第一章 白狼に育てられた少年(7) 復讐
「引っ込んでろ。」
凄む言葉を聞いてルードの眼がギラッと光った。
この男が・・・狼の誇りを傷つけた男に対し憎しみが走った。
「お前・・」
甲高いが男以上に辺りを振るわす声がルードの喉を鳴らした。
立ち上がる男にルードの拳が飛ぶ。
その硬さは男の顎の骨を砕いた。
口から血を垂らした男がのたうち回り、辺りには折れた歯が散らばった。
もう一度・・今度は足が腹にめり込んだ。内蔵を破壊された男の口からどす黒い血が迸り出る。
その向こうで女が震え、凄まじい物音に驚いた人々が路地裏を遠巻きにした。
倒れ伏した自分よりも遥かに大きな男の両足を持ち、ルードはその躰を振り回し、建物の壁に叩きつけた。
その勢いにパックリと男の頭が割れ、脳漿が飛び散った。
騒ぎを聞きつけ町の治安を護る兵士達が刺す又を持ってルードを取り囲んだ。
ルードはそれには逆らわなかった。
捕らえられたルードは囚われた牢の鉄格子の窓から外を見ていた。
遠く城壁の上に白い影が見える。
「母さん・・・」
ルードは口の中でそう呟いた。
助けられた女の証言もあったが、人一人殴り殺したルードは無罪放免とは行かなかった。
上半身、上着も下着も取り払われ、子供とは思えないほど発達した背中の筋肉を晒し、そこに十数回の鞭を受けた。
その上、肩に二本の筋をかたどった焼きごてが押し当てられた。
苦痛に呻くこともなくルードは甘んじてそれらを受けた。
ルードは見世物興行の親方の元に返された。が、興行の英雄を殴り殺された親方はルードを邪視した。
ルードが屈辱と感じる寸劇を次々と考え、ルードを悪の英雄とした。
それから興行地を代えるたびにルードの眼には白い狼が見えた。が、その接触はなかった。
あれ以降ルードは三人の人間を殴り殺した。
一人は盗みを働き、一人は女を拐かし、一人は強請を働いていた。それは全て興行の人員だった。
その度にルードの肩の火傷の痕は増えていった。
遂に興行の親方が業を煮やし、ルードは剣闘士として売られることになった。
別れの朝ピグマイオイの男はルードに商売用のナイフを一本差し出した。
「生き残れよ。」
ルードはそのナイフを初めて履いたブーツというものの横に突き刺した。




