第二章 黒い影(2)
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イシューが治めるルミアスではアシュラ族の男が初めての成人を迎えた。十五になった者はルミアスの外に出され新たな生活を始める。台地に居座るヤフー人の東隣に新たな地域クゥィランドを建設し、そこを一つの国となす計画が実行に移された。当初はエルフ族も手伝うがその後はヤフー族と共同で国造りを行う。台地の南には温厚なピクト人、ルミアスとは高い山を隔てて住む、これも温厚な尾のある人、有尾人が住んでいた。ルミアスを囲む草原は豊穣であり多くの人族が住んでも充分に満たされた。
だがそこにも暗い影が押し寄せていた。アッティラ族、以前イシュー達が会った野蛮な一族、それが、食と金と女を求めてこの辺りをうろつきだしていた。
ヤフー人は槍を手に闘えば強かった。が、個々の闘いには強くても塊として動く知識はなかった。それを埋め合わせるのがクゥィランド・・とイシューは考えていた。
アッティラ族はヤフー人の台地だけでなくピクト人の村々にも出没した。それに対抗する為ピクト人達はアマゾーンと呼ばれる女の傭兵を雇い入れた。がもう一つの集団、有尾人達はそれに対抗する手立てを持っていなかった。その為アッティラ族にいいように荒らされていた。尾は有っても有尾人の女は美形が多かった。それもアッティラ族の狙いの一つだった。
今日も有尾人の集落がアッティラ族に襲われていた。そこに飛んできたのが小さく短い矢、子供の玩具のような矢ではあったがその勢いは強かった。その矢の勢いに怯むアッティラ族に、真っ赤な鎧兜を身に着けた子供のような一団が押し寄せてきた。
子供・・・それは小人族ピグマイオイだった。
ピグマイオイはこの百年ほど前に、有尾人が暮らす一帯の森の奥に住み着いていた。それが何を思ったのか突然有尾人の手助けを始め、アッティラ族と敵対関係を執った。
四囲の情勢がどうあれルミアスは安泰だった。昔の地名のままのアンダラーで採れる金銀で国内は潤い、ポラドゥ達の恩恵もあり二の街辺りの耕作も上手くいっていた。
ツクヨミの神殿もできあがり、そこには像としてのツクヨミが祀られた。
だが一つ問題もあった。ポラドゥ達が二の街に移ってから後、東南の森でたまにエルフ族とは相容れぬドワーフ族の姿が目撃されるようになっていた。
遂にイシューは意を決した。自身が五十人の兵士を率いドワーフが現れるという一帯に遠征することにした。以前行った東の谷から森に入り詳細に踏査していくと、森の中の断崖に洞窟の入り口らしきものが遠目に見えた。
イシューは三人ずつ三組の斥候をたてた。
今のルミアスの兵の中には戦闘を知らぬ者が多数居る。今回の踏査はその訓練も兼ねていた。
恐る恐る森の中を進む斥候の一隊が突然一人のドワーフに出くわした。イシューにはドワーフを見たら引き返して来いと言われていたが、思わず手が出た。
接近戦になるとドワーフの戦闘力はエルフのそれに勝る。一人が軽傷を負い、もう一人が深手を負い、這々の体でイシューの下まで帰ってきた。
三人は口々にドワーフの方から手を出してきたと言いつのり、報復を迫った。が、イシューは三人の眼を見、その嘘を見抜いた。
イシューは五十人全てを帰しダイクをそこに呼び寄せた。
「ドワーフ族が攻めてきたって。」
ダイクは開口一番に苦い顔で言った。
「多分違うだろう・・戦闘になれてない者達が、突然異種族と遭遇し思わず手を出した・・ってところだろう。」
イシューもダイクとは違う意味で苦い顔をした。
「ドワーフ族の属性は土、多分彼等はこの先の洞窟の中に、地底王国を造っているに違いない。」
イシューはダイクの眼を見た。
「そこの王に会いに行く、お前と二人でな。」
「何の為に。」
「共存・・彼等がこの森に出てきたのは狩りか木の実を集める為だろう。
以前からそうしたかったのだろうがポラドゥの眼がありそれが出来なかった。それがここに彼女が居なくなり、ぼちぼちと出てきた・・ならば彼等と共存するしかない。」
「ドワーフとかい。」
ダイクの貌は益々苦くなった。
「お前までが・・あまり不穏当な言葉を使うなよ。
戦争は出来ない。」
イシューとダイクは森の奥に入っていった。
洞窟の入り口がある、それはそれ程大きなものではなかった。
「ここに砦を造って兵を常駐させれば・・・」
「馬鹿なことを言うな。」
イシューはダイクの声を途中で打ち消した。と、話している内に一人のドワーフの影が・・・怪我をしているようだ。
イシューは懐から法螺貝を取り出し、それを吹いた。するとそこからツクヨミガ現れた。
「珍しいですね、フェイではなく貴方が私を呼び出すとは・・・」
その場に立ったツクヨミにダイクは驚いた。
「ほんとうに・・・」
「いるんだよ。お前には話していただろう。」
イシューはダイクに笑いかけた。
その間にツクヨミはその場にいたドワーフに治癒の魔法を掛けた。
「お前等などに・・・」
徐々に傷が治っていくと、ドワーフは立ち上がり、憎々しげに毒づいた。
「貴方の王のところに案内してくれないか。」
誰が・・とイシューの言葉に背を向け走り去ろうとしたドワーフの動きが急に止まった。
「案内をお願いします。」
ツクヨミの美しく静かな声が響き、ドワーフは先に立って歩き出した。
洞窟の入り口を潜って暫く行くと広くなった所にドワーフの兵士達が屯していた。
何者だ。どこに行く。と次々とイシュー達に声がかかる。がそれらは片っ端から眠りに落ちた。
「催眠です。」
ツクヨミがあっさりと言った。
ドワーフの地下王国の名はドゥーリア、そしてその王の名はドーリン。
イシュー達はその王の前に立った。
エルフ族とは仲の良くない兵士達は殺気だったが、美しい女装の神ツクヨミの姿がそれを和らげた。
無用な摩擦を避ける為ドワーフ達の狩りは地下王国の南の森に限り、ルミアスの領土内にある森では木の実採りと、畑を作ることを認めた。
こうやってエルフ族とドワーフ族の共存は成った




