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第二章 黒い影(24) ランダ・・動く(2)

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 セイラはラルゴの名を呼び、十日間も泣き暮らした。

 父を知らず、母も自分を産んですぐに亡くなった。

 その中でラルゴ・・・彼だけが肉親のように自分を扱ってくれた。

 泣かずには居られなかった。

 そんなある日、後宮の扉を叩く者があった。その者は、元荷夫。

 下せんの者は・・と後宮の守護兵達はその男の前に槍を立てた。

 セイラ様に、ラルゴ将軍の最後のお言葉を伝えに・・・男は後宮の窓に届くように大声を上げた。

 ラルゴ・・・その名にセイラは頭を上げた。

 セイラは後宮の玄関まで走り、その薄汚い男を後宮に招き入れた。

 男、ソーシオはラルゴの最後の言葉をセイラに伝えた。

 私があるがままに・・・

 それからのセイラはラルゴの死にも負けなかった。いや、その前以上に強くなっていた。今日もルーメンスブルグの貧民街、それどころか高い城壁のすぐ北側、全く日の当たらぬ貧民窟にまで脚を伸ばしていた。供は当然救護兵(アウクスラム)と荷夫達、今はその二つの組織の境目もなくなっていた。それに、ラルゴと共に戦った守護兵(ガーディアン)達もその中に組み込まれていた。

 セイラが行く所、ウシャスの化身として彼女の姿に手を合わせる者さえ居た。

 「早く動かなければなりませんな。」

 尖塔の上の部屋でラグラがヨゼフの眼を(なじる)るように見た。

 「明日、会議を開きます。」

 ヨゼフはその姿に頭を下げた。


 「編成替えをしては如何かと思いますが。」

 翌日早くから開かれた枢密院会議でヨゼフが口を開いた。

 「編成替えとはどう言うことですかな。」

 元はヨゼフの主人であったボルスがその発言にすぐに反応した。

 「セイラ様の待望論がこのルーメンスブルグの外にまで溢れております。

 かといってこの間の件もある。セイラ様の警護を万全にして、また町の外へも出て頂こうと思いますが、如何でしょうか。」

 ヨゼフは議場を見渡した。

 既に昨夜の内に根回しを済ませていた枢機卿達はすぐにそれに賛同の意を表した。

 今や二十人にまで膨れあがった枢機卿の中で異議を唱えるのはボルスただ独り。他の枢機卿達が賛同するのにボルス独りでは逆らえなかった。

 「ヨゼフ卿、どのようなお考えをお持ちかな。」

 枢機卿の長、ホンボイがそれにたたみ掛ける。

 「国境の安全を守る為、新たに巡察隊を創設する。その長はデルフとします。

 ラルゴ亡き後、遠征軍(クルセイダー)の総監を負け知らずのカナルとし、教会騎士(テンプルナイト)の長ケイマンを遠征軍(クルセイダー)の将軍の一人としてデルフの穴を埋める。

 ケイマンの代わりの教会騎士(テンプルナイト)の長には若くはあるがオーレスという男を抜擢する。

 救護兵(アウクスラム)と戦闘の出来る荷夫は廃止し、その要員は守護兵(ガーディアン)に組み込む。

 セイラ様の行脚には戦闘力に優れた教会騎士(テンプルナイト)が同行し、セイラ様の安全を守る。」

 そして最後にヨゼフが提案した案件、ウシャスはメシアン教が奉じる“光の神”の一形態。それを後ろ盾とするセイラは紛れもなくメシアン教の“神の使い”である。と言う宣言はボルス以外の万雷の拍手で迎えられた。

 次の日からセイラの一行の様子が変わった。セイラは華麗な馬車に乗せられ、その供をするのはこれも美麗な衣装を纏ったテンプルナイト達、荷馬車はそこらで雇われた荷夫が牽き、それは過たず王族の一行の姿であった。

 セイラはそれを望まず、ボルスも反対したが枢密院はそれを押しきった。その上、宣言通りウシャスは“光の神”の一形態であると喧伝した。

 セイラが枢機卿達に利用されている。

 そう考えたのはボルスだけではなかった。ある夜そう言う者達がボルスの家に密かに集まった。

 デルフは言うに及ばず、ラルゴと一緒に最後まで戦った守護兵(ガーディアン)のアンドレイと元荷夫のソーシオ、元救護兵(アウクスラム)からは森でセイラを救ったグリー。

 「同志はこの五人か・・・」

 ボルスが一同を見廻すと、

 「拡げすぎては目立つ。」

 デルフが闇雲に同志を拡げることを警戒するよう釘を刺した。

 「ところでお前達の配置はどうなった。」

 ボルスが話を変えた。

 「私は守護兵(ガーディアン)の任を解かれ、今はデルフ様の下にいます。」

 先ずアンドレイが答えた。

 グリーは任地はまだ決まっていないものの守護兵(ガーディアン)になり、荷夫だったソーシオは遠征軍(クルセイダー)の一員として配置されていた。

 「そうだ・・・」

 そこまで話が進みソーシオが突然手を打った。

 「オーリー様がいる。あの方の師はラルゴ将軍・・話せば解ってくれるはず。」

 「確かに軍の背景があれば・・・だが我々は反乱を起こすわけではない。

 セイラ様の志を守ってやりたいだけだ、自身の権益だけを考える枢機卿達に利用させるのではなく。」


 そのセイラの一行が着くと教会の鐘を鳴らし、集まった人々の手を借りて天幕が張られ、机が準備される。そこまで終わるとすぐに同行した神父の喧伝が始まる。

 “光の神”の化身ウシャス様の力を授かったセイラ様であらせられる。皆の者、“光の使い”セイラ様に(こうべ)を垂れ、神とお前達を繋ぐメシアン教に手を合わせよ・・と。

 長たらしいその口上が終わると、二頭立ての華麗な馬車から青い太陽の紋章が染め抜かれた真っ白な胸垂れを着けた教会騎士(テンプルナイト)が、天幕までの両側にずらっと並ぶ。そしてやっと神父の声に誘われ“光の使い”セイラ様のお出ましとなる。

 こんな事じゃない・・セイラは胸の内で叫ぶ。が、その叫びを聞いてくれるラルゴはもういない。


 「枢機卿の中に同志になりそうな者はいないのか。」

 デルフの問いにボルスは首を横に振った。

 「あんたの部下だったコーキーやマサンは。」

 「利を以て枢機卿の長ホンボイに籠絡されている。」

 「ホンボイか・・あんな男とは思わなかったが。」

 「人は変わります。」

 デルフの溜息に元々タンカの住民だったアンドレイが話し始めた。

 タンカの村長ホンボイは質素な生活をしていた。村人の信望も篤く、十数年もの間、村人は村長の役を頼んでいた。

 そこにティアを伴ったラルゴ達が入ってきた。そして村が豊かになるに従って、徐々にその姿勢が変わってきた。そしてメシアン教が成立すると供にその権益に酔った。

 「そうさせたのはヨゼフ・・俺の部下だった。」

 「そういえばそのヨゼフ卿が養子を取るとか・・・」

 「ああ・・二十歳くらいのテンプルナイトらしい。」

 グリーにボルスが答え。

 「稚児遊びの相手ですか。」

 「かも知れん・・・」

 続くソーシオの問いには肯定も否定もせず、

 「その男を枢機卿に推薦しようとしている。」

 「また勢力が伸びますか・・・」

 「やはりオーリーの力が必要だな。」

 ソーシオの溜息をデルフがきった。

 「誰が話す。」

 「俺しかいないだろう。

 明日行ってみる。」

 デルフがその日の話しを締めた。


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