死活問題~早速ですがピンチです~
初めて投稿させて頂きました。桜子と申します。右も左もわからぬ若輩者ですが、宜しくお願い致します。
突然の事だった……。平穏だった学生生活に突然降って湧いた問題に早瀬 奏人は陥った。
母が倒れたと聞いたときは慌てて実家へ飛んで帰ったが、幸いにも病気は軽く手術をすれば全快になる程度のものだった。
手術は見事成功。母の退院の目処もたった。
母が倒れたと言うショックから抜け出せば、嫌でも現実を突きつけられた。
即ち今後についてである。
母の手術自体はそう難しいものではなかったらしいのだが、それでも手術費用は高くつく。さらに、母が退院した後に暫く通院することになっているので、その分負担も大きくなった。
しかし、借金をすることにはならなかった。両親揃って物欲が薄く散財することはなかったので、今まで貯めてあった貯金で母の治療費は賄えられた。
問題はその後のことだった。
母の手術後、両親と仕送りのことで話し合った。母の治療費は払い終えたが負担が大きかったこと。そのため当面の仕送りを削らなければならないこと。
(……無論、そのことに対して異論はない)
母の体調が何よりも優先事項だと言うことはよく理解している。だから自分の仕送りが減ってしまうことに文句はなかった。
(文句は……ない。ないんだけども……!)
それでも、と思ってしまうのは未練がましいのだろうか。
母が倒れたと聞き、帰省の時でさえ使ったことのない飛行機を利用したため、いつもよりも時間は短縮できたが二~三万は軽く吹っ飛んで行った。その時は早く母の下へ帰ろうと必死だったので、金銭のことまで考える余裕がなかった。
後悔をしていないとは言え、本来の予定なら手元にあった筈の一万円札がないので、より一層侘しく思えてくる。しかも、あの話し合いの場、両親の前で大見得切ってしまい、来月からの仕送りは今までの三分の二で良いだなんて豪語してしまった。
(あの時、『バイトをしてみようかとは思っていたんだ』とか『いつまでも親の仕送りにばっかり頼っていちゃいけないとか思っていたしさ』とか……どの口が言った!そんなホラを……!)と、ほんの少し前の自分を恨んだ。
尤も、少しでも両親の負担が減らせればと思ったんだし、あの時両親に言ったことは嘘偽りなく本心からだ。しかし、それと自分の死活問題に関しては別だ。バイトだってやろうと思っていたし、前々から興味はあった。……が、バイトをすると金が入ってくる反面、自分の趣味である旅行をする機会が少なくなる。それなら仕送りで使うお金を必要最低限しか使わず、残りを趣味に回したほうが良いのではないかと考え、結局バイトをせずに居た。結果的にはそのことで裏目になる破目になってしまったのだが。これで貯金でもしていれば、多少はマシな状況だったのだろうが、生憎両親からの仕送りは殆ど旅行に費やされていたので手元には僅かにしか残っていなかった。
(と、取り敢えず今手元にある金額を数えてみよう……)
そう思い、自分の全財産が入っている財布を開け、中身を確認した。
全財産:2177円
(え……?)
その少ない金額に驚いて、財布をひっくり返しレシートまで引っ張り出して漁ってみたが、金額は変わらず2177円のままだった。
(……えぇええ……!!?えっと、今日がちょうど20日だから……)と、頭の中で慌てて計算する。
(確か……仕送りが来るのは月初め頃で……って、ええっ!……あと10日もある……!その上、仕送りがいつもの三分の二だから……)
考えた瞬間目の前が真っ暗になった。脳内でしきりに”マズイ”という自分の声が聞こえる。
「も、もしかして……オレ、ピンチ…………?」
自分の声が虚しく耳朶に響いた。