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第二章 黒い影(16) 画策(2)

×  ×  ×  ×


 ラルゴとセイラはルーメンスブルグから遠く東に離れた小高い丘にある村に居た。そこでもセイラの奇跡は起こされていた。

 ラルゴは村の高い登楼に登り辺りを見廻していた。

 いい所だ・・ラルゴはそう感じていた。そんな彼の目にちらっと土煙が見えた。それがこちらに近づいてくる。

 (いくさ)・・・長年戦場を駆け回ったラルゴにはその土煙が意味するものが瞬時に分かった。

 ラルゴは転げるように登楼を降り、

 「セイラ。」

 と、大声を上げた。

 その声を受け救護兵(アウクスラム)達が村中を走り回りセイラを探し当てた。

 「帰るぞ。」

 ラルゴはセイラの手を引いた。が、その時には戦いの渦はその村のすぐ近くまでやって来ていた。

 「逃げろ。」

 ラルゴはセイラを馬に押し上げた。

 「あなたは。」

 セイラは金切り声を上げた。

 「ここを守る。」

 その言葉に救護兵(アウクスラム)達が同調した。だが、その前に十数人の荷夫達が立った。

 荷夫達は戦闘力を言い立てた。セイラを守る為には戦闘力の高い救護兵(アウクスラム)が守るのが適任、それに劣る自分達がラルゴと共に村に残ると言い張った。

 「セイラを頼む。」

 その正当性にラルゴは救護兵(アウクスラム)達を見た。

 セイラはラルゴも一緒にと泣いたがラルゴはその声を振り切った。

 「戦闘準備。」

 セイラが村から出るとラルゴは大きな声を上げた。

 銅鑼が打ち鳴らされ、村中に敵の襲来を伝えた。当然その音は敵将の耳にも届いた。

 「弓隊、柵の上に。」

 そう言われて女子供までが手作りの弓矢をを持ち木柵の上に登った。

 「頑張りすぎるなよ。危ないと思ったらすぐに教会に退け。」

 ラルゴは木柵に登ろうとする少年にニコッと笑いかけた。

 男達の三分の一を東と西の門に分けラルゴは教会に急いだ。しかし、教会の扉は固く閉ざされていた。

 「何をしている。ここは負傷者の収容所に当てる。扉を開けろ。」

 気付けば守護兵(ガーディアン)達は一人も村中に出ていない。

 ラルゴはこの村の守護兵(ガーディアン)の長の名を呼んだ。

 教会の尖塔から彼が顔を出し外を窺う。

 「出てこい、ここで一番戦闘力に優れているのはお前達だ。出てきて闘いの指揮を執れ。」

 「我々は教会を守る。」

 「村人が先だろうが、ここは救援が来るまでの最後の砦になる。扉を開けろ。」

 「我々は・・・」

 震える声がラルゴの言葉を拒否する。

 業を煮やしたラルゴはその男に槍を投げた。男はラルゴの槍に刺し貫かれ尖塔の窓から落ちて来た。それを尻目に、やれ。と、ラルゴは荷夫達に指示を出した。荷夫達は荷車を力一杯押した。ドーンと音が響き教会の扉が揺れた。

 「もう一度。」

 ラルゴが命令を発し、荷車が後ろに退かれた。そして走る。間一髪教会の重い扉が中から開かれた。

 「死にたくなければお前も闘え。」

 二十人近くの守護兵(ガーディアン)達に守られて突っ立つ神父を、ラルゴはそこから引きずり出した。

 「三人、ここを確保。

 若い女を集め怪我人の治療の準備をさせろ。」

 ラルゴは荷夫達に命令を下し、神父と守護兵(ガーディアン)達を戦場となる村中に連れて行った。

 「木の枝を切って先を研げ。」

 少ない武器の代わりになる物を求め、ラルゴはニコニコと笑いながら村人達に声を掛けた。その笑顔は村人達に安心感を与えた。が、戦況は逼迫していた。

 押し寄せてくる敵に木柵の上から矢が放たれる。それに応じブラウニウス軍も矢を放った。その弓勢は強く、敵軍の負傷者に対し村人のそれはあまりに多かった。

 「教会に退け。退いて教会の高窓からそこに近づく敵を()て。」

 ラルゴは木柵の上の人々を後退させた。

 ドーン、ドーンと村の門扉に大きな木杭が叩きつけられる音が響く。

 「門が破られ、敵がなだれ込んできたら思い切り槍を突き出せ。」

 槍・・とは言っても木の枝を研いだだけのもの、それが革鎧に身を包んだ敵兵に通じるものなのか・・・それでもラルゴの顔はニコニコと穏やかな微笑みを湛えていた。

 何度目かで木杭の先が門扉を突き通した。 それからまた・・遂に門扉を支える(かんぬき)が弾け飛んだ。木杭を投げ捨て敵兵がなだれ込んでくる。

 「突けーッ。」

 ラルゴの号令を受け、門の前の者達が渾身の力で木槍を突き出した。だがラルゴが思った通りその攻撃はそれ程の効果は現さなかった。

 「突いたら退け。」

 敵兵を次に(とど)めるのは鎌、鍬、鋤などの農具を手にした住民達。だがこれも武器と技量に勝る敵兵に次々と斃された。

 すまぬ・・ラルゴの頬を涙が流れ落ちた。

 敗戦の報が届くのに早馬で一日、それから兵を整えこの村に救援の軍が来るまでに更に五日・・とても保たない。

 これもセイラを逃がす為の時間稼ぎ。

 すまぬ・・ラルゴは心の中でもう一度村人達に手を合わせ詫びた。

 守護兵(ガーディアン)と荷夫達に指図し、村人達を教会に逃がす。守護兵(ガーディアン)は善戦したが荷夫は急場造りの兵士に過ぎない、徐々に押され、遂に教会前の広場まで押し込まれた。

 「射てーッ」

 教会の高窓から荷夫の一人の声が響く。

 ラルゴはその声を見上げニコッと笑った。

 矢が押し寄せる敵兵に傷を負わせていく。その間に村人のほとんどは教会に逃げ込んだ。

 「扉を閉めろ。」

 ラルゴは教会を背に命を発した。

 ギギッと音を立て教会の大きな扉が閉まった。教会の扉は鉄貼り、少々のことでは壊れない。地下には上納の為の食料が蓄えてありかなりの時間は保つ。ここで時間を稼げばあるいは・・・

 「無駄に矢を射るな。教会に近づくものだけを射よ。」

 ラルゴは高窓の荷夫に大声を懸けた。

 辺りを見廻すと三十人連れてきた荷夫の残りは十数人、それに六、七人の守護兵(ガーディアン)。この村には二十人以上の守護兵(ガーディアン)が居たはずだが・・・

 「荷車を。」

 猜疑に囚われながらもラルゴは次の命令を出した。

 近づけないとなると次の攻撃は矢。ラルゴは数台の荷車を横たえ盾とした。

 徐々に日が落ち暗くなってくる。

 「将軍、暗くなれば敵が・・」

 「大丈夫だ、奴等に灯りをつけさせる。

 しっかりここを守っていろ。」

 ラルゴは薄暗さに紛れ、独りでそこ離れた。

 それから暫く、敵の中から悲鳴が聞こえた。

 篝火をたけ・・辺りを明るくしろ・・・

 大慌ての命令が敵の中から聞こえてくる。

 何人殺()られた・・・

 十人以上・・

 敵が篝火をたく間にも敵兵の悲鳴が聞こえてくる。

 相手は名のある武将に違いない、夜の間は手を出すな。乗じられるぞ。

 最後の命令はそう聞こえ、敵軍は少し後にさがった。

 首尾よくいった。これで敵の夜襲はない・・ラルゴは心の中でほくそ笑んだ。

 「交代で休め。」

 荷車の盾の後に帰ってきたラルゴはそこに居る者達に声を掛けた。

 「矢を集めました。」

 荷夫達が荷車に突き刺さった矢を集めたものを差し出した。

 「よくやった。教会の小窓から中に渡せ。」

 ラルゴは腕組みをして教会の壁を背もたれにして座り込んだ。


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