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第二章 黒い影(13) 光の子・・覚醒(2)

 集落はぐるりと木柵で囲まれ、四方に見張り台が建てられていた。ラルゴ達一行を見た見張りが下に向け大声を懸ける。それに応え集落の門の前で五人の守護兵(ガーディアン)達が立ち塞がった。

 「大勢して何の用だ。」

 守護兵(ガーディアン)の一人が毒づく。

 「セイラ様だ。」

 ラルゴはそれを睨み付けた。

 「困っている人達を助けに来たの。」

 ニコニコと笑うセイラの後に続く荷駄を守護兵(ガーディアン)達は見た。

 「物資は教会に納めて貰う。」

 「教会じゃなくて困っている人達にあげるの。」

 「それは教会が分け与える。」

 「果たして行き渡るのかな。」

 ラルゴの目が鋭く光る。

 「ラルゴ、喧嘩しちゃあダメ。」

 ラルゴ・・遠征軍(クルセイダー)の総監。

 守護兵(ガーディアン)の一人にその顔に見覚えがある者が居た。

 本物らしいぞ・・その男がひそと真ん中の男に耳打ちをする。

 「セイラ様というのは本当か。」

 それでもその男は不遜な態度でセイラに顔を近づけようとする。救護兵(アウクスラム)がサッとセイラの前に壁を造る。

 彼等が見ている目の前でその男はラルゴに投げ捨てられ、地面に土埃を上げた。

 守護兵(ガーディアン)達の間に緊張が走り、その内の一人が門の中に事を知らせる為に駆け込もうとした。

 「行っちゃダメ。」

 だがセイラの強い声にその躰は止まった。どんなに藻掻こうと脚は前に進まない。

 この野郎・・投げ捨てられた男が起ち上がり、剣を抜く。

 「駄目だ駄目だ、この方は本物のラルゴ将軍・・後で咎めを受けるぞ。」

 ラルゴを見知っていた男はその前で大手を拡げた。が、剣が光り、その男の肩口が斬られた。

 飛ぶ血にセイラの悲鳴が上がり、救護兵(アウクスラム)達もまた剣を抜いた。

 「止めなさい。」

 悲鳴の後にセイラの凛とした声が響いた。その声に逆らえる者は居なかった。身体が勝手に動き、セイラの声に従い剣を鞘に収めた。

 その前でラルゴが驚きの表情を見せる。

 「教会に案内して。」

 斬られた男の手当をしたセイラが守護兵(ガーディアン)達を睨む。彼等はその声にも逆らえなかった。

 門を潜ると木と藁で造られた粗末な民衆の家が建ち並ぶ。それに比して守護兵(ガーディアン)達の石造りの家は余りにも豪華だった。

 暫く出ぬうちに・・・ラルゴはその光景に唇を噛んだ。

 ラルゴが遠征軍(クルセイダー)の将軍として軍を率い巡察を繰り返していた頃はここまでの格差はなかった。それが・・政治を行う者達からセイラを守ることにかまけすぎた。

 ラルゴは自身の失策を思い知った。


 教会の前には大きな広場があった。騒ぎを聞きつけた神父がそこで待っていた。

 これはこれは・・と声を掛けその神父はセイラの前に跪き、

 「“光の使い”セイラ様であらせられる。」

 と、大音声を上げた。

 既に、この集落の神父だけにはセイラの来訪が伝えられていたに違いない。ラルゴは枢密院の手回しの良さに舌を打った。

 「みんなを集めて。」

 その前でセイラがニコニコと笑う。

 集落中にふれが回され、ゾロゾロと民衆が集まってきた。

 「お菓子を持ってきたの。」

 セイラは相変わらず笑いながら荷駄の一つを開けた。子供達がそれを物欲しそうに見る。

 「取っていいのよ。でも喧嘩しないように仲良く分けてね。」

 セイラは子供達に声を掛けた。

 親が止めるのも聞かず、子供達がわっと菓子に駆け寄った。

 「机を出して。」

 セイラはこの集落の神父を見やった。

 神父の指図で守護兵(ガーディアン)達が教会から長机を持ち出し、広場に並べた。

 「家族ごとに整頓させて。」

 守護兵(ガーディアン)達はセイラのその声にも従った。

 「一人に三杯ずつネ。」

 小麦が入った俵を開き、セイラは荷夫達に声を掛け、自身も汲み分ける為の容器を手にした。

 「家には病気の妻が・・・」

 セイラの前に立った痩せた男が言った。

 「どこまで甘える気だ。」

 神父がその男を叱った。

 「本当なの。」

 セイラは神父の眼をキッと見て真偽を確かめた。

 はい・・と神父はその眼に頷いた。

 「じゃあその奥さんの分も。」

 セイラはその男が持ってきていた麻袋にもう三杯追加した。

 「奥さんの病気、酷いの。」

 そうしながらセイラは男に尋ねた。

 「もう一月(ひとつき)も寝たっきりでございます。」

 行きましょう。と言ってセイラは荷夫の一人に大きな麻袋を担がせた。ラルゴの目配せで護衛の為に三人の救護兵(アウクスラム)もそれに続いた。

 「後からこの物資を民から掠め取るなよ。もしそれを俺が知ったら・・・」

 解っているだろうな。と言う様にラルゴはセイラが見えなくなると神父の眼を鋭く睨んで、セイラの後を追った。

 さっきの痩せた男の案内でセイラは彼の家の中に入った。

 「何の病気なの。」

 セイラは気軽に声を掛けた。

 解りません。と男は痩せ細った妻の横で首を振った。

 「うーん・・お医者さんも要るか。」

 セイラは荷夫が持ってきた麻袋の中から、取り敢えず精のつきそうな物を取り出して床に並べた。

 「熱はあるの。」

 セイラは慌てる荷夫をよそにその家の妻の額に手を置いた。

 「こうしているうちに良くなればいいけど私にそんな力はないし・・・」

 と、土色だった女の顔に僅かながら赤みが差した。

 元気出してね。とセイラがその家を立ち去って暫く、

 「起きてみようかしら。」

 男の妻はのろのろと病床の上で身体を起こした。


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