第一章 白狼に育てられた少年(6) 女王アファリ(2)
その日は小屋で一泊と決まった。
「あの結界は・・」
「私です。
みんなにゆっくり休んで貰おうと思って。」
ローコッドの声にアファリが応えた。
「いつからそんな魔力を。」
その凄まじい成長に同じ魔道士であるローコッドでさえ舌を巻く。
さあ・・と言ってアファリは悪戯っぽく首を傾げた。
デラ、エレナ、イージュの三人は女王アファリのそんな表情を初めて見て戸惑った。
次の女王候補がある程度の歳に育つまで現女王は闘いの場に出てはならない。それがアシュラ族の掟であったはず。
それを息抜きにと・・メアリが後押しをした。
それ程アファリの権能は群を抜いていた。
先に進んでも出てくる魔物は低級な者ばかり、それらをマルスとアレクが主に相手をする。
歯ごたえがないわね。と、アファリは笑った。
が、さすがに堂が近づくと魔物の階位が上がってきた。
「子供達は後ろに。」
シーナが声を掛け先頭に立つ。その姿にイーヴルが群がってくる。このクラスになるとエレナの権能では手に負えなくなり、力比べの必要があるイージュの鎖鎌も危険になった。魔法は通じても特殊な武器を持たないアファリも後ろに下げた。
ディアス、シーナ、デラが先に立ちそれをローコッドとアファリが魔法で援護する。
討ち漏らしたイーヴルがアファリに迫り、女王を護る為エレナがその前に立ちはだかる。
イーヴルの鋭い爪が伸びるのを盾で受けたはずだった。がその爪はエレナの盾を貫き、彼女の腹部に突き刺さった。
アファリはすぐにエレナを抱きかかえた。が、既に虫の息。そこにイーヴルの爪が伸びる。それをアファリは自分の腕で弾いた。
「あなた達・・・許さない。」
アファリの眼が爛と輝き、イーヴル達が粉々に吹き飛んだ。
アファリの眼は異様な光を帯びている。
彼女が一歩進むとその眼の力が及ぶ先、魔物が次々と崩れ、塵へと変わっていく。
ローコッドがそれを必死の力で抱き留める。
「力が暴走している・・一旦、退き上げを・・・」
その声に応じディアスが退き上げを命じ、アファリの腹に当て身をいれた。
小屋まで帰り、もう一度態勢を整えることとなる。
「明日もう一度・・・」
ディアスは悲痛な声を上げた。
「エレナの剣を・・」
気がついたアファリが死んだ者の剣を所望した。
「敵はきっと・・・」
唇を噛み締めるアファリの眼から大粒の涙が零れた。
早朝から動きが始まった。先頭を行くのはディアスとシーナ、アファリはローコッドがどうにか抑えていた。
昨日と同じ様な場所でまたイーヴルが現れる。
「こいつら・・・」
アファリの眼が憎しみにギラギラと光る。
“抑えなさい。”
そのアファリの頭にメアリの声が響く。
“それも女王としての資質です。
これからも貴女はたくさんの死を見ます。
それに慣れるのではない、耐えるのです。
それが女王たる者の努めです。”
アファリはその声に従い、必死に高ぶる感情を抑えた。
イーヴル達は子供達二人の力も借りて斃し尽くした。残るはアミー。その魔王は山のお堂にいる。
堂の近くで現れたのは悪魔シャイターン。その姿に向けアファリが剣を振る。
風が空気を切り裂く。切り裂かれた空気の欠片が辺り構わず切り裂く。
“怒るのは構いません。ですが憎んではいけない。
憎む心を悪魔に利用されます。”
またもアファリの頭にメアリの声が響く。
憎んでは・・だが憎まずにはいられない。
「止めろーっ」
マルスがアファリの身体に飛びついた。
それを撥ね除ける。
大きな音を立てマルスが木の幹に叩きつけられた。
私は・・・その音がアファリに理性を取り戻させる。
“そうです・・心を穏やかに・・・
憎しみに心を奪われれば大事な者達まで傷つける。”
頭の中に聞こえるメアリの声が細くなっていく。
“こ・・これは・・貴女の修行・・・純粋な貴女がどこまでこの試練に・・耐えられるか・・・・”
それっきりメアリの声はアファリの頭の中に聞こえなくなった。
それが何を意味するのか・・アファリは泣いた。その零す涙と供に憎しみを吹き飛ばした。
目の前に見えるのはエレナを殺した憎き魔物・・ではなく、人を絶望に陥れる斃すべき悪魔。
再びアファリは剣を振った。その斬るものはさっきまでとは違い過たず悪魔シャイターン。
「アミーは・・」
静かに声を発する。
堂の中、無数の魔物の気配がする。その中にひときわ強い邪気。
「アミー・・・」
アファリの声が凄味を帯びる。
「アファリ。」
それをディアスが制する。
「今だけです。」
アファリの身体から青白い光が奔る。
「魔物の群れは消えました。」
アファリは静かに堂の扉を開けた。
逃げたアミーが残していったのは破邪の槍クランクラン。それはディアスの手に渡った。




