第二章 黒い影(7) 種(1)
アーサーの大葬が終わり家庭的には一息を着いたハーディではあったが、アーサーの死による政治的な課題は山積みとなっていた。
当然レジュアスはヘンリーが治めるとして、ヘンリーが去ったモアドスはどうするのか・・そこに自身の臣下を配すると山脈の北の統治に穴が空く・・これは難題だった。
アーサーの死により弱体化するレジュアスを守る為にはモアドスにリュビーを置きダルタンと共にストランドスを牽制し、その間に外交により大道の支道をストランドスに通すことでどうにかしのげる。
ヴィンツに対してはニクスまで伸びた道をテアルまで延長することで懐柔できる。が、その外交戦が終了するまでダミオスの護りを誰にさせるのか・・・闘いに適したものは自身の配下に多数居る。が、政治、外交を含めてとなると・・・ナザルにダミオスを治めさせれば手っ取り早い。が、ナザルが居なくなったミズールを治めるのは・・
そこまで考えハーディの頭にはロブロとキーンの顔がよぎった。
ロブロは今ログヌスの警察組織を治め、アイクアリー教の取り締まりに欠かせない。残るはキーン、彼は戦いには強くなかったが政治力はあるとハーディは思っていた。
ナザルとキーン、ハーディはその二人の政治、外交力を比較し、キーンの外交力はナザルと変わらないと考えた。今まで彼の外交力を使う仕事がなかったとも考えた。政治力は確かにナザルの方が上、その分誰かをつければ・・だが誰を・・比較的民を治めるのに長けたロブロは今ログヌスの取り締まりに当たり外せない。残るのは武人ばかり。一人心当たりはあるが果たしてエラがそれにうんと言うかどうか。
ハーディは珍しくエラの別邸を訪ねた。
そこにはタリスともう一人、若い男が居た。見た目は下男。その男がエラの私室にまで入っていた。男はハーディを見ると顔を隠し背を丸めてその部屋を出て行こうとした。ハーディはその姿を怪しみ後を追った。
顔を見られては・・と、エラは慌て、ハーディを止めようとした。
その手をふりほどきハーディは男を追った。その男が部屋の扉を出た所でその男の肩を掴み振り返らせた。
歯がとびだし、目は眇、男は醜い顔をハーディの目から隠したのだろう。
「タリスを・・・」
エラの部屋に戻ったハーディはそう切り出した。
「タリスの力を借りたい。」
「タリスの・・・」
エラがハーディの言葉を鸚鵡返しにする。
「そうだ、人が要る。政治力を持った人間が。
それにはタリスが適任。」
「・・・」
何かを言おうとしたエラを部屋に入って来たタリスが抑える。
「さっきの男、彼をエラ様の教育係として私の後釜に据えて欲しい。」
タリスはそっとエラに目配せをした。
「なぜ。」
「彼は私の一の弟子。エラ様の教育係としては打って付けです。」
タリスの進言にエラは喜色をどうにか隠した。
「エラはそれでよいか。」
ハーディの言葉にエラが頷いた。
「それでは早速、明日からでも城に来てくれ。」
「今から参りましょう。」
タリスはハーディの後についてエラの別邸を出て行った。
キーンとタリス、それに武力に優れたシュルツでミズールを護ることになった。リュビーはモアドスへ・・そしてレジュアスではヘンリーの王としての戴冠式が執り行われた。
「俺は戦い以外に能はない。それ以外のことはお前達に任せるよ。」
そう言い残しシュルツはミズールの政治所を出て行き、街の守備に就いた。
「ご存じですか。」
タリスはキーンの眼の前のテーブルにゴトリと銀のメダルを置いた。
「あんたは・・・」
「リュークによってここに送り込まれた。」
キーンはポルペウス奥の院での事を脳裏に浮かべた。




