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雪舞う街に 4

大江戸で起こる事件、同時に現れた天華。

その天華を引き取った村咲たちの朝の光景は、妖しく近づく不穏な影など感じさせないような、とても賑やかなものだった…

今回はちょっと楽しげな話となっています。

どうぞご覧下さい!

明るい日差しが村咲の家の窓にキラキラと差し込む朝。

カナの視線が、にこにこ顔で村咲の横に座り美味しそうに朝食を食べる天華へギラギラと鋭く向けられていた。


「村咲様!!お料理お上手なんですね!!」

「オレは、食事はこだわるよ。ここで食べるようになってからだけど…」

カナの働きで人並みの生活を送る家具が揃い、村咲も得意の料理を振る舞うことが出来る環境になった様子。

まるで夫婦のように寄り添いながら食事を摂る二人にカナは無言で圧力をかける。

村咲の手が先程から震えているのはカナの威圧からか、天華の相変わらずのひんやりとした体がすぐ近くにあるからかは定かではないが、女性に囲まれて楽しいはずの食事の時間が息苦しく感じているのは確かだった。


「なんじゃこりゃー!!」

村咲の後ろで棟方が叫び、飛び起きた。

全身を写す鏡の前で棟方は怒りに震える。


「起きた?」

「ぶわはははっ!!」

村咲がニヤニヤしながら振り向き、カナは棟方の姿を指差して大爆笑している。


昨夜はすでに酒が回り村咲の家に入るなり、安心したのか眠ってしまった棟方。

普段の腹いせのつもりかここぞとばかりに、その顔面に墨で字を書き目を書き、髪を四方に結い止め…

挙げ句、服まで脱がされ身体中にいたずら書きをされてしまったのだ。


「てめーら…」

頭に血が上り爆発寸前だったが…そんな元気はなかった。

着物を正し、結われた髪をほどく。


「頭イテェ…」

「どんだけのんだの?…なんかあった!?」

「うるせぇ」

頭を抱えしばらく動けなくなる棟方に村咲が声をかける。


「ま、まずはこっちに来て一緒にお食事でも?」

そういえばいい匂いがしていたことに今更ながら気付き食卓を見つめた。


「お、おぉ…」

棟方がカナの脇に座り、珍しくテーブルは人で囲まれる。


「はい、どうぞ…」

天華が棟方に味噌汁の入った椀を手渡した。

「すまん…」

棟方がぎこちない動作で受けとり、天華の方をチラッと見る。

天華と目が合った。

お互い顔を真っ赤にして、下を向いてしまう。


「なんだ棟方は天華にホの字か?」

二人の様子をにやにやとカナが見つめながら茶化した。

「んなっ!!何言ってやがんだ!!頂くぞ!!」

「どーぞ」

慌てて目の前の食事をかきこむ棟方を、村咲は見る。


そして顔を伏せた。


「ぷーっ!!ばはははっ!!もーだめっ!!何それなんで額に正の字書いてんの?なんで、そんな髭なの?もみ上げもクルンてなってるし~」

机をバシバシ叩きながら腹を抱え、足をじたばたさせながら村咲は堪えていたものを全てはきだす。


「鼻毛~出てる~あっ!!染み込んでるわぁ~書いたものだからね!!書かれちゃったからね!!いい加減にしろよ~ひーっひひひ」

カナも調子にのって棟方の顔面に書かれた落書きを指差し罵る。


棟方は動きを止め、二人の異変をしばらく見つめていた。

だが眉間のシワが次第に濃くなっていく。


「てめーらー!!」

低い声をだし、棟方は勢いよく立ち上がると刀を取り上げ、村咲の顔の前に突きつける。


「たたっ斬ってやる!!」

「たんまたんま~」

涙を流しながら、刀を振り回す棟方から村咲は逃げだした。

朝からドタバタ騒がしい村咲邸。


すると、外から階段をドカドカ駆け上がってくる豪音が聞こえてきた。

その音は玄関で止まり扉が勢いよく開かれる。

突然飛び込んできた大きな影が日差しを消し去っていた。


「うるっさいわよ~!!」

その巨体から出される、全身全霊を込めた叫び声に屋内の全ての家具が浮かび上がり、その目前で揉み合う村咲と棟方の動きは止まり、カナはタンスの影に隠れ、天華は座ったまま肩をすぼめる。


「…ハ、ハル…?」

棟方に乗っかられている村咲が顔をひきつらせながら、頭上のハルを見上げる。

村咲邸は呉服屋の二階にあり、その呉服屋の店主が、今目の前で怒りを露わにするハルだ。

棟方も村咲の襟を引っ張りながらゆっくりとその体を見上げた。


「な、なんだこのデカイおと…」

「男じゃないわよぉ…」

ハルは怒りを込めた目でぎろりと棟方をにらみつける。

そして、村咲に目をやった。

ここは、例え村咲であろうとも、ハルの安眠を妨害した罪は償ってもらわなければならないと心を鬼にする。

だが、そのはだける胸元をじっと見つめると、動きが止まってしまった。


「きゅ~ん!」

「うがっ!!」

ハルが突然、乙女声をあげたかと思うと、上にいた棟方を平手で払いのけ、村咲の前に座り込んだ。

棟方はそのまま壁に激突。

村咲は上半身を立ち上がらせると目の前のハルから素早く後ずさる。


「シオンちゃん…その姿…激萌え(抱き締めたい)」

「え」

ハルが村咲に飛びかかった。

村咲はその攻撃を、素早くかわすと慌てて立ち上がり、言葉にならない叫びをあげながら家の外に逃げ去って行った。


「あ~ん!シオンちゃ~ん!」

ハルもシオンの後を追って出ていってしまう。

二人がいなくなり、台風が去った跡のように妙な静けさだけがその場に残された。

かのように思われたが…


「であぁぁ~」

ドンガラガッシャーンスボッ!!

「きゃーシオンちゃん!!」

その音に驚いたカナと天華は外に出た。


冷たい風が二人のほほを打つ。


「わぁ!!」

「雪ですね!!」

喧騒の外側はまるで別の世界だった。


街中が白銀の雪景色。

カナも天華も足を止め吉原の街を見渡す。

昨夜遅くから降ったらしく吉原の街を真っ白に染め上げるほど積もっていた。


階段下を覗くと、雪のなかに埋もれて動けなくなる村咲の足と、それを引っ張り出すハルがいた。

階段で足を滑らせ、落下したのだろう。

はっきり言って滑稽な姿、この雪景色には見合わない光景だった。


「ふふっ」

「?」

突然、天華が笑い出す。

カナが眉をひそめるが、そんなことお構いなしに楽しそうに笑っていた。


「何が可笑しいのじゃ?」

「何ででしょう?解らないけど、楽しくて…こんな気持ち初めて…」

「…ぬし、何しにきたのじゃ?」

カナは真っ白にキラキラ輝く吉原の景色に目をやりながら天華に訊ねた。


「…」

天華はにっこりと微笑んだままなにも言わない。


「『犬神』の手先か…?」

カナは静かにその名を出した。

天華から微かに反応が伺える。

そして、その口が開かれた。


「…逆です。『座敷わらし』さんこそなぜこんなところに?」

「ふん。『座敷わらし』が家に憑いていてはいけないのか?」

「人間の…人の暮らしに憧れます。私たちはなぜ『何か』から逃げなければいけないのでしょうか?」

「…」

カナが口を開きかけたとき、下からハルの叫び声が聞こえてきた。


「ちょっとあんたたち!おしゃべりしてないで、シオンちゃん引っ張り出すのを手伝いなさいよ!!」

「そんなに深いのか?今助けにいくぞ!村咲!待っておれ!!」

カナはすぐに階段を駆け降りていく。


「だぁぁぁ~!」

だが、雪に足をとられたカナは階段を直滑降に滑って行き、村咲の脇に突き刺さった。

雪の中から出ている足が四本になる。


「あんたまで!!バカじゃないの?」

階下でまたもハルの叫び声が響いた。


「ったく…雪ではしゃいじゃってお子様だな…」

棟方がハルにぶたれた頭を押さえながらふらふらと天華の横に立つ。


「うぅ、さぶっ…」

「大丈夫ですか?あの…昨夜はお助けいただいてありがとうございました…」

天華は棟方に向き直ると、深く頭を下げた。

「う…あんなのは、当たり前だ!!」

思わぬ天華からの言葉に棟方の顔がまた赤く染まる。


「たく、しょうがねぇ…俺が手を貸してやるか…」

そんなこと言われたこともなく、恥ずかしくなった棟方はぎこちなく体を動かし、逃げるように階段を降り始めた。


「あだぁぁぁ~!!」

そして棟方の悲鳴が遠くなり、村咲とカナの横に消える。

説明するのを省くが、足は六本になった。


「なんなの!?バカなのあんたたち!?」

下でハルが呆れ返って頭を抱えている。


天華はしばらくその光景に笑みを浮かべ見入っていたが、そのまま視線を吉原の街並みへ向け、そして、大江戸の方を見つめる。

その瞳の中には希望というよりは何かを懸念する落ち着かないような光が宿っていた。

お読みいただいてありがとうございました。

楽しい話を書くとこちらまで楽しい気分になります。

なんというか休憩回だったような…

次回、ちゃんと本筋に戻り、話は進んでいきます!

更新をお待ちいただけたら幸いです。

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