選択肢
熊谷はため息をついていた。
「どうされたんです?お疲れですね、熊谷先生」
そんな熊谷を神村は手にしていたコーヒーの入ったカップを熊谷に差し出し、労った。
「ええ、まあ。先日来られた患者さんのカルテを見ていたんですが、どうやってカウンセリングを進めていけばいいのかなと悩んでまして」
「そうなんですか」
「やはり目に見えない傷を扱う仕事ですからね。気を使いますよ。神村先生だって同じでしょう?」
「いえ、私はそれほど・・・」
「それってやっぱり『見える』からですか?患者さんの守護霊から情報を聞きだしてっみたいな?」
「当たらずとも遠からずと言ったところです」
「ずるいなぁ、神村先生は」
熊谷は凝り固まった体をごきごき言わせながら、文句を垂れる。
「そうでもないですよぉ。私から言わせれば、熊谷先生の方が問題あるんですって」
「私が、ですか?」
「そう。熊谷先生は何もかも背負い込み過ぎなんですよ。カウンセリングするって言ってもその患者さんの人生全部フォローできる訳ないじゃないですか」
「まあ、それはそうですが」
「例えば、骨が折れていたらボルトで固定したり、ワイヤーで固定したりした後、骨がくっつくのを待つでしょ?それと同じ事ですよ。心に深い傷が出来たら、繕ってあげる。心の芯が折れたなら、直りやすいように支えてあげる。あとは患者さんの自己治癒力に任せるしかないですよ」
「精神心的な自己治癒力ですか・・・」
「熊谷先生はもっと患者さん達を信頼していいのだと思いますよ」
熊谷は神村の言葉に自分を省みる。
頭を抱えて、うんうん唸ってみるが、どうにも腑に落ちない。
「でも、そう簡単にトラウマは消えたりはしないでしょう?精神的傷を肉体の傷と同じように考えていいものなんですかねぇ?」
「さあ?どうなんでしょうね?少なくとも私は同じ様に思っているので、患者をサポートするというスタンスを基本的には取っていますけど」
逆に聞き返されて熊谷は困ってしまう。
結局悩んでも熊谷の中には答えは生まれなかった。
「難しいですね。人の心ってのは」
そして、熊谷は
A、ちょうど良く冷めたコーヒーを飲んだ。
B、カルテにまた視線を戻した