とりあえずオイシイトコロを持っていってみる
初投稿…変な表現で読みずらかったらごめんなさい。間違いばかりだったらごめんなさい。
「貴様!!鬼か!!」
月が緩いカーブを描く夜。
高い塀に囲われたこの吉原桃源郷の大門を、一見して人と思われる男が入ってきた。
しかし、三人組の帯刀する男たちに囲まれている。
よく見れば、その男の額には二本の突起があり、瞳は真っ赤に染まっていた。
「よくもまあ、シレッと大門から入ってこれましたね」
高い位置に髪を結わき、まだ少年の面影を残す男が冷たい目線を送る。
「なめてんだろ…」
引き留めた男のうちリーダーと思われる男が、機嫌悪そうな目付きで呆れながら少年に視線を送った。
「ぷ、棟方さんをなめるなんて、わかってますね」
「あぁ?なめられてんのはコージ、お前だろうが!」
棟方と呼ばれた男は、生意気な顔を向けるコージを睨み付けた。
「言い合っている場合ですか?『あいつ』、呼びますか?」
小柄だが鋭い眼光を放つその一人が面倒くさそうに二人に問いかける。
「それがいい!イチ、お願いします」
「え?何で…」
イチは納得がいかない表情でコージを見た。
「そうだな、俺らが残るのとどっちが時間を稼げると思う?」
棟方はイチを見ることなく言い放つ。
「やってみないとわからない」
ムッとした表情のイチは刀に手をかけ直し、引く気がないといった素振りでその場に留まる。
「ったく…頑固な奴だな」
「しょーがない!僕がいきますか」
コージが話に入る。何故か少し楽しそうである。
「おいコージ!お前は居残り組だろ」
コージと呼ばれた男はその言葉を聞くなりさらにニヤッと笑った。
「そうですか…じゃあ、ここは棟方さんがいくしかないですね」
その言葉にイチも続く。
「満場一致。いってらっしゃいませ〜」
コージとイチは棟方に向かって大きく手を振る。
「んだとっ!てめ〜ら!そこへ直れ!!」
額に血管を浮かび上がらせた棟方は迷わず刀を抜き、二人に向かって吠えた。
「オ前ラハ何ナンダ!」
鬼と呼ばれた男が、忘れられていたのが気に入らなかったのか、背後に黒い妖気を浮かばせながら三人に言い寄った。
よく待っていてくれたものだ。
「本気デ鬼ト殺リアウキカ?」
「あん?やっぱり鬼じゃねーか!!」
棟方の血管が切れた音がした。
素早い動きで刀を抜き、切っ先を鬼へと向け払いに入った。
「あっ!!ズルい!」
先越された二人が声を揃えて叫ぶ。
棟方の一振りで鬼の腹に斬撃の痕が浮かび真っ赤な血が一斉に吹き出した。
「やっちゃいましたね…」
コージが頭を押さえ、静かに呟いた。
だがやはりどこか楽しそうな表情は変わらない。
その瞬間鬼が天にも届く声で咆哮した。
三人は一瞬身をすくめる。
色付き始めた紅葉の葉が宙に舞い散った。
最後の力だったのか、激しく血を撒き散らした鬼はそのまま脇の堀のなかに落ちた。
そして、静まり返る街の中からいくつもの黒い影が現れる。
「2、3、4体か…」
「だから言ったんですよ。棟方さんがいくのがベストだって」
コージの言葉にイチは無言で額に手を当てながらため息をつく。
「棟方さんがこれほどおバカさんだったとは…」
コージが自分の刀のはばきを外し鯉口を切る。
しかしその表情は待ちわびた瞬間を味わう獣のように冷たく煌めく。
「口を慎め、棟方さんはおバカさんじゃなく、限りなくお茶目なのだ」
イチはまだ、柄に手をかけたまま動かない。
まるであちらから仕掛けてくるのを待っているようだ。
「おい…どっちもバカにしてんじゃねーか!!いい加減にしやがれ!」
棟方とコージの刀が月闇に光る。
だが三人はあっという間に四体の人間の姿をした鬼に囲まれた。
なん十本もの指が鋭い爪を伸ばし、ゆっくりと間合いをつめてくる。
「よし、やるか…」
三人は静かに刀を構えた。
その時、微かに煙草の匂いが鼻の前を通った。
「ち、…あいつ、どこで嗅ぎ付けたんだか」
棟方が呆れながら、紫煙の揺れる方を見た。
そこには派手な羽織を肩にかけた一人の長身の男がゆらりと煙管から煙を燻らせ立っていた。
緩く束ねられた長い髪に、きれいな輪郭が月の光に照らされ冷たく浮かび上がる。
「全く騒がしい夜だ」
余裕の佇まいでゆっくりとこちらへ歩く男からは色気が漂い、その瞳には狂気が浮かんでいた。
「何ダ、貴様」
独特の雰囲気を持つ男を鬼は奇妙な目で見る。
その場の空気が変わり全ての視線がその男に集まった。
男の目がキラリと光る。
「よし、冥土の土産に名乗ってやろう、村咲シオン!参る!!」
村咲シオンと名乗った男は満足そうに片手を挙げている。
「村咲…」
イチが声をかけた。村咲は口から煙を吐きながら微笑んだ。
「楽しそうなことしてんじゃないか」
「楽しくない!早くなんとかしてくれ」
イチが苛立ちながら村咲を見る。
村咲はまだまだ余裕の表情を崩さず三人と鬼たちを見回す。
その表情からは恐怖を全く感じさせなかった。
「いっちゃんの為なら口うるさい威張りん坊を助けてあげてもいいかな」
村咲の手にはいつのまにか、派手な装飾を施した長い刀が握られていた。
「おい、村咲!!口うるさい威張りん坊とは誰の事だ!?」
「いっちょ揉んでやるか!!」
「てめぇ!無視か!!」
村咲の刀が月光を反射するように輝くと、軽い足取りで走り出す。
長い髪が大きくなびいた。
スピードは棟方の遥か上を行き、あっという間に三人を囲む全ての鬼の背中を通過する。
光が複数の弧を描き、流れる川のような光景がそこにあった。
その後には激しく血を吹き出しながら鬼が次々と倒れていく。
先ほどと違うのは、そのあとの鬼たちが黒い煙となり跡形もなく消え去ってしまったということ。
「全く、お茶目な上司を持つと下が苦労するね〜」
全ての黒い存在が消滅する。
そして、何事もなかったように村咲は刀を仕舞い、三人の前でまた煙管に口をつけた。
その瞳は少しだけ柔らかいものと変わる。
「村咲!てめぇいつから見てやがった!?」
棟方が怒りを抑えきれず村咲の前に立ち罵倒する。
「あ、ここにも鬼が!!」
村咲は棟方に向かって鞘ごと刀を振り下ろした。
棟方はそれを片手でつかむ。鞘を握る手に力が込められた。
「この野郎…」
棟方から真っ黒い妖気が浮かんだようだった。
「落ち着いて!!」
刀を抜き村咲に斬りかかろうとする棟方をイチは後ろから羽交い締めにして引き留めるが、棟方の怒りはおさまらなかった。
「短気は損気。あんまり血管浮き出してると早死にするぞ」
一人取り乱す棟方を嘲笑いながら、村咲は棟方の鼻に指を突き出し微笑んだ。
そして、くるりと向きを変えると三人の前からゆっくりとその派手な姿は去っていく。
静かに浮かぶ月が、その姿を見送るように輝やいていた。
残された三人。
「村咲〜!一瞬で全て持っていきやがって!」
「主役ですよね?登場時間少なくないですか?」
「あっさりといいところを持っていくのがアイツだ」
「ていうか、棟方さんがおバカさんなトコしか僕ら印象にないですね…」
「これからに期待しよう」
コージとイチの会話に、眉間のシワを濃くした棟方が刀を抜き斬りかかった。二人は別方向へ散っていく。
「あいつら、何言ってんだ!?」
続きは…いつだ…?