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第二章 黒い影(21) 変質(2)

 翌日からハーディは旅仕度が始まった。レンドールからニクスへ、川沿いをドボーグを経て、ミズールへ、ログヌスに帰るまでその巡察は二ヶ月を考えていた。

 「どうだい、イーサンこのすがすがしさは。」

 ハーディは久々の馬に揺られ、この上ない笑顔を見せていた。

 「毎日毎日、執務室の壁を見るより遥かに解放される。」

 ここ十年程、ハーディは馬を駆って草原に出ることはほとんどなかった。

 思わず馬に鞭を当てる、彼の愛馬は飛電、他の者達は大きく引き離された。

 イーサンの騎馬隊五百、それにハーディ子飼いの戦士五十、それらを後ろに置きハーディは独り馬を奔らせた。

 全てのしがらみを捨てハーディは風に身体を任せた。馬の速さもありレンドールに着いたのはログヌスを出て僅か五日後だった。

 着いた先レンドールは活気に溢れていた。ログヌスからの大道とニクスからの支道が合流する山脈の麓の宿場町。旅人は山を越える前にここで休み、そして一気に峠を越える。町には当然宿屋があり、食べ物屋、飲み屋、小さな娼館までがあった。

 山脈の南、モアドス側にもリュビーは同じ様な町カールフを造っていた。

 この町はアイクアリー教の教都、ケントスに近い。ハーディはまずアイクアリー教の拡がりを調べさせた。だが忙しく働き廻るこの町に宗教などが入り込む余地はなかった。となると次の心配は他国による侵略、ここに手を伸ばすとするとヴィンツ。だが、その動きはダミオスを治めるタリスが完全に押さえ込んでいた。

 そこに滞在する間、ハーディがレンドールにいると聞きつけリュビーがそこまでやって来た。

 久しぶりに見るハーディの顔、リュビーは驚いた。顔色は青黒くくすみ、眼には嘗ての輝きはなかった。

 「何があったのです。」

 リュビーはそれとなく尋ねた。

 何が・・とハーディはリュビーが尋ねる意味が分からなかった。

 「身体の具合が悪いとか・・・」

 「別に何ともないが。」

 ハーディの応えは至極あっさりしたものだった。

 それにしても・・・リュビーはハーディの顔をまじまじと見た。

 若さは保っているように見えた。が、生気がない。疲れているのか、悩んでいるのか・・・

 リュビーは不安を持ちながらも山脈の南の様子を伝え、ハーディを次の目的地ニクスに送り出した。


 ニクスにはハーディの滞在の為の屋敷が急ごしらえで造られていた。

 「粗末な所ですが・・・」

 ダミオスを治めるタリスがハーディに頭を下げる。

 「ですが城は殺伐としています。

 それよりここの方が・・・」

 タリスがニッコリと笑う。

 ダミオスの隣国ヴィンツはロゲニアと同盟を結んだ。彼の国はロゲニアの武力を背景に、既にダミオスとの国境で小競り合いを起こしていた。

 「大きな戦いにはするなよ。」

 ハーディはタリスに念を押し、タリスはそれに肯いた。

 「今後も巡察は・・・」

 「年に二度ほど・・続ける。」

 そこにバタバタと城からの知らせが来た。それはヴィンツの軍、千が国境を越えたというものだった。

 「貴方の力を敵に見せつけてください。」

 タリスはハーディが戦場に出ることを懇願した。

 「久しぶりに武器を握るか。」

 ハーディは再三のタリスの懇願に遂に応じた。

 漆黒の鎧を身に着け馬上にあるハーディにタリスは一本の槍を差し出した。

 ハーディは右手にその槍を()げ、左手に“風の盾”と手綱を一緒に持った。

 遠くに土煙が見える。それはタリスが言う千人のヴィンツ軍に他ならなかった。

 「兜を。」

 ゆったりと歩く飛電に付き従う従者にハーディは声を掛けた。

 面頬を着けるとチクッと顔面に痛みが走った。それに構わず続けて兜を被った。

 それからの記憶はハーディにはなかった。 馬を奔らせながらハーディは盾を前に差しだした。その盾は“風の盾”、その前面に風圧を巻き起こし、敵の矢を全て防いだ。それに続いてハーディはタリスに貰った槍を天に突き上げた。すると空は瞬時にかき曇り一陣の(いかずち)が奔った。

 十数人の敵兵が槍が発する(いかずち)に撃たれ一気に吹き飛ぶ。それを見てハーディは笑いを漏らした。

 突き進むハーディの前にヴィンツ軍は恐慌を起こす。その中をハーディは尚も突き進む。

 あれほど人の命を大事にしたハーディの前で今や兵や民の区別もなかった。

 面頬の裏でハーディは笑った・・これほどの開放感があろうか、ログヌスに於いては外交に内政にと明け暮れ、家庭に於いてはエラに振り回される、それら全てがこの戦闘の(かん)には頭を離れる。

 ハーディは得も言われぬ爽快感に身を委ねた。

 ハーディはふと後ろを見た。愛馬、飛電の脚にも係わらず黒鎧の戦士五十人が後ろに続いている。ハーディは面頬の奥でもう一度笑いを漏らした。笑いの先の戦士達は凄まじく強かった。敵の槍も剣も彼等の鎧には通じず。その前に立つ者達を次々に槍先の血しぶきに変えていった。

 その日の夕まずめにはハーディはニクスに凱旋し、タリスはそれを盛大に迎えた。

 タリスはハーディの武力を必要以上に喧伝した。それが敵の脅威になるとして・・

 その策は功を奏しヴィンツは恐れ、ハーディがニクスにいる間、数日間は全くその動きがなかった。


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