ナンパするなら、空気読め
ナンパは文化ですか?
キレる軟派男登場。て、そんなイメージ崩しちゃってよかったかな(´Д`)
吉原一大きな建造物にはこの地を取り仕切る総本部がある。
女たちはそれを『お城』と呼んでいた。
そこには幕府関係の会合に相席する上位の太夫と、数名の花魁、小間使いたちが暮らしている。
『お城』の最上階からは吉原の街が一望できる一室がある。
そこから窓の外を眺める一人の女がいた。
「壱葵、この街は変わったかね?」
「えぇ…」
部屋のふすまの前に、いつの間にかもう一人立っている。
壱葵と呼ばれた女は真っ黒な襟の大きく開かれた着物をタイトに着こなす。
美しい顔ではあるが花魁と言うには華がなく、まるで、壱葵の前にいる女の影のような存在だった。
壱葵が口を開く。
「千暁さまがこられてから、女たちは働くことが楽しいようです。顔が、以前とは違う気がします」
壱葵の抑揚のない喋りを黙って吉原の街を見下ろしながら聴く女。
伊勢千暁。
突然吉原に現れ、いつの間にかここのトップに立ち街を変革に導いた。
村咲の雇い主でもある。
「あっちの方はどうだい?」
「準備は整いつつあります。本当によろしいのですか?」
「そのために私はここに立ってるんだよ」
千暁もまた美しい顔立ちであり、真っ赤な着物に長く艶めく黒髪がその存在感を引き出している。
だが何故かその表情からは切なさのような、哀しみのような複雑な思いが滲み出ているようだった。
「村咲はどうするおつもりで?」
「そうだねぇ…」
その名を聞いた千暁は少しつり上がった目尻を下げる。
そして、先程までの厳しい顔つきから優しい面持ちになり、また吉原の街に目を落とすのだった。
「どこにいったのじゃ!!」鬼ごっこなど、久しくしていない上に妙に逃げ足の早い村咲をカナは見失っていた。
訪れたばかりで、正直右も左もわからない。
だがこの街の雰囲気は嫌いじゃなかった。
きょろきょろと辺りを見回せば、たくさんの店に並ぶ様々な商品と女たちの笑顔に目がいく。
「何かお困りですか?」
急に後ろから男が声をかけてきた。
真っ青の羽織袴に、腰元の刀。
前髪を後ろに引き上げ、切れ長の目の、村咲とは違ったコワモテ系の男が、顔に似合わず、ニコニコしながらカナを見つめている。
「なんじゃ貴様は?」
カナの冷たい一言にも笑顔は崩れない。
「私はこの吉原の警護をしている、『棟方正三』と申します。貴女のように可愛いお嬢さんが困っていたら、助けるのが当然ですよ。あ、ちなみに隊の中では一番偉いです」
「興味ない」
カナは付き合ってられないと、棟方に背を向けた。
「つれないなぁ」
棟方はその後をついてきた。
「だが、人を探しておる」棟方を見ないようにカナは呟いた。
「どういう方です?」
棟方が食いつく。
もしかしたら、村咲に行き着けるかもしれないとカナは振り向いた。
「髪が長くて…確か、村咲と言っておったな」
その名を出した途端棟方の表情は笑っているのか怒っているのか複雑なものとなる。
「お嬢さん、あの『ヘタレ』に何か用事が?」
「ヘタレ?」
「あんなやつヘタレ以外の何者でもないですよ!そんなヘタレより、どうですか?私とそこの茶屋で団子でも…」
「隊長!?」
棟方の引き連れていた隊員が呆れながら声をかけた。
「うるせーな!!」
棟方の表情が一変する。
機嫌が一気に悪くなった。
「斎藤さんにまた、怒られますよ!」
「イチか…あいつの機嫌損ねるのは、めんどくせーな…」
諦めたように頭をかくと、カナに向かってまた、笑顔の棟方になる。
「そう言うことなので、我々は街の警護に戻ります。私に会いたくなったら、大門横の番屋にお越しください」
そう言いながら、羽織を翻しカナに手を振った。
「あ、たぶんあのヘタレならあそこです…」
棟方は去り際につまらなそうに口を開く。
「どこじゃ?」
吉原の街は海の中にある。
大門の正反対側に位置する『大堀』からは上客がお忍びでやって来る。
その時だけ開門する堀からは大江戸の海が見渡せた。
今はまだ、昼間。
門は閉まっている。
大堀に面した広場のベンチにその男は横になって、晴れ渡る大空を見上げていた。
「見つけたぞ」
空にカナの顔が飛び出した。
「なんでわかった?」
特に驚く様子もなく、その視線はカナを通り越して空に向けられたままだった。
「ムナカタとか言う男が教えてくれた。お主は有名人じゃな」
「しょうちゃんか…」
村咲の口許が少し上がった。
「到底ヘタレには見えぬが…」
「ふっ…それもしょうちゃんが?」
「連呼しておったわ」
「男なんてみんなヘタレだろ?」
そう言うと村咲は横にしていた体を立て、ベンチに座る。
その横には派手な刀が立て掛けてあった。
「妖怪は嫌いか?」
「別に」
カナは村咲の横に座り、風に揺れる堀の水を眺める。
「ここからなら何もない世界へ飛び出せそうじゃな…」
カナが小さく呟いた。
「そうかもね」
「主は何で妖怪退治をしておるのじゃ?」
「しょうちゃん達と同じ。『護る』為かな?う〜ん違うかな?」
村咲は首を横に倒す。
「はっきりしないやつじゃの」
カナが呆れながら村咲を睨んだ。
「よく言われる…」
村咲は静かに笑うだけだった。
「村咲、お主はこの地で暮らしておるのじゃろ?わっち一人置いてはくれぬか?」
「…」
「ただでとは言わぬ」
そう言うと袖からあの巾着を取りだし、ガラス玉を一つ掴んだ。
「これでどうじゃ?」
そのガラス玉を地面に投げつけた。
バリンとガラスが割れる音と共に煙が舞い上がる。
「なんだ?」
「主に似合うと思うがな」
煙が引くとそこには白地に黒墨で昇り鯉の模様が描かれた着物が出てきた。
「思い玉といってな、いろんなものがあるぞ!どれも本物が具現化して出てくる!!」
「へぇ…」
「だが、出ないものもある…」
「なんだ?」
「ひとつは、家族じゃ。わっちには家族がおらん。だが人の家に憑く…」
そこまで言うとカナは口を慌てて塞いだ。
村咲は一度空を見上げると口をへの字に結び、すぐに開いた。
「…わかった、ついてきな。カナが耐えられるなら一緒に住んでやってもいい」
そう言うと村咲は立ち上がり、また、カナに背を向け歩き出した。
今度こそ見失わないように、その派手な後ろ姿について行った。
展開のあまりない話ですいませんm(__)m
次回は頑張ります!!




