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第二章 黒い影(5) アイクアリー教の拡大(2) 

 夕暮れに紛れエラの別邸を出て行くリュークの後には二人の男が続いていた。バルハードとキーン。その二人を引き連れたままリュークは街中の小さな石造りの家の中に入っていった。そこは酒場、リュークが目配せをすると椅子に座っていた大男が起ち上がり、自分の前のテーブルを動かした。その床の下には地下へと続く階段があった。三人がその階段を降りると大男は床板を元通りに戻す。

 地下に下りると酒場の騒音は全く聞こえなくなった。

 三人が降り立った地下はその上の酒場よりも遥かに広かった。壁には無数の蝋燭が灯り、その明かりの中にディアスが座っていた。

 「ご苦労。」

 リュークはその姿に声を掛けた。

 ディアスと呼ばれていた男は立ち上がり一つ身震いをした。

 「いつまであの姿を続ければよい。」

 両の側頭部に曲がった鋭い角を生やした男が背中の蝙蝠の羽根を広げながら言う。

 「もう暫く。」

 リュークがその声に応える。

 「一人の女を騙し続けるのはいいが、いいかげん飽きてきた。」

 「他の女の夢を侵すなとは言っていなかったつもりだが。」

 「十何年、一人を騙し続けるのは精力を使う。」

 「他の姿であれば構うまい。好きにすればよい。」

 リュークの言葉に男はにんまりと笑い、その場から煙のように消え去った。

 「キーン、布教所は。」

 「ここログヌスに十二カ所、それにダミオスの首都ニクスにも数カ所、地下に潜ってはいますが出来上がっております。」

 「人は集まっているか。」

 「下層の者を中心に。」

 「そのまま続けよ。ハーディの足下に確固たる宗教の根を張るのだ。」


 “平等”それはハーディも考えないではなかった。だがハーディが考える平等とは闇雲なものではなく、その仕事、能力に応じたものであるはず、何もせずに平等だけを願う、それは懸命に働いている者にとっては不平等となる。

 また宗教は自身の神だけへの恭順を望み、その証として神への祈りを求める。だが祈るだけでは他者との平等は獲得できない。平和もまた・・・ハーディはそう考えていた。

 ハーディの認可を受け、ロブロは警察組織を作っていた。それはログヌス内の犯罪を取り締まるだけでなく、ハーディの意に反して広まる“闇雲な平等”を旨とする宗教を取り締まることもその仕事として含まれていた。

 ロブロは部下にリュークを尾行させ、徹底的に調べ上げようとした。

 司祭という名にもかかわらずリュークはよく酒場に入った。だがその後を追いかけ、そこに入っても彼の姿はなかった。路地に入ったの追いかけてもその姿は消えている。そんな苦労をしながらもロブロの元に徐々にリュークの情報が集まってきていた。

 集まった情報をロブロが分析していく。すると決まってリュークの姿が消える場所がある。

 そこが・・・ロブロは考えた。リュークを追い込みそこで待ち伏せして捕らえる。罪状は禁止されている布教。

 翌日を期しロブロは手配を整えた。

 ロブロの手下達は手はず通りリュークを路地に追い詰め、そこを曲がった。が、そこにいたのは仲間達だけだった。

 「どこに行った。」

 「こっちには来ていないぞ。」

 二つの隊の間でリュークは忽然と消え去っていた。その話しが噂を呼び、やはり白の司祭は神の使いだとひそひそと民が話し出した。

 次の日も次の日も作戦は失敗した。そして、失敗すればするほどリュークの名声は上がった。

 ロブロの元に日々の情報は伝わっていた。

 ロブロはもう一度同じ事を試みた。が結果は同じ。

 ロブロはそれをハーディに報告した。

 「魔物の一種かもしれんな。」

 「魔物・・ですか・・・」

 ハーディの言葉にロブロは懐疑の声を上げた。

 「魔物は居る・・俺も聞いた話しだがな。

 カミュという“光の子”はその魔物・・邪神を斃す為に闘い・・邪神と共に斃れた・・と聞いている。」

 「魔術は見たことがありますが・・・」

 ロブロはまだ魔物という者が居ることに疑いを持っている。

 「ユングだな・・風の魔法を使った。

 だがそれとは全く違う・・らしい。」


 ロブロとハーディの話を漏れ聞いたエラはそれをディアスとの枕物語に語り、それは当然リュークの耳にも入っていた。それを聞いたリュークは、そうですか。とだけ応えた。

 もう一度・・ロブロは自身が指揮を執り、リュークを路地に追い詰めた。だが前二回と同じ、リュークは忽然と消えていた。前と違うのはそこに数人の男が(たむろ)していたこと。

 「何の用だ。」

 そこに居た男の一人が毒づいた。

 「宮廷の兵士か何かは知らんが、怪我をせんうちに帰ったが身の為だぞ。」

 男達が次々と起ち上がりながら、まくし立てる。

 その中でひときわ大きな男が起ち上がり、兵士が構える剣に恐れることもなく、その兵士の頬を(はた)いた。その一撃だけでその兵士は路地の板塀まで吹き飛んだ。

 剣を抜き身構える兵士の中でロブロは板塀の下方にローブの裾が翻るのを見たような気がした。

 「壁を。」

 ロブロの大声が板塀に囲まれた路地に谺した。

 「ばれましたか。」

 裏返しのローブを元に戻しながらリュークが姿を現し、路地の奥へ向け逃げた。それを追おうとした兵士達はそこに居た男達に総て殴り倒された。

 その夜ハーディはその様子をロブロから報告を受けた。

 「単なる奇術の類いか。」

 その言葉にロブロが頷いた。

 「リュークの行動を総て洗い出し、周りから潰していけ。」

 魔物ではないかと恐れたハーディの声に張りが戻った。それとは裏腹にロブロの脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。


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