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雪舞う街に 5

雪の降り積もった吉原の街。

そこでは、さまざまな思いが交錯しながら日常が紡がれていた。

天華の目的とは、棟方の思いとは…

前回とは変わって、シリアスムードが漂います。

どうぞご覧下さい。

「雪ではしゃいじゃって風邪ですか…お子様ですね…」

「うるせーぇ~くしゅん!!」

「バカですね…」

「テメ、コージ!遠藤さん、ちゃんと送ったんだろうな~っくしゅん!!」

「えぇ…」


あれから、こちらでは日が明けると共に遠藤は大江戸の本部へいったん戻り、何かあれば密偵を寄越すと言うこととなっていた。

薄着で雪に埋もれた棟方は、風邪をひいて朝帰りをしイチにバカにされ、好司には呆れられている状況である。

そしてイチだけを残し、好司は留まることなく去っていった。


「くそっ…」

二日酔いの頭痛に、風邪の症状が重なり意識も朦朧としてきた。

しかし、『雪女』の件が解決しない限り、ここ吉原も、安心はできない状況である。


もしかしたらここでの最後の仕事。


手は抜けなかった。

もちろん通常の市中見廻り、浪士の取り締まり、お偉い方の警護も手薄にはできない。


自分が倍動けばいい。

自分の事に周りを巻き込むわけにはいかない。

幸い誰も無理をする棟方を止めるものはなかった。

優しい言葉など掛ければ、気にしてんじゃねぇ!と言われるのがオチだと言うことは皆解っている。


「おい、イチ。見廻り表書き換えといた。しばらくはこれ、貼り出しとけ」

棟方はイチに紙を手渡す。

イチはそれを受けとると、内容に目を通した。

ほとんどの巡回人員に棟方の名前が記載されている。


「棟方さん…これ、あなた、いつ寝るんです?」

「あぁ?睡眠なんていつでもとれるだろう!?見廻り、倍にしねーと事が納まらねぇしな」

「しかし…」

「グダグダ言ってねーで早く行け!!」

「…はい」

体調不良で怒りの沸点が早くなっている棟方にイチは何も言えなくなり、棟方の部屋を出た。


そして、ふすまを閉めると、その場で立ち止まり、天井を見上げる。


「いつも自分ばっかり無茶して…どんだけ心配してると思ってるんだ…」

イチは小さく呟き、廊下を歩き出した。




「へーっくしゅん!!うぅ…寒気が悪寒が…俺はこのまま終わるのかぁ~」

言うまでもなく村咲も棟方と同じ状況であるが…こちらは環境が違った。


「大丈夫か!たまごがゆを作ってやろう!!」

「村咲様…お寒いのでしたら、添い寝して差し上げても…」

「なに!?添い寝じゃと?!村咲!わっちと天華どちらがよいか選べ!!」

「わ、私は善意ですわ!!カナさんはなんか企んでおいでですね!」

「そんなわけないだろうが!わっちは美女に変身してやろう!!選べ!!」


「却下ぁ…お願いだから黙っててくれぇ…」

村咲は布団にもぐり、痛む頭を押さえて低い声を出す。

カナと天華は肩をすくめて村咲の部屋を出ていった。


「私の色気を持ってしても落ちないなんて…何て方でしょう!!」

「あいつはヘタレだからな…おなごに触れないのじゃ」

「ヘタレ中のヘタレですね…」

「ヘタレの王様だな!!あははは」


「うるさーい!!全部聞こえてるわぁ!!どっか行けぇ~」

村咲の叫びに二人は驚き外に飛び出てしまった。

しばらく無言で見つめ合うと、天華が先に口を開く。


「あの…私、いきたいところがあるんですが…」

「おぬし、狙われておるのだろう?」

カナが天華をにらんだ。

しかし、天華は微笑みを崩さない。

微笑みと言うよりは無理をして笑顔を作り上げているようにも見える。


「一面雪世界。ここはもう私の世界です」

「そうか…わっちも家主に支える身、貴様を一人にするわけにはいかぬ。奴の代わりについていこう」

「頼もしいですわ」


カナはくるりと一回転すると、『座敷わらし』から街娘へ変身した。


天華は顔色ひとつ変えず拍手する。


「その能力羨ましいです」

二人は揃って街へと歩き出した。




「斎藤どの」

見廻り当番のイチと数名が白い息を吐きながら街の中を歩いている。

そのうちの一人がイチに声をかけた。


上の空で雪の上をツカツカとただ歩くイチはその声で我に返った。


「なんだ?」

「いや、棟方さんの噂。斎藤どのなら知っているかと…」


「噂?」

「昨夜遠藤総隊長が訪れたのは、棟方さんを本部へ戻す話をしに来たと、隊員たちの間では噂になっております。棟方さんは戻られてしまうのでしょうか?」


「…棟方さんが?」

好司から様子がおかしいことは聞いていたが、酒に呑まれてまたバカなことを言ったのだろうと気にはしていなかった。


「あの人のことだ、何かあればきっと我々に話してくれるだろう。憶測で話をするのはよそう」

隊員の一人を静かに戒めると真新しく積もる雪の上をまた歩き出した。

だが、その足はすぐに止まり、目の前の光景にイチの周りの空気が一変する。



「斎藤どの…あれは…」

「本当かどうかわからないことより、目の前の事実を確認せねばならなようだな」

イチたちの目に映っていたのは、6人の帯刀している浪士だった。

何かの会合を済ませ、店から出てきたところを鉢合わせてしまったようだ。


「失礼。見たところ武家のようだが、いかようでこの吉原に?」

「!」

妖しい輩にもひるまず真正面からイチは静かに問いかける。

明らかに数人から、戸惑いが見られた。


「巡察か?ご苦労なことで…」

一番前に立つ一人が刀を抜きイチにその切っ先を向ける。

続いて他の浪士たちも刀を抜いた。


「貴様ら!!やはり政府に謀反を企てる不逞浪士か!!」

イチと同行している三人の隊員が刀を抜き構える。


「何用だと、聞いている」

一瞬にして緊迫する空気のなかでイチだけは、刀に手をおくものの抜くことはなく、冷静に話を続けた。


「刀も抜けんガキに話すことはねえええ!」

目の前の男がイチに向かって刀を振り上げる。


「ガキだと…」

その瞬間、イチは小さく体を屈めると、指で刀の鯉口を押し上げた。

銀色に光る刀がその輝きを放つと、一筋の閃光が走り、その後すぐに刀は鞘に治まる。


「何だ、この、ガキ…」

イチに刀を向けた男は腹から血を撒き散らしてその場に倒れた。

真っ白な雪が鮮血に染まる。


事は一瞬、人が瞬きするほどの時間だった。


「ガキじゃない…お前ら、覚悟は出来ているのだろうな!?」

イチは体に血を浴び、狂気を帯びた瞳を向ける。


「居合いか…」

「あんな足場の悪いとこで…あいつ…ただ者じゃねぇ…」

イチのたった一振りに浪士たちは怯みを見せるが、後には引けず刀を強く握り直す。


「ふざけるなー!」

やけになった浪士たちは刀を振り上げながら、一気にイチの元へと向かってきた。


「無駄だ!!」

決して人の目に留まることのない刀の軌道が、まるで流れる川のようにいくつも生まれる。

そして、イチの周りの雪景色すべてが真っ赤な血の色に変わった。


イチは自分の刀を振り、刀に付いた血を落とす。


「全員、縛って連れていけ」

地面に浪士たちがのたうち回っている。

イチの斬った浪士は全員生きていた。

しかし、傷は深く逃げることはできない。


周りで状況を見ていた街の住人はイチの圧倒的な力に息をのみ静まり返っていた。


「さすがイチどの」

不逞浪士の取り締まりに手柄をたて喜ぶ隊員をよそに、イチは自分の手を見ながら、口を結ぶ。


「イチさん!?」

騒ぎで集まる人の中から聞き覚えのある声がイチを呼び止めた。

それは、天華とカナだった。


「君たちは…」

「何しとるんじゃ?…って真っ赤じゃないか~」

天華の横に居た華やかな着物に身を包んだカナがイチの全身を見ると顔を真っ青にして後ろに飛び退いた。


「あ…」

イチは自分の体を見る。

生かしたとはいえ人を斬り、その返り血で着物も顔も真っ赤である。

目の前の二人の華やかな女たちとは生きる世界が違う様相だった。


そう思ったとき、頬に何かが当たる。


「?」

「こんなにして、かわいい顔が台無し…」

天華がハンカチでイチの頬の血を拭う。


ヒンヤリとしていた。


だが、なぜだか、とても温かいものをイチは感じた。

そして、自分の手をまた見つめ、その拳をぎゅっとにぎる。


「ありがとう…」

イチはそう言うといっそう哀しい目を地面に向けた。



一体何か月ぶりの更新でしょうか…

更新が遅くて本当に申し訳ありません。

そしてお読みいただき、ありがとうございます。

今回はイチにスポットライトが当たってます。

この人もちょっとまだ謎があって、それが解明するかといえばそうではなく…

モヤモヤしたまま進行しちゃいます!

次回はだんだん真相が明らかになっていく??更新をお待ちください!

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