第二章 黒い影(15) 画策(1)
ブラウニウス公国の首都シャーロット。そこを一人の若者が訪れていた。
若者は宮城の門を叩き、
「ブラウニウス公爵にお目にかかりたい。」
出てきた衛兵にそう告げた。
衛兵はその若者の目に支配され、フラフラと玉間まで若者を案内した。
「何者だ。」
玉座に座るブラウニウス公は横柄な態度で若者を見た。がその若者と目が合うと即座に態度が変わった。
「七賢者の一人、ラダです。」
若者はそう名乗り、人払いを所望した。その目に逆らえず、公爵は玉間の衛兵までをも部屋の外に出した。
「アルカイの勢力の伸張、さぞやお困りでしょう。」
ラダはそう言ってブラウニウス公爵の眼を見、公爵はそれに肯いた。
「小競り合いなど止めていっその事、戦を起こしてはいかがですか。」
「それは出来ん。アルカイの方が戦慣れしておる。」
「私達、七賢者が後についてもですか。」
ラダはブラウニウス公の顔を見てニヤリと笑った。
× × × ×
ブラウニウスとの国境が破られた。・・ その連絡を受けたアルカイの枢密院は大騒ぎとなった。急ぎ、遠征軍を率いてデルフが戦場に向かった。
デルフが率いる遠征軍は千、それに対するブラウニウス軍はその倍との報告があった。
デルフはミッドランドでの経験を生かし果敢に闘いを挑んだが、ブラウニウス軍の用兵は巧妙だった。
今まで続けていた小競り合いの勝利が嘘のようにデルフの軍は叩きのめされた。
敗戦とブラウニウス軍の進撃の報に枢密院は恐慌に陥った。カナルはオーリーは・・と走り回り、ルーメンスブルグの守備はと大騒ぎになり、中には自身の私財の心配までする者さえもあった
「セイラ様は。」
その中で独りボルスだけがセイラの所在を心配した。それでも枢密院に控える衛兵、従者も含めて慌てふためき、その問いに答える者は居なかった。
「セイラはどこだ。」
それを咎めるようにボルスの怒声が飛んだ。
「解りません。」
その声に一人我に返った従者が応えた。
「後宮のメーレであれば解るかも知れません。」
ボルスは後宮に走り、メーレの襟首を掴むようにしてセイラの行き先を聞いた。
「ラルゴ様と共に、今日は東の村に行くと・・・」
その剣幕に怯えながらメーレは答えた。
東・・しまった・・・ボルスは焦り、今度は教会の横、教会騎士の寮に走った。
「ケイマン、今すぐ動けるテンプルナイトはどれ位居る。」
「今すぐですか・・今は危急の時、我等は教会を護らねばなりません。そこから割く人数は・・・」
「また教会か。」
言い掛けた教会騎士の長ケイマンをボルスは怒鳴りつけた。
「セイラ様が危ないんだ。すぐに人を集めろ。」
「我等はセイラ様の僕ではない。教会に仕える者・・」
ケイマンのその声をよそに私が行きます。私も・・と若い教会騎士が十数人進み出た。
「お前等何を考えている。我等が守るものは教会、一個人ではない。」
「セイラ様が居なくなったら我等の拠り所はどこにあります。
教会の信奉するものはどうなりますか。」
いち教会騎士の声にケイマンは言葉に詰まった。
「行ってくれるか。」
その狭間を突いたボルスの声にその十数人が頷いた。
「既に救護兵と荷夫達は町を出ているそうです。我等も後を追います。」
「良し。では俺の後に・・・」
「貴方は残ってください。指導者が居なくなります。」
そう言い残し十数人の教会騎士は取るものも取り敢えずそこを走り出て行った。




