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第二章 黒い影(19) 画策(5)

    ×  ×  ×  ×


 「お願い、ラルゴを助けて・・・」

 敵兵を駆逐したオーリーにセイラは手を合わせた。

 「この子は私が守ります。」

 セイラの横に立つ女性がセイラとラルゴの救出、二つに迷うオーリーを見た。

 「貴女は・・・」

 「この子の守護神ウシャス。

 この子を害しようとするものはもうこの辺りにはいません。もし居ても私が斃します。

 貴男は、貴男の師を救出しなさい。」

 その言葉に頷き、救護兵(アウクスラム)が来ます、それまで・・と後に声を掛け、オーリーは先を急いだ。

 オーリーは森を走る間に葉の茂った枝を切ることを自分の部下に命じた。

 そして朝日が高くなる頃森を抜けた。

 「手綱は口で咥え両手に木の枝を持って大きく拡がれ。

 枝で地面を擦り、大きく土煙を上げろ。」

 少人数を大兵に見せる・・これもラルゴに教わったことだった。

 オーリーの騎馬隊は盛大な土煙を上げながら国境の村へと突き進んだ。


 「ラルゴ将軍に敵を近づけるな。」

 教会の高窓から大声が聞こえる。

 ラルゴは押し寄せてくる敵を愛用の十文字槍に掛けながら、矢を射続ける高窓の荷夫頭に声を掛ける。

 「ソーシオ頼みがある。」

 「何なりと。」

 「セイラには自分があるがままに生きよと伝えてくれ。」

 涙なのかソーシオと呼ばれた男からは返事は返ってこなかった。

 「ボルスとオーリーにはセイラを護れと。」

 高窓の上から嗚咽が漏れ聞こえる。

 「メーレにはセイラをよく育ててくれと。」

 高窓だけではなくあらゆる窓から嗚咽が聞こえる。

 矢はいずれ尽きる。その時ラルゴ将軍は・・・ソーシオはラルゴと共に討ち死にすることを考えた。伝言は誰かが伝える・・いやこの戦場で生き残れる者が居るのかどうか・・・

 「オーリーがこっちに向かっているはずだ。

 あいつが救出に来る。それまで扉を守り、人々を護れ。」

 遂に矢は尽きた。剣を引き抜き、ソーシオは階下に降りた。そこにはさっきまで外で一緒に闘っていた守護兵(ガーディアン)の一人アンドレイが居た。

 「どけ。」

 ソーシオは潜り戸の前で大手を拡げるアンドレイに声を荒げた。

 「行かせぬ。」

 アンドレイの頬も濡れている。

 「ラルゴ将軍の言葉、お前は伝えぬつもりか。」

 「俺でなくても良かろう。」

 「将軍はお前を名指しで頼んだ。

 お前は我等を守って死に逝く者の頼みを聞けぬのか。」

 ソーシオは潜り戸の前でガックリと膝を折り、号泣した。

 誰も出てこないことを確かめ、ラルゴは独り奮戦した。嘗ては猛将ラルゴと呼ばれた男、その槍先は(いささ)かも衰えてはいなかった。

 だが血と共に流れ出る(ジン)にその穂先は徐々に鈍っていった。

 突き刺さったままの槍とは別にもう一本、槍がラルゴの腹を貫いた。その槍が引かれる。夥しい血がその傷からあふれ出る。

 ラルゴはガックリと石畳に膝をついた。

 その躰に無数の槍が伸びる。

 「セイラーッ」

 ラルゴは虚空に向け叫んだ。


 昼過ぎオーリーは遠くにラルゴが居る村を見る所まで来ていた。

 「急げ、急げ。皆が待っているぞ。」

 オーリーの声に応えて、騎馬隊が雄叫びを上げながら馬を走らせた。

 その頃、村中では教会攻めが始まっていた。

 潜り戸はあっと言う間に破られたが、そこから一人ずつ入ってくる敵兵は槍の餌食となった。

 仕方なしにブラウニスの主将は鉄扉攻めを命じ、村の門扉を破った大きな木杭を再び持ち出し、教会の鉄扉に叩きつけていた。

 そこに村の西から大軍が迫っているという報告が入った。

 主将は側に居るはずの七賢者の一人ラダを見た。が彼の姿はそこから忽然と消えていた。

 「退き上げだーッ」

 大軍と聞き恐れを成した主将は戦場に命じた。


×  ×  ×  ×


 「ご苦労様でした。」

 労をねぎらうデメテルの声にラダは軽く頭を下げた。

 「上手くいきましたね。」

 それにペルセポーネの声も被る。

 「邪魔者の一人は消えた。」

 ラグラの声も続く。

 「後はヨゼフが上手くやるでしょう。」

 そういうのはダナエ。

 「まだボルスは残っているが、ラルゴという後ろ盾を亡くし、何ほどのことも出来まい。」

 今度はルヒュテル。

 「私達の王国が・・・」

 デルポイの声に皆が頬を崩した。


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