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雪舞う街に 3

長編?3話目です。

大江戸警察本隊への帰還に悩む棟方に頼まれ、一人の女を村咲の家に連れて行くイチだったが…

久しぶりの更新ですがよろしくお願い致します。


「入れてくれ」

「いやじゃ」

「入れろ!!」

「だめじゃ」

「チビッコは大人の言うことを聞くものだ」

「貴様こそチビッコだろうが!!おなごのような顔しよって!!」

「う…うるさい!!早く入れてくれ!!」

「家守としてそのような輩入れるわけにはいかん!」


村咲邸玄関前の攻防が真夜中の吉原で行われている。


攻めるは吉原警護隊斎藤イチ。

守るは『座敷わらし』カナ。


力押しのイチが勝るかと思われたが、その顔を出す扉の隙間から決して一歩も引かないカナに分があるようだ。

イチの顔色が悪くなってきた。

唇が紫に変色し始める。

その様子をカナはまじまじと見つめながら、イチに詰め寄る。


「そんなに寒いなら、番屋へ帰って暖まればよかろう」

「じゃあこいつは置いていく」

「だーかーらー!!二人とも帰れ!!」


「イチ様…もう結構ですわ…ワタクシなんかのためにそんな顔になるまで…」

イチとカナの戦の原因でもある、先ほど棟方が連れてきた真っ白い髪の女が冷気を身にまといながらイチの腕に絡む。

同時にイチの震えが大きくなる。


「大丈夫か…?寒そうじゃぞ」

「寒いって言うか、こ、凍えるんですけど…」

「きゃっ!!すみませんでした…私、生まれつき冷え性なので…」

なぜか、白髪の女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「冷え性の域、越えてるだろ…」

「イチ様!!暖めてくださいな~」

「ぐわぁ~!!」

女はイチに抱きついた。

イチはまるで氷のなかに体を突っ込んだような、痛みを覚える。


「あら、イチ様って…」

女がイチの体から離れ不思議そうにその身を眺めた。


ガラガラピシャ


「あっ!!おい!!」

カナが隙をついて扉を閉める。

慌ててイチが扉にすがるが鍵をかけられたようだ。


寒い思いをして頼まれたことをしただけなのに、何故、こんな仕打ちなのか…

やるせない気持ちになった。


「なんだってんだよ!!」

返答がないドアに向かってイチは叫ぶ。

「なにが?」


「!?」


気の抜けた声をあげた男が階段を上がってくる。

手にはなにか土産のようなものをぶら下げていた。

地獄に仏とはこういうことを言うのか。

イチは少しだけ村咲の登場が嬉しくなった。


「村さ…」

「まぁ!!素敵!!」

イチが話しかけるより早く女が村咲の元に駆け寄った。


「なっなんだ!?冷たっ!!」

女ははしゃぎながら村咲の腕に両手を絡めた。

イチは村咲に近づき肩に手をやる。


「主人に話すのが一番早いな。村咲、この女を預かってくれ、と、棟方さんから言伝てだ」

「あわわわ!わた、わたくしなどがそのようなご依頼を引き受けさせていただいても?」

「は??」

村咲は先ほどまでとは雰囲気が変わり、申し訳なさそうな表情に、頼りない瞳をイチに向けた。

豹変したムラサキに、イチはニヤリと微笑むと、言葉をつづける。


「ああ、断ればどうなることか…」

「ええええ??わ、わかりました!お引き受けいたしますう!」

イチに土下座し、地面に額を付ける村咲を、女は目を丸くして見下ろしていた。


「そういうことだ、よろしく頼んだぞ!」

勝ち誇ったようにイチは村咲の背中を叩くと、階段を下っていく。


「…はっ!」

我に返り顔を上げた村咲は、頭を抱えながら立ち上がった。

正面に立つ存在に気づきその姿を見ると、棟方が先ほど駆け抜けていったときに背負っていた女だと思い出す。


「やられた…なんかやな予感がするんですけど…って!!いっちゃん!?」

イチはすでにその場にはいなかった。


「あの…」

女が村咲に声をかける。

女というよりはまだ少女の面影を残し、明るく振る舞うその瞳はなぜだか影を感じさせる。

ひととは違うただならぬ気配が女からは漂っていた。


面倒を押し付けられた。

村咲は棟方の人槍といやらしい顔を思い浮かべる。


「で、君は?」

さっきから寒気が治まらないがとりあえず、名前を訊ねてみた。


「私、天華と申します。よく分からないんですが、気がついたらここに連れてこられて」

あのときとは想像もできないほど元気そうな天華に村咲は首をかしげる。


「貴方様は?」

村咲を見上げた天華の、色っぽさのある上目遣いに少しだけ見とれてしまう。


「…俺か、俺は村咲シオン。この街の妖怪退治をやってるものだ」

「妖怪退治…」

天華が村咲から一歩後ろへ下がり、村咲を上から下までマジマジと見る。

二人の間に無言の時間が流れた。


するとまた、階段を上がる音が響く。

その音で二人の緊張した空気が消えた。


「よう。村咲」

「しょうちゃん?」

「土産だ」

ばつが悪そうに姿を表した棟方が、ぶら下げた包みを持ち上げて二人の前に立った。


「なにそれ…」

「だ…団子だよ!」

村咲が信じられないような顔を向けた。


「さ、寒いと思ったら今夜は雪か…それより臭いんですけど。おっさん臭いよ。酒飲んできたな?」

「うるせ~!!黙って家に入れろ!」

先ほど想像したいやらしく意地悪な顔ではなく、申し訳なさそうで、弱々しい顔が目の前にあった。


村咲を牽制してきた棟方が手土産を持ってきたこと、その包みから、村咲は同じ団子屋の団子を二つも手にしてしまったことが可笑しくなった。

そして、ただ事ではないような気がした。


「…とりあえず、入る!?」

確かにこの寒さはなんとかなりそうにない。

村咲は二人を家に招き入れようと、玄関を開けようとしたが、鍵がかかっていたので甘い声でカナを呼んだ。

しばらくして鍵の開く音が聞こえ、小さな少女に迎えられた村咲はその中に入る。


「ど~ぞ」

村咲の声が中から聞こえた。

「わりぃな…」

棟方が天華に視線を送る。

天華は動けず、棟方を見ている余裕もなさそうに俯きその場に固まっていた。


「まあ…入れよ。ここの方が番屋よりはいくらか安全だと思うが…」

そう言いながら天華の肩を軽く叩く。


やっと天華は棟方に目をやった。


「あなたは…さきほどの?」

天華の中にうっすらと記憶が蘇り、その中に出会った時の棟方の驚きの顔と、しっかりと抱き止められた安心感があったことを思いだす。

そして棟方への警戒を解いたような表情を見せた。


「お前がなんなのかは聞かねぇが、オレらは敵じゃあねぇよ」

棟方が天華の手を引き、二人は奥でカナに騒ぎ立てられている村咲の家の中に入る。





とある御宿の窓際に腰かける男があった。


「そうかい…あいつ、逃げよったか」

その男は、妖艶な微笑みをうっすらと浮かべる。

そして、自分の腕の長さほどある煙管に口をつけ長い時間、その味を楽しみ、ゆっくりと口からピンク色の煙を吐き出した。


「まあ、ええわ、裏切り者は始末する。それが我らのやり方や」

凍てついた空気が入り込む窓から、外のぼんやりとした大江戸の景色を眺めると、海沿いの一角だけオレンジ色に明るく染まっていた。


「色のある街やな…」

「妖怪たちが好んで行きそうな街にゃ」

傍らにいた存在が静かに呟いた。

それは確実に人ではなく獣の姿をしている。


「確かに…」

「あの女、きっとあそこに逃げ込んだにゃ!だが、あそこはアイツがいる街にゃ。主人、どうするにゃ?」

「メス狐か…」

「そういえば、アレもあそこにいる様ですにゃ。やはり、一度行ってみるのがいいようだにゃ」

煙管を持ちながら外を眺める男は、妖しく口許を緩めただけで何もしゃべらない。

ただ、空気の流れだけで現状とこれからの展開を予想しているようにもみえる。


「実は、『天狗党』が動き出しているとの情報もありますにゃ…」

「ふん。力のない人間が、手を組んだようやな。まぁそんときはそんときや。全部潰してしまえばええ」

また、煙管に口をつけると長い時間をかけ吸い込む。


その吐き出す煙に景色が重なり、まるで燃えているかのように吉原の街が浮かび上がっていた。



ご覧いただきまして感謝いたします。

新たな登場人物。そして、カナが警戒する女の正体とは?

次回は…若干、本編から離れてしまう予感ありますが…

更新急ぎます!

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