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長い語りのその後に

やっとおいかけっこに終止符?カナ編最終話です。

別の家を探してすめばいい。

ここじゃなくたって、この広い海の果てに行ってもいい。

家族になってくれるものなんていくらでもいる。


大体あいつは怪しすぎる。


夜は妖怪退治に、昼間は腑抜け。

しかも部屋にはぬらりひょんや鵺まで飼っている。

そのくせ、根本でヘタレなど、自分が苦労するだけだ。


「次はどこへ行くかの…」


広い海の先か、遠い山の中か。

そう言えば、昔、山の中にあった家に憑いたことがあったが、そこの子供とはよく遊んだな。


あぁいう家をまた探そうか…


「ウチにくるんだろう?」


その声と同時に、目の前の大堀の門が軋む音が響く。

そして、江戸の大海はオレンジ色に染まりながら、その姿を表した。


「ふん、ぬらに聞かなかったのか?」

振り返ることもなくカナは沈み行く太陽を見つめる。


「あいつに貸しは作りたくない。まあ、布団はもうひとつ用意できるし、部屋もあるんだけどな…って、俺は何言ってんだ…まるで俺がお前に居て欲しいみたいな…別にそう言う意味じゃなくてだな〜」

村咲は頭をかきながらぶつぶつ呟き、カナの座るベンチの真後ろに立つ。

そして同じく門の外の景色を眺めた。


「昔な、とてもよい家族のもとに憑いたんじゃ。山の中とはいえ裕福に暮らし、子どもも兄と産まれたばかりの妹の二人。笑顔が絶えぬ、いい家じゃった」


小さな星が少しずつ光り出す。


「え…」

カナの昔話。

だが、村咲は何かを思い出すようにどこか一点を見つめる。


「…唯一わっちを見ることのできた息子が家のものから頭がおかしいと蔑まれ始めた。まあ、妖怪と話ができるなんてなかなかいないからの…そして、寺に入れられてしもうた…その息子の消息はそれ以上知らぬが、わっちはその家を去った…」

カナの膝に置かれた手が握られる。


「その後、その家は別のものが取り憑き、無くなっておったわ…貧乏神、疫病神…その地を離れなければ、誰か死神に命を奪われていただろうな…ひどいことをした…」

村咲がカナの脇に座って、煙管に火を付ける。


その煙は柔らかい風に乗って空に舞い上がった。


村咲はただ、カナの話だけを聞いて遠くを眺めている。

「息子は、どんな気持ちだろうか…帰る家がなくなった息子は幸せになれたのだろうか?」


村咲が紺色ににじみ始めた空へとゆっくり長く煙を吐き出す。


「さあな。幸せになったかは判んないが、その寺で妖怪たちと楽しく暮らしてんじゃないか?昔も、今も」


「…復讐するか?」

「どうだろうな…」


お互い言葉がなくなった。

村咲が急にカナを見る。

「そう言えば、カナの姿は、みんなが見ているが、なんでた?見えないんじゃないの?」


「ソレが不思議なんじゃ…わっちの力が弱まったのか?この地の神の力が強まり、…この地の人間がその力を持つようになったのか…興味深いな…」


「で、どうするんだよ?」



「きゃぁぁっ!!」

「!?」


その時、街の大通りの方から女たちの悲鳴が聴こえてきた。

村咲は、直ぐに声のした方へ走り出した。



「ちょいとお侍さん!!そのような物騒なもの振り回さないでおくんなまし」

刀を向けられた女は一歩も引かず男を睨み付けている。

その派手に着飾ってある着物から、この地の花魁であると思われた。


無理な注文をつけた客に店の女が断ったところを、逆上され、そこを庇うように女が立っている。



「加津様!!」

加津と呼ばれた花魁はさらに一歩前に出る。

「ここは女の園でありんす。男の勝手は許されるとこではございません。おとなしくお帰りください」


「何だと…」

黙って刀を向けていた男がカタカタと柄を震わせ怒りを露にし始める。


「貴様〜!わしをなめるなよ!!」

とうとう男が刀を振り上げた。

加津が目を瞑る。



「イタッ!!」

男の手元に何がが投げつけられた。

その衝撃で刀が地面に落ちる。

花柄の煙管が刀と並んで転がっていた。


「誰だ!?」

周りの女たちはそれを投げた人物に目を奪われる。


羽織った着物が風に揺れ、顔にかかる髪をかきあげる。


「冥土の土産に教えてやろう…我の名は!!」


「村咲さま〜」


「えっ?」

「村咲さまよ」

「えぇ〜」

「やっぱり来てくださったのね〜」

女たちが村咲に群がる。


「ちょっ!今のイイトコっ…」


どこから現れてきたのか、たくさんの女が集まり村咲が視界から消えてしまう。


「何なんだ…」

相手の姿が見えなくなり、男は困惑の表情を見せた。

「シオン様…」



「も〜僕に構わないでぇ〜ごめんなさい〜」

地面をはいずり、集団から抜け出た村咲は頭を抱え縮こまってしまった。

「ごめんなさいごめんなさい…」

女たちは小さくなった村咲を不思議な目で見つめた。


「村咲様?」


「かっかっかーこんなヘタレのどこがいいのだ!?まずはこいつから血祭りじゃ!!」

男は落ちた刀を拾い、その剣先を村咲に向け走り出す。


こうなったら村咲は身動きとれず固まるしかなかった。

女たちは慌ててその場を走り去り、残された村咲に目をやる。


「村咲!!」


その時、どこからか叫び声が聞こえ、なにかがキラリと光を湛えながら村咲の前に落ちてきた。


「ガラス玉?」


ポンッ


その小さなガラス玉が地面にぶつかり、その中から、真っ白い煙が大量に広がる。


「煙!?これは…でっ!!」



「忘れ物じゃ。あの腐れがっぱ、斬ってやれ!」


村咲の頭に固いものが投げつけられ、地面に重く横たわるソレを見る。


「カナ…?」

村咲の表情が変わった。


村咲はカナが運んできた、派手な刀を掴み立ち上がる。

そして、顔の前で、ゆっくりと鞘から抜き去る。

夜なのにその刀は怪しく光を発した。


その光に照らされた途端、村咲と対峙していた男の姿が変わる。


「何あれ!?」

「河童!?」


「貴様〜、よくも!」

血走った目で刀を振り回しながら、正体を表した河童は村咲に向かってきた。


「テメーじゃ俺に勝てねーよ!!」

刀を低く構え、全く動かず相手を迎える。


ほんの一瞬だった。

まるで三日月のような青い閃光が真横に流れる。


河童は刀を振り上げたまま、止まり、やがて手からその刀は落ちる。


そして、その姿は闇夜に消えてしまった。


「シオン様!!」


加津が村咲に駆け寄る。


「おう、無事か?」

「えぇ…」


「あれ?カナ?」


辺りを見回すとその姿はもうどこにもなかった。


「やっぱり行っちまったか…」

もう、村咲はその後ろを追いかけるのをやめた。





そして、村咲はそのまま夜の街を歩く。

また、『呑』に立ち寄り、軽く酒を飲む。

そしていつも通り、朝方に家に帰った。


「あ」


「遅かったではないか!わっちがついていないとダメなようじゃな…」


「カナ…」


そこには部屋の真ん中で正座しているカナの姿があった。

村咲はなんだか、嬉しいような困ったような、複雑な顔になる。


「この、着物の分…貴様のうちで働いてやるわ!ちゃんと生活出来るようにな」


カナが立ち上がり、ハルからもらった着物を村咲に見せびらかした。

刀と共に置き忘れてしまっていたらしい。


「あはは…一生無理」


「では、一生取り憑いてやる!!」


「『座敷わらし』くらいで俺の生活は変わらないさ。」


「どうだかな!ま、それだけではない…この地になにかが起こる気がしてな…」カナの表情が少し陰る。


「ふーん」

村咲は関心がない様子で窓の方を見た。


「はあ、騒がしくなるね…ぬえ…」

「ぴゅーい」


そこにはまた、ぬらりひょんとその膝元に丸まるぬえ…


「コラぬらりひょん!!勝手に上がるな!!」


「もう、家族みたいなもんだろ?この吉原のモノたちは…」

ぬらは飄々と呟く。


「まぁ…そうだな…」


朝もやが、また、夜の街を真っ白に包み込み朝の景色へと変えていく。


村咲は窓から、新しい一日の始まりを見るのが好きだった。


昇る朝日を見ながら村咲は微笑んだ。



第1章終了です!!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

次章からは巡察隊がどんどん出てくる予感!てか、出したいんです!

これからも宜しくお願いします!!

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