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第二章 黒い影(14) 光の子・・覚醒(3)

 食料の配給は救護兵(アウクスラム)と荷夫達に任せ、セイラとラルゴは二人の荷夫を連れ、集落の中を隈無く廻った。

 「お腹すいたね、ラルゴ。」

 日はとっくに真南を過ぎていた。

 教会の広場に戻ったセイラを待っていたのは昼前に訪れた病気の妻を持った男。

 「これをお召し上がりください。」

 男はセイラに鍋ごとの食べ物を差し出した。

 「ありがとう。」

 セイラが受け取った鍋には小麦や野菜と共に鶏肉までが入っていた。

 「どうしたのこれ。」

 鶏肉を目にしたセイラが男を見た。

 「妻に精をつける為にせめて卵でもと思い飼っていた鶏を絞めました。」

 「じゃあ奥さんの為の卵は・・・」

 「この鍋は妻が造ったものです。」

 「病気・・治ったの。」

 「治ったかどうかは解りませんが、貴女様がお帰りになってすぐに妻は病床を離れました。これも貴女様のおかげかと・・・」

 「何もしてないよ。」

 「妻が申しますには、貴女様の手が額に触れた時、スッと身体が楽になったそうです。その後、起きてみようという気力と体力が回復したと。」

 「おお・・これぞ“神の使い”セイラ様は光の力を持った“神の使い”。

 そのお方を奉じる教会を・・・」

 「黙れ。」

 男の話しを聞いていた神父の大声をラルゴが鋭く封じた。

 朝方仲間に斬られた男も皆に隠れてそっと肩口の包帯を解いてみた。

 もう血は出ていない・・どころか刀傷が既に閉じかけていた。

 集落の民はセイラを女神と呼んだ。

 セイラはそれを否定したが元々この地方に土着的に信仰されていた女神に人々はセイラをなぞらえた。

 その女神の名はウシャス、胸と腰から下を模様の入った薄緑の布で隠しその上から透き通る様な薄衣を纏って、大きな蓮の花の上に自身を護る猛虎を(はべ)らせて立っている。

 長い髪は一枚の縞模様の布で纏められ、それを透明なベールで被っている・

 四本の手には病を治す三つ叉の神杖と人々に道を指し示す采配を持ち、一本の手は人々に安心をもたらし、最後の手は腰に差した悪を懲らしめる剣を抜く為に空けている。

 人々はセイラを古くからの信仰の対象、ウシャスの化身と崇めた。


 その集落での出来事はすぐにヨゼフの下に伝えられた。それを聞いたヨゼフは宮殿の西にそびえる尖塔に駆け上がった。

 息を切らしながら、あれ以来鍵を掛けてある部屋の鍵を開けた。今ではそこに七賢者の像が置かれている。

 ヨゼフはその前に跪き、今日の集落での出

来事を七賢者の像に心の内で報告した。

 その後もセイラが訪れた集落内の病人や怪我人が次々に治ったという声が上がっていた。


×  ×  ×  ×


 「困ったことになりました。」

 最初にダナエが口を開いた。

 「よもや、あの小娘にそんな力があるとは。」

 そしてラダ。

 「消したはずの女神がこんな所で蘇ろうとは。」

 「ウシャスはメシアン教が奉じる“光の神”の一形態。それを後ろ盾とするセイラは紛れもなくメシアン教の“神の使い”としてはいかがですか。」

 ルヒュテルの溜息にデメテルがそう応える。

 「が、それをラルゴが許しましょうか。」

 「アルカイの中に二つの勢力が出来上がります・ラルゴさえいなければ・・・」

 その横でデルポイとペルセポーネも溜息をついた。

 「戦を起こす・・そこで・・・」

 ラグラは他の六人の顔を見て意味ありげに笑い、それしかないでしょうと、皆が肯いた。


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