第二章 黒い影(4) アイクアリー教の拡大(1)
ハーディがどれだけ取り締まろうがアイクアリー教は地下に潜り、徐々にログヌスに拡がっていっていた。その中心は白の司祭リューク。彼が行く先々に人が集まりアイクアリー教の教義を聞いていた。その教義とは平等を旨とし、貴族も武将も平民も、そして、男と女の間にも格差はないというもの。元々ハーディは庶民も戦う者にも何ら格差はないという考え方であった。そのためハーディの取り締まりは甘かったのかも知れない。あちこちで宗教的な集まりがあり、アイクアリー教を広める為の結社が造られていた。
エラの街中での学習は既に終わっていた。今は別邸の中での座学が多くなっていた。その教授はタリスだけだったはずだが、今はリュークという司祭の講義の方が多くなっていた。
エラはその講義を聴かせる為、自身がこれと思った者達を別邸に呼び寄せていた。
その事には当然箝口令が敷かれ、その間はキーンが別邸を封鎖した。
キーン、五年ほど前ポルペウス奥の院の偵察に出かけ何ごとも無く帰ってきていた。が、それからの行動は変わっていた。エラの警護を買って出、今はエラの個人親衛隊のようになっている。当然エラの別邸に出入りする司祭やディアスらしき男のことは知っていようが、ハーディにそれらは報告されていない。
キーンの戦績は他の武将に比し、それ程でもなかった。それをキーンは負い目に感じていた。が、ハーディはその事を何とも思っていなかった。彼には彼の役割がある。ハーディの考えはそうであった。しかし、その考えはキーンには通じていなかった。だからこそハーディが求める総てに力以上に応えようとした。その中の一つがポルペウス奥の院への偵察任務だった。
足を踏み入れたポルペウス奥の院一帯はキーンの予想を裏切るものばかりだった。先の大戦の大爆発で朽ち果てていたはずの奥の院は復興し、いたる所に花が咲き、緑が美しかった。
その中に一人の男が立っていた。鈍く銀色に輝くローブを纏った司祭、リューク。
彼はキーンに手招きをした。その手に誘われ、キーンは部下を後において前に出た。
キーンはリュークの手招きのまま奥の院に入った。その中には大きな石像があった。その姿は異形の神、その足下には幾つかの扉があり、その一つにキーンは入った。そこで見、そして感じたものは・・・・
リュークの話を聞く事が多くなった。が、それでも相変わらずエラはディアスを求めた。
ディアスと床を共にする時、エラの情熱が燃え上がる。それは当初よりも激しくなっていた。その様子はディアスの性奴・・そう言えるのかも知れなかった。
「そろそろかもしれぬな。」
リュークは傍らの男に笑いかけた。
その男はバルハード。彼は相変わらずリュークと共にあった。
「明日、また講義を行う。その後に・・・」
リュークはまたも唇を歪めた。
翌日の講義が終わり、リュークはエラと二人になった。
「紹介しましょうか。」
リュークは一人の男を呼んだ。それはバルハード。
「私の片腕です。
私の宗教を拡げようとする貴女を陰ながら守ります。」
そしてもう一人・・少女と言ってもいいほどの美女が一人。
その少女はリリム・・夜魔の女王リリスが産んだ多くの子の一人。
「今はディアスの精を躰に受けその若さを保ってはいますが、いずれは貴女も衰える、その時ディアスは・・・」
確かにディアスはいつまで経っても若い。だが自分も・・・エラにはその自負があった。
「鏡を見てごらんなさい。」
エラはリュークに言われるがままに姿見の前に立った。そこに映っている己の姿は・・・頬は弛み、幾筋かの白髪までを交えた四十過ぎの中年の女。
「いやぁぁぁ」
エラは悲鳴に近い声を上げ鏡から眼を逸らした。
リュークはニヤリと笑って尚も言葉を続けていく。
「それが貴女の現在の本当の姿です。
もう一度鏡を見てごらんなさい。」
エラは恐る恐る鏡に映る自分の姿に目を遣った。
そこにはエラが思う若々しい自身の姿があった。
「その美貌と若さを保ちたくはありませんか・・ディアスに愛され続けられるよう。」
頷くエラに少女が近づく。
「その少女の名はリリム、彼女の精が貴方の若さと美しさを保ちます。
いかがですか、彼女を貴女の中に受け入れませんか。」
受け入れる。・・・エラにはその意味が分からなかった。
鏡に映る自分の姿がもう一度中年の女に変わり、そこにはいないディアスが鏡の中で背を向けた。
「老いたくない・・・」
微かな声を漏らすエラに少女が寄り添った。
「若いまま、ディアスと・・・」
エラの躰と少女の躰が重なっていき、重なった部分から鏡に映る自分が若返っていく。
「このまま・・・」
エラとその少女の姿は鏡の中で完全に重なり合った。




