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華となれ 3

「お城」への潜入捜査を決めたイチ。

一体どうなってしまうのでしょうか??主人公は出番があるのでしょうか?

「何してるんですか?棟方さん」

夜になり、番屋の入り口付近を行ったり来たりうろうろと怪しい棟方に、巡察から帰ってきた沖好司が声をかけた。


「べ~つ~に~」

一瞬ビクッとした棟方は好司の方を見ようとせず、変な声を出してはぐらかそうとしている。

その棟方の態度が気に入らなかった好司は、その襟をむんずとつかみ棟方を引き寄せた。


「なんなんです!?斬りますよ??」

「!?」

物騒な好司の言葉に青ざめた棟方だったが、意外にあっさりと今日の事と「お城」へ向かったイチの事を簡潔に話した。


「へぇ~あのイチがねぇ~よく女装なんて引き受けましたね」

「ん~まぁ……あれだ、アイツにもそう言う経験が必要なんだわ」

何かを考えながら大きくうなずく棟方。

あまりしっくりしない答えに好司は首をかしげる。

「どういう経験です??」

「はぁ?」

棟方の思考がああでもないこうでもないと上手い言い訳を探しているのが、その表情に見事に浮かんでいる。


「あ~潜入捜査のことですね?」

もう少しあたふたする棟方を見ていたかったが、それもめんどくさいと思った好司は適当な助け舟を自分から出した。

「そう!それ!」

棟方の大きく開かれた目から、焦りの色が消える。


「そんなことが心配で、こんなところをうろうろしていたんですか??」

「心配だろうが!?」

「過保護」

好司は呆れながら棟方に背を向け番屋へ入っていった。


「過保護……なぁ。そりゃそうなるだろ?」

好司の言葉に我に返った棟方は肩を落としながらその後へ続き中へ入っていった。




「まぁ!素敵ですよ!よく似合っておいでです」

小間使いの女が、華やかに彩られた目の前にいる存在へ歓喜の言葉を漏らした。


「似合う、というのもどうかと……」

褒められていやな気がしないのか、頬を赤らめ照れるのは、棟方と加津に言いくるめられ潜入捜査を決めた斎藤イチだった。


「着付けは上手に一人で出来るし、こんなにお似合いなのに、女性ではないなんてもったいないです!女性では……ないんですよね?」

似合い過ぎているのか、女の目が怪しんでいることを隠せずにイチの表情を覗っている。


「小柄なのは気にしているんです。あまり見ないでください」

女の目を見ながらイチは、ばつが悪そうに困った顔を向けた。


「あぁ、申し訳ありません」

女はそう言うとこれ以上は、余計な事は何も言うまいと口を結びながら、イチを奥の間へと案内した。


「まあまあ!イチさん!?こんなにお綺麗になるなんて!潜入なんてやめていっそこのままここで」

「加津さん」

奥の間には、加津が一人で待っていた。

装飾の煌びやかさとその芯から滲み出ている美しさ、この「お城」の象徴として凛としてそこに咲く儚い華。

どんな言葉を浴びせても、きっと言い尽くされた美しいという表現の中に埋もれてしまう。

そんな難しいことを考えてしまいながら、イチは加津に見入っていたことに気付いた。


「どうしましたか?」

普段街の中で見かける気さくな加津の姿とは違い、イチは少しの緊張を覚えた。


イチは自分の手のひらを見る。

血で真っ赤に染まっていたその手をぎゅっと握った。


そして思い知ったのだ。ここは世界が違うのだと。


「咲く季節や種類、香りは違えど、華は華」

「?」

いつの間にか加津はイチの目の前でそのこわばった表情を覗き込んでいる。


「あなたにはあなたの華があるということ」

加津に見つめられ動けないイチに、にっこりとほほ笑みその手を取った。


「この手にはあなたの華が咲いているはずよ?自信をもって」

まるでイチの心を知り、その傷を労わるかのように加津はイチの手を優しく撫でる。


「い、いや、おれ、わたし、は……」

イチは加津のその温かい手のぬくもりを感じながら深く息を吐いた。




「ん~~~」

場所が変わって「お城」の前の大通りにある行きつけの居酒屋『呑』へ向かうのは、村咲シオン。

めずらしく唸り声をあげながらどんよりとした表情で歩いている。


「どうしたのよ~シオンちゃんっ?」

そして、村咲の横にはその身体よりも一回り大きくもきれいに着飾っている呉服屋の亭主の治男……ハルが村咲とは逆に足取り軽く並んで歩いていた。


「いや、ハル?なんでいるの??」

ドストレートに真横の大男へ質問を投げかける怖いもの知らずの村咲。

ハルの表情が一瞬「今更?」とでも言いたげなものへと変わったが、そんな顔の変化など村咲は見ていない。


「やあねえ!!今さっきそこですれ違って!!物騒だからって送ってくれるんじゃなかったの??」

「は??おれが?それともハルが守ってくれるの???」

どうやら、ハルが勝手に思い込んでついてきてしまっているようだ。


「何で私がシオンちゃんを守るのよ!?あれ?なんだかその方がすてきよね??やだー!!す、好きな殿方を健気に守るか弱い乙女~」

「間に合ってます!」

一人で勝手に盛り上がっているハルを置き去りにすべく、村咲は突然猛ダッシュで走りだした。



まだ夜も浅い時間帯。

さすがの大通りとあって、まだまだ人通りは多くこの中に紛れてしまえば巻くことは可能だと踏んでの行動である。


「ん?」

すれ違う人間の中に違和感を覚えた村咲は思わず足を止めてしまった。

人とは違う気配を確かにこの付近に感じるのだ。


妖怪退治屋として「伊勢千暁」に雇われている村咲は確信はなくとも無視はできなかった。


しかし、あたりを見渡しても妖怪の姿など見当たらない。

人として姿を変え、気配も極力抑えているのだろう。


「つ~~~~っかまえた~!!!もうシオンちゃんったらぁ~」

息を切らし村咲の腕にしがみつくハルなどお構いなしに、村咲は真剣な眼差しで一人一人を見ている。


「どうしたの??シオンちゃん??」

村咲の様子がおかしいことに気付き、ハルも一緒になって辺りを見回してみる。

「あら?大江様じゃない」


「大江……」

ハルが何気なく見たところの人混みに紛れ、今朝会った「大江公時」の姿を確認した。

「知り合いなのか?」

「ええそうよ!お~い!きんちゃ~ん」

ハルは村咲の警戒心などお構いなしに大声で大江を呼んだ。


もちろんハルの声は通りに響き渡り大江はすぐにこちらに気付き、驚いた表情を浮かべたがすぐに笑顔になりゆっくりと歩いてきた。


「こんばんは、治男さん。いつもお世話になってます」

今朝と同じ落ち着いた物腰の柔らかい雰囲気で、にっこりとハルに挨拶をする大江。

「ええ!!今日はどうしたの?」

ハルがガッチリと掴んでいる腕の主、村咲に気付いた大江は少しだけ声を洩らし村咲にお辞儀をする。

村咲も様子をうかがいながら、大江に頭を下げた。


「ちょっと野暮用です」

明らかに、村咲へ発した言葉だった。


「そう!いいわね~!じゃ、シオンちゃん私たちも行きましょ?じゃ~ね!また来てね?」

「はい、是非またお世話になりたいと思っております。その時はよろしくお願いいたしますね」

ハルはそのまま村咲を引っ張り、歩きだした。

村咲は抵抗もなく何かを考えるような顔でハルに引きずられている。


大江もそのまま背を向け「お城」の方へ歩いて行ってしまった。


「以前店に反物を買いに来てくれて。それから何度か足を運んでくれてるのよ。お偉い方のお目付け役でここには会合とかでよく来るんですって」


「……やっぱり」

大江についてのハルの話など聞いていたのかさっぱりわからない様子であったが、村咲は何かを一人で納得して「お城」へ入っていく大江の背中を見つめていた。


お読みいただきありがとうございました。

なんとか村咲もくらいついております(笑)実は結構大切な話だったりして。

どうつながっていくのか、次話以降の更新をお待ちください。

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