第一章 白狼に育てられた少年(21) 脱走(2)
そして春の四季祭。二つの大きな闘技団の監修の元、壮大な闘技祭が開かれる。ルード達の支配者の元に闘技王を決める為の一気に二十数人が闘技を行う乱戦の打診があった。出場者はクローネと今は無制限の部で戦い続けるルード。つぶし合いになる・・支配者は躊躇した。が、ここでの興行権を失うぞ。との脅しに彼は屈した。
四季祭、七日にわたって闘技祭が行われ、そのとりを締めるのが二十数人による乱戦。二つの闘技団からは七名ずつ、ルード達の闘技団からは二人、もう一つの中程度の闘技団からは四人、その他個人参加も含めて三十人近くなっていた。
「狙われるぞ。私から離れるな。」
闘技場に入る前にクローネはルードに耳打ちした。が、昨夜から狼の遠吠えがうるさい。ルードにはそちらの方が気になっていた。
七日目最後の試合が始まった。案の定、二つの大きな闘技団と中程度の闘技団の剣闘士は徒党を組んでいた。それに対しクローネとルードは背中を会わせ彼等の攻撃をしのいでいた。
「協力しろ、さもないとお前等も死ぬぞ。」
クローネは三つの闘技団以外の者に大声を掛けた。その声に剣闘士達が二つに別れた。数の上では三つの闘技団の者達が多かったが、クローネとルードの実力がその数を凌いだ。
闘技場は修羅場となった。そして最後に残ったのがルードとクローネ、観衆は最強のものが決まると固唾を呑んだ。
「あんたには勝てないよ。」
クローネが闘技場の中に引かれた円の外に片足を出した。それが降参の印。観衆は騒いだ。その時、闘技場の壁の上に一頭の白い狼が・・・
その狼は良く響く長い遠吠えを上げた。
「母さん・・・」
思わずルードが呟いた。
闘技場の観客席に無数の狼達がなだれ込んでくる。狼達の攻撃に観衆は恐慌に陥った。
その騒ぎの中、一頭の仔牛ほどもある大きな白狼が闘技場に降り立った。それは自分と一緒に育った白狼に違いない・・とルードは思った。
その狼がルードに目配せをして鍵がかかり二人の剣士が守る入り口に突進した。ルードもその後を追う。
「いい仲間じゃないか。私も一緒に行くよ。」
クローネもその後を追った。
「ソリオも・・・」
クローネはそのルードの声に頷いた。
大きな白狼が、入り口にかかる鉄の鍵を噛みちぎった。通路には槍を持った兵士達。白狼は鋭い爪を立て通路の壁を走った。その後にはごろごろと兵士達の死体が転がった。
ルードは剣闘士が入れられた檻の錠前を手にした剣で次々と叩き壊していった。
自由を得る為、剣奴達が通路に溢れ、闘技場の出口に殺到する。
何を思うかルードはその喧噪の中を闘技場の砂の上に戻った。その横には白狼とソリオを従えたクローネが立っていた。
行くぞ・・と。ルードが強い眼と共に闘技場の壁に向けて走り出した。
壁を軽々と越え、狼に襲われ狂騒する観客席の中を走る。前に立つものはささくれだった剣で斬り捨てた。
ルードの危機には母なる白狼ともう一頭、彼に刃を向ける者を噛み千切った。
ルード達は闘技場を出た。その前にはルードの自由への道を切り開くかの様に無数の狼達が暴れ回っていた。




