第一章 白狼に育てられた少年(5) 女王アファリ(1)
ロニアスからはディアス、シーナ、ローコッドそれにマルスとアレク。二人にはカトリンが呪を施したその躰に似合った剣が与えられていた。
五人はアシュラ族が新たに造った東の村に入った。
「あら・・子供まで。」
二年前に女王の座に就いたアファリがそこに来ていた。
「貴女が・・」
「いいえ。この人達が。」
アファリは後ろに立つ三人の女を紹介した。
デラ、エレナ、イージュ。三人はそう名乗った。
「三人とも“魔物狩り(デヴィル・ハンター)”の素養を持ちます。
道案内も彼女達がします。」
「道案内・・・」
「山の上にお堂があります。」
ディアスの後ろからメアリが話し始めた。
「巫女になる者は唯独りでそこに登り、修行をします。それによって霊力を高めるのです。」
「そこに・・」
「そうです。魔物が現れ、棲み着きました。」
「なぜ魔物と解った。」
「二年前私がお堂に籠もった時には何ごともありませんでした。
しかし、新たな巫女になる為に今回若い娘が山に登ると、炎の中に座った男がいたそうです。
娘はその男に犯され女陰を灼かれました。
そして“月に一人若い女を生け贄に捧げろ”と言ったそうです。」
「ほっとけないな。」
話すメアリの横でローコッドが溜め息混じりに言った。
「この八人・・三人の武器は。」
ディアスが確かめるように三人の女を見る。
三人とも弓を背負いデラは斧を、エレナは剣を、イージュは鎖鎌をそれぞれが左腰に、そして三人とも右腰には小さな盾をつけていた。
「呪が施されています。ですが階位が高い魔物には効果がありません。」
「それで俺達の出番なんだな。」
ディアスは、行こうか。と声を掛けた。
「行きたいんでしょう。」
山に向かう八人の姿を見送るアファリの肩をメアリが優しく叩いた。
山の堂までは二日掛かるらしい。その山の端に掛かると気温が急激に下がった。
出るぞ。と声を掛けディアスは子供二人を中心に円陣を組むよう指示した。
現れたのは二十数体のモコイ。緑色の木の切り株のような姿の小さな夜魔。手にはブーメランを持ちそれを投げてくる。それは簡単に盾で弾けるが、その数は多く、なかなか近づけない。
盾で壁を造りその中から矢を・・・ディアスの指示は的確だった。三人のアシュラ族の女が次々とモコイを倒していく。そんな戦闘に気を取られていたディアスがふと円陣の中を見ると二人の子供がいない。
彼奴等・・ディアスは苦虫を噛み潰したような貌をした。
「行くぞ。」
とディアスはシーナに声を掛け、
「援護を頼む。」
と大声を後ろに残してモコイの群れを目指した。
ディアスとシーナがモコイの群れに接触する直前、両脇から二人の子供がその群れに躍り込んだ。
シーナは右のマルスに声を掛け、ディアスは左のアレクに大声を上げた。
モコイは手にしたブーメランを剣のように振り回している。それを避けマルスとアレクの剣が相手を倒していく。ディアスとシーナもそれに参戦した。そしてアシュラ族の三人の女も。
モコイを斃し尽くすのにそれ程の時間は掛からなかったがディアスの説教はそれより長かった。が、
「野営の準備をしよう。」
ローコッドの声がディアスの説教を終わらせた。
もう少し上には小屋がある。とアシュラ族の女が言ったが、何が居るか解らん。とそこでの野営となった。
火を熾し、見張りの順番を決め、まず子供達を寝かせつけた。辺りに枯れた小枝を撒き猛獣などへの用心とした。
最初の見張りはシーナ。地面に座り、雷の剣を抱え込んだ。廻りは皆眠っている。自分にも睡魔が襲ってくる。立ち上がって一つ伸びをする。そしてまた座る。
コクリと一度首が落ちる。
ハッとして眼を開ける。だが猛烈な睡魔には勝てなかった。
朝日に眼を灼かれディアスは目を覚ました。
誰も起きていない。
慌てて立ち上がる。周りを見るとそこは屍体だらけ。腐った状態から見てゾンビか何かだろう。
子供二人を残して皆を起こす。
「なぜこいつ等は倒れた。」
ディアスの声にローコッドが辺りを見廻す。
「結界だ。誰かが張った。」
「誰が・・」
「それは解らない。」
「そんな事より・・・」
子供達が目覚める前に・・とシーナが言い、屍体は全て片付けられた。
「まず小屋だな。」
アシュラ族の“魔物狩り(デヴィル・ハンター)”は魔物の気配がわかるという。その一人デラを先頭に山の中腹の小屋を目指した。
「つけられている。」
人の気配を感じたディアスはそっとシーナに目配せした。そうした中、一行は足を急がせた。
「これで俺の炎の魔法も使える。」
森を抜けるとローコッドはそう言った。
小屋はもう目の前だった。
先頭を行くデラの拳が握られる。それは停止の合図。
「何かいるな。」
全員が身構える。
地面から煙が立つ。現れたのはジンが数体。
「拙いな・・魔法を使う。」
「鵺を呼んで一気に・・・」
「無理だ。間に合わない。」
三体のジンは炎を吐いた。
ローコッドは目を閉じた。が、みんなの前でその炎が遮断された。
魔障壁・・誰が・・・
ローコッドは辺りを見渡した。
「来ちゃった。」
そこにいたのはアファリ、少女の時のようなあどけない表情で・・・
アシュラ族の三人の女達は不可思議な表情を見せる。
「内緒よ。」
その顔にアファリが笑う。
「ですが・・・」
三人が複雑な貌を見せる。
「女王命令です。」
アファリはキッと三人を睨み、その後で表情を変えた。
「やっつけましょう。」
アファリは魔物に向けズイッと進んだ。
ジンの後ろには角の生えた兜と燕尾服のような鎧を着けた魔物が現れ、長く真っ赤に焼けた剣をアファリに突きつけた。
「キャッ・・怖い。」
アファリは揶揄するような嬌声を上げた。
魔物の顔が屈辱に歪みアファリに斬りかかる。が、アファリの剣はその剣先を簡単に弾いた。
「弱すぎます。」
アファリはトンと魔物の胸に掌を当てた。
「そう・・貴方の名前はブレスというのね。」
ピシッ、ピシッとブレスの鎧に罅が入り、塵に変わっていく。
「もうおしまい。」
アファリはディアス達に向け片目をつぶった。




