たしかにらしくないかもしれない。
でも周りから言われるとさすがに胸が締め付けられる思いをした。
「ぁー・・・、っ」
色々と考えてしまって、効率良く仕事が捗らなくなり椅子に寄りかかって天井を見上げると、何だか泣いてしまいそうな気分になった。
馬鹿馬鹿しいと思いながら上を向いたまま目元に腕をやり、顔を隠す。
「・・・べつに、」
ーーー別に、彼が幸せならあたしはそれでいいし、他の人の方がよくなればその人に乗り換えてくれて構わないし、自分は片想いすればいい話だ。
呟くように言ったあと、心の中で続ける。
これは強がりじゃない。
本心だ。
事実、
自分なんて不釣り合いだと思う。
もっと普通の環境で産まれて、それで年上の、もっと綺麗でもっと優しい、もっとスタイルもいい、魔界にいる女性の方が彼にはいいと思う。
燃えるような恋をして、その人と付き合う、というのはありだろう。
自惚れかもしれないが、
ジェイはそういう恋をしてくれたのだと思っている。
でも、付き合うと結婚するは別だ。
一生付き合っていく相手だ。
幸せな家庭でいるためには、
そういう相手じゃだめなんだ。
彼には、あたしなんかじゃだめだ。
「・・・夜夏?」
ーーー気がつけば寝ていたらしい。
返事をしようと思ったが泣きそうな声で返事してしまいそうな気がして、目を開けずにそのまま寝ようとした。
すると、頭に手を乗っけられた。
「・・・また仕事してたんだ。偉いな・・・」
そして、机にある書類を見たのかそう言われながら髪を撫でられる。
それが少しくすぐったくて、
それでまた、
なんだか泣きそうになって、
思わず小さく声が漏れた。
「あっ・・・ごめん、起きたか・・・?」
そう声を掛けられたが、返事はできなかった。
「・・・寝てる、か・・・だよな、疲れてるだろうし、うん・・・」
安心したのか、構ってほしかったのか、どちらかわからないが苦笑混じりな声で言われた。
そう思うやいなや、後ろから抱き締められて耳元で囁かれる。
「・・・夜夏、クラシックショコラ作って来てあげるね」
「!」
思わず反応してしまい、目を開けて振り返った。
が、既に部屋を出られていた。
ーーー・・・ああ、なんだ。
「お見通しかぁ・・・」
でもそれがどこか嬉しくて、笑みが零れた。